第4話 目標


「いやー……やっちゃったねえ」


 街を飛び出して槌の街周辺の草原までやってきた私たちは、顔を見合わせて困ったように笑い合った。


「もし私が逆の立場だったら、絶対今頃騒いでるよ」

「このゲームの目玉だもんね。……っと、それよりクエストの話クエストの話」


 さすがに街の外まで追いかけてくる人はいなかったことを確認すると、私たちは再びクエスト画面を開いてその画面をのぞき込んだ。


「やっぱりオーダークエストだ…………アストラルオークっていうのは?」

「さあ?少なくとも街の周辺にはいなかったと思うけど……基本スキルっていう方ならわかるよ」


 そう言うと、美紀は基本スキルの説明を始めた。


「そもそも、OOOではスキルがツリー状に連携してて……そうだなあ。例えるなら、パンチってスキルのレベルを上げていくと、その上位スキルのナックルが手に入るって感じかな。それで、基本スキルっていうのはここでいうところのパンチがそれに該当するの」

「なるほどー」


 つまり、初期スキルやクエストなどで新たに手に入るスキルが基本スキルで、スキルレベルを上げることで新たに手に入るスキルが上位スキルということだろう。


「そうなると、基本スキルのみっていう縛りは…………どうなんだろ?」

「うーん……アストラルオークっていうのがどのくらい強いかもわからないし、基本スキルと上位スキルの差も今のところまだわかってないからなあ」

「まあそうだよねー。どの道とりあえず冒険してみるしかないのかな?」

「多分!」


 OOOにはゲーム内ストーリーというものがなく、プレイヤーはゲーム開始時点からいきなり大海原へと解き放たれる。そこで何をするかはプレイヤーの自由となり、モンスターを倒して装備や素材を集めるもよし、生産系スキルで何かを作ってみるもよし、フィールドを探索してアイテムの採集をするもよし。初期スキルや最初の街で得られるスキルを駆使して、プレイヤーの自由に思うがままゲームを遊べというのがOOO運営の方針というわけだ。

 そんな中で私たちは、ゴリゴリの戦闘プレイヤーを目指すというのを方針として掲げていた。というのも美紀がVRゲームで戦うことが好きなので、美紀に誘われてプレイしている私も美紀に合わせてそういうプレイをするというだけの話なのだが。


「まあ、まずは適当にモンスターと戦ってみながらアイテム収集かなー?レベルがないから急いで次の街とかに行く必要もないし」

「あー、たしかにいつものRPGならレベルがある程度上がってきたら次の街って感じするけど……この場合はどうなるの?」

「んー。もし攻略情報が出揃ってるなら、欲しいスキルが貰える街にだけ行けばいいって感じだけどね。今はサービス開始直後だし、せっかくなら近い街から一つ一つ行ってみたいなーなんて思ってたけど……」

「けど?」

「……こうなったら、アストラルオークっていうのを倒しに行きたくない?」

「……!」


 私のためか、はたまたただのゲーマーとしての好奇心か。笑顔でそう言う美紀に、私は感謝と少しの後ろめたさを感じた。


「でも、いいのかな?オーダープレイヤーって通常プレイヤーとは敵対関係だったよね?」

「あくまで設定上では、でしょ?もしかしたらパーティーとかは組めなくなるかもしれないけど、絶対に一緒に遊べなくなるってわけじゃないと思うよ」

「それもそっか」

「それに、私もオーダープレイヤーを目指せばいいわけだし!」


 グッと親指を突き立てる美紀。


「ふふっ。美紀、なんか嬉しそうだね」

「それはほら、せっかくならオーダープレイヤーを目指そうかなって思ってたんだけど、オーダープレイヤー自体もオーダークエストを探すのも結構大変そうだったからさ、天音にどうその気にさせようかなーって考えてたから」


 美紀のその言葉を聞くと、どこか私の中にあった後ろめたさは消えてなくなっていた。内心では私もそれなりのやる気を感じていたのだが、今は美紀のその厚意にあやかっていようと、私はその想いを胸に秘めておくのだった。

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