第3話 証明

「じゃ、今から証明してみせるから。」


え、おいちょっと待て。それは本当にいけないやつ。早く止めねば・・・と動こうとしたその時、彼女は思いきり包丁を振り抜いていた。


グサッ・・・・と鈍い音が耳を貫いた。 僕は思わず、うわあああああ・・・・・と声を張り上げて目をギュッと閉じてしまった。


目の前で起きているであろう惨劇に、向き合う自信はなかった。


・・・・それでもなけなしの勇気を振り絞って、ゆっくりと瞼を開けると、そこにはやはり、予想した通りのすざまじい光景が広がっていた。


「・・・・・っっ・・・!!??」


胸には深く包丁が突き刺さり、色とりどりの美しい着物が深い赤色に染まっていく。


「・・・・っくっ・・・・!!」


彼女は苦悶の表情を浮かべながら、それをゆっくりと引き抜く。更に、そこから濁流のように血があふれ出す、地獄のような光景だった。


そのまま彼女は傷口を手で押さえたまま膝から崩れ落ち、倒れこんで気を失ってしまった。


僕は思わず腰が抜けて、ふらふらとよろけながら尻もちをついて、それを見せつけられていた。自分がさっきよろけてコケた時の血の量なんてものじゃなかった。

彼女の胸からマグマのように、血は流れ続ける。

本当にこれは事が切れてしまう。 どうにかしなきゃと思いつつも、完全に圧倒されて身体に力が入らないでいる時、僕はとんでもない光景を目にした。



血が・・・・止まっている!?


なんと、止血も何もしていないのに、彼女の胸から流れ出ていた血が止まりはじめ、それと同時に彼女の傷口がじわじわと塞がり始めていたのだ。 あれほど深く刺して、傷を負うだけでは済まないようなものだったのに。


目の前で起きている超常的な現象に目を白黒させていると、少女はうめき声をあげながら、ゆっくりと動き出した。



「ヴヴヴんん・・・・いったたた・・・やっぱあんなん刺すもんじゃないわね・・・。着物も血だらけにしちゃったし・・・。ん?どうかしたの?これでわかってもらえたでしょ。」


そう言いながら、遂に彼女は立ち上がった。


なんと彼女は、胸に包丁を深く刺したというのにその傷をいとも簡単に治癒してそのまま生還してみせたのだ。



まだ何が起きているのか理解ができないまま尻もちをついていると、彼女はため息をつきながら、屈んで僕の顎を掴んでクイっと持ち上げると


「ね、言ったとおりでしょ、私は死ねないって。これで分かってもらえた?」


透き通るように綺麗な青い瞳をじっとこちらに向けて、どこか寂し気な、くぐもった表情をして僕に訴えかけてきた。


見た目の年齢だけで言ったら、僕より一回りは若いような感じなのに、この子は一体、どんな景色を今まで追ってきたんだろう。どれだけの移ろいゆく時代、人を見てきたのだろう。今までどんな辛いものをその目で見てきたのだろう。 考えただけでもいたたまれない気持ちになってくる。



「不死身なんて何処か響きがよく聞こえるかもなのだけど、そんなことは決してないわ。もうあたしの肉親はいないし、昔よく訪ねてきてくれていた友達なんてみんなもうこの世にはいない。 もうあたしと話をしてくれる人なんて誰もいない。  いつもいつもこの森の中でただ日が昇って落ちてゆくのを見届けるだけ。死のうたって、死ねないし。だからこうして、せめて家族が残してくれたこの神社を守る事があたしの存在意義みたいなもんよ。・・・楽しかった思い出と生きていくことさえできれば、私はそれでいいから・・・。」


そうは言ってはいたけれど、まだ彼女は悲しそうな、薄寂しいような表情を見せていた。

まだ出会って何分と経っているわけでもないし、まだ彼女の事を深く知ったわけでもないけれど、なんだか自分も彼女も、どこか近いものを感じていた。生きてはいるのに、死んでいるような、この世をただただ漂流しているような・・・。そんなものを。


・・・なんだかんだ僕もまだ死ぬ気にはならなくなったし、どうせまだ生きていられるんだったら、この子に何かしてあげられないか・・・いや、動くべきなんじゃないかと思った。


・・・そして、二人の間に暫し沈黙が流れた後、僕はある一つの提案をしてみることにした。

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