第20話 消えゆく火
なんと僕の両親が勤めていた会社が、不況の煽りを受けて倒産したのだ。
夫婦二人とも失職をして、しかも不況の中で次の雇い口は見つからず、僕の家は大混乱に陥ってしまったんだ。
父親も母親も、毎日酒浸りになっては暴れて、しまいには僕の大事な思い出のモノから、大事な教材から、何までボロボロにして、破壊しやがったんだ。
僕は、悲しくて、悔しくて、恐くて、泣き叫んだ。
泣き叫び続けて、遂に喉は完全に潰れてしまった
僕の心と身体はどんどん荒んでいった。
もう大事な喉は潰れた。身体も完全にボロボロになってしまった。
オーディション行きは、諦めざるを得なかった。 僕の夢への道は閉ざされてしまった。あれほど大好きだった歌に、近づくことすら恐くなってしまった。
結局、何とか卒業はしようと思って惰性で単位を取って、卒業してからはライブで使うような音響機器を作るメーカーに就職した。
そして、亡くなってから放置されていた祖父のパジェロもどうにか直して、形見として乗り続けることにした。
歌が恐いなんて言って、音楽に関する会社に就いて働いてたんだから、結局僕は歌、音楽が大好きなのかもしれない。
・・・・で、まあ、その会社すら結局たった五年かそこらで辞めて今に至るってわけさ。
こうして、僕はとわに全てを話した。とわは、ゆっくり聞き入るように、目をすっと閉じながら、うん、うんと頷いていた。
「・・・・そうだったのね。ありがとう、話を聞かせてくれて。」
「いえいえ。確かに、僕も自分の事をちゃんと、とわに打ち明けられてなかったからさ・・・。まあ、そういう男なんです。白瀬凛歌ってのは。 あ、そうそう。とわ。お昼は何が食べたい?」
うーん。 ・・・・たぴおかと、なたでここ とわは、ゆっくりとそう答えた。
そうこう話し込んでるうちに、僕たちは何とか繁華街まで辿りついていた。
パジェロをコインパーキングに止めると、僕らは少し小洒落た喫茶店に入り、とわはタピオカドリンクとナタデココのデザート、そして僕はサンドイッチのセットを頼んだ。
サンドイッチを少しずつついばみながら、そう言えば、自分のかつての事を振り返ったのって久しぶりの事かもなあ・・・・なんて考えていた。 今の冷めきった自分とは違う熱い思いを抱いていたあの頃、そして様々な環境の変化によって好きだったものがトラウマものになってしまった事、そしてそれでもやはり自分の心には音楽が残り続けている事。
あの時みたいな、熱を持てるような何かに出会えたら、どんなに楽しいだろうか。
いや、でもまた谷底を味わうことになるのも恐い。
・・・・でも、それでも、またどこかでまた熱くなれるもの、心酔できるほどの何かに出会いたい。 そんな気持ちが心の隅で転がっていたことに気付いた。
食べていたサンドイッチに塗り込まれていたマスタードの辛味が、妙に舌に刺さった。
その後、僕らはいつもよりちょっといい旅館の予約を取り、宿泊することになった。 流石に料金が張るのもあって、部屋の中も立派だったし、フカフカのベッドはこの世の極楽か、というくらいに気持ちがよかった。
丁度夕飯時になったので、ホテルの中にあるレストランで、とわと二人で食事を楽しんでいると、とわがこう切り出してきた。
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