第2話 森の中の少女
どうやら目の前にいるのは少女の様だった。
歳は・・・多分十代後半と言ったところだろうか。
服装は時代錯誤に感じてしまうような和装で、まるで人形のような凛とした顔立ちに、透き通るような白くて長い髪と肌を月の光に照らされながら佇む彼女は、さながらこの世にいる生き物とは思えないような美しさだった。
思わず見とれていると、はあ・・・・と深いため息をついて、少女は再び話し出す。
「もう一回言うね・・・死ぬつもりな・・・」
「わかったわかった。 この後どっか行くから。 ところで君は誰なんだ? なんでこんなところにいるの?」
素朴な疑問をぶつけてみた。 だってそうだろう? どう考えたってこんな森林の奥で、しかも真夜中にこんな若い子がいること自体おかしい。いや、さっきまで茫然自失状態で樹海を歩き回っていた僕も大概だけれど。
「何って・・・。そこにある神社に住んでるのよ。 『森乃宮神社』っていうの。」
彼女は誇らしげに、奥にある建物を指さした。
・・・正直、建物そのものは立派だが、手入れがあまり行き届いていないのか、かなりボロボロでお世辞にも綺麗とは言えず、正直言ってお化け屋敷に出てきそうな風貌であった。
「はあ~こんなとこに神社があるなんて初めて知ったよ・・・。」
「ん~まあ、こんな森の奥にあるし、誰も気づいてはくれないわよね。 まあ見ての通り見た目がちょっとくたびれているから、廃墟だと思われてるのかもね。来るのは、夜中に木に首をくくりにくるやつぐらいよ・・・アンタみたいな。」
いや、ちょっとどころじゃなくボッコボコだと思うんですが・・・というツッコミはさておき、実際自分の家のようなものの敷地の木で一々首を吊られたらそりゃ嫌な気分にもなるわな・・・・と思った。 実際、よくよくこの敷地にある木の枝を見ると何かロープか紐かをかけたような跡が多数あり、この少女が言っていることはおそらく事実なんだろうと思わせるには十分なものだった。
そして、少し物憂げな表情をして話を続けた。
「・・・でも一応、ここで亡くなった人は、私もちゃんと弔っているのよ・・・遺品だってちゃんと整理して一緒に送り出してるし・・・。本来はこれ、お寺さんと葬儀屋さんのお仕事なんだけれどね・・・。」
「そうだったのか・・・道理で敷地に遺体みたいのが残ってないわけか。あんたも大変なんだな。」
「ほんとよ。だから私もつい言葉を荒げちゃうわけさ・・・。 しっかし、なんでみんないつかは尽きる時がくるのにわざわざこんなことしにくるのかなあ・・・。私なんて死にたくても死ねないのにさあ。」
ふーんそうな・・・・ん?いやおい待て。今さらっと違和感ある言葉が入り込んじゃいなかったか? もう一度聞きなおしてみる。
「あ、あの、なんか物騒な言葉が入ってなかった? い、今死なないって・・・。」
「ええ、言ったわ。『私は死ねない』って。私、死ねないの。」
シレっとした顔しながら、少女はサラッと言ってのけた。
いやいや、そんなはずはない。人間だって動物である以上、いつかその時は来る。それは紛れもない事実だ。誰も逃れられない、自然の定理であるのだから。
流石に冗談にしてはキツすぎないか?・・・と思いつつ、僕は少し啜り笑いをしながら、彼女にこう返した。
「ハハ、冗談はよしてくれよ。いくら神社の子だからってそんな神様みたいな事・・・」
「あるのよ。本当に死ねないわ。・・・信じてもらえないなら、今から証明してみせるわ。」
そういうと、彼女はおもむろに懐から包丁を出したと思えば、胸にそれを突き立てた。
「じゃ、今から証明してみせるから。」
え、おいちょっと待て。それは本当にいけないやつ。早く止めねば・・・と動こうとしたその時、彼女は思いきり包丁を振り抜いていた。
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