第7話

 カーネリア達が見たのは、沈黙の山脈を越えた鳥使い達が伝えた通りの、荒涼とした大地だった。こげ茶色の土が覆う荒地が、地平線の向こうまで続いていて、所々に、畝の様に並んだ丘の連なりがある。到底、人間など住めそうにない。おそらく鳥使い達にとっては、危険を冒してまで行っても、何も得る者が無い土地だ。それなのにあの飛行物体は沈黙の山脈を越えて行った。こんなところに、小型飛行物体を操る人間が、潜んでいるのだろうか? しかしその謎を探る前に、疲労が鳥使い達を襲った。何処か地行く着地場所を探し、休憩を取らないと。

[ほら、あそこに着地しよう]

ベヌゥの背中から荒野を指し示すビルカの一言で、着地場所はすぐに決まった。平らになった大きな丘の頂上だ。鳥使い達はすぐにベヌゥ達を次々に丘の上に着地させ、二つの命綱を外して地面に降り立たつと顔覆いをとって荒野を見回した。

「やれやれ、何とか沈黙の山脈を超えられたね」

傍らで蹲るベヌゥの首を撫でながら荒野を見下ろすモリオンが、ぽつりと呟く。

「そう、やっとここまで来られたけど、あの小型飛行物体をどう探せばいいのやら……困ったもんだ」

モリオンに続いて、長老ビルカが顔をしかめながら話し出す。

「それにあの小型飛行物体が、実際に沈黙の山脈をこえたのかも解からないしな」

ビルカがしてきして言った事に、鳥使い達は全員反論できずに沈黙してしまった。そう小型飛行物体が、沈黙の山脈を超えられなかった可能性もあるのだ。しかし沈黙の山脈に立辿り着く前には、飛行物体らしき物は見かけなかった。見付かったのは、赤い光りを点滅させる、箱型の機械だけだ。ずっと飛行物体を探しながら飛行を続けていたのだ。樹海北端の森に落ちていたなら、鳥使いきかベヌゥが見付けていただろう。だがもし飛行物体が沈黙の山脈に中に落ちていたなら、探しだすのは難しい。何しろ超えるだけでも大変な場所なのだから。鳥使い達は考え込んでしまう。しかし暫くすると鳥使い達はある異変を目撃し、考え込むのを止めて行動に移った。鳥使い達がいる丘の下の谷間に、突然の人間が現れたのだ。

 人の姿を認めると鳥使い達は、すぐベヌウ達に丘の反対側の斜面に行くように命じ、自分達は大きく窪地の縁からときどき頭を出して、丘の上の窪んだ場所に身を潜め、窪地の縁から時々顔覗かせて、突然現れた人間の様子を窺がう。それにしても奇妙な人間達だ。普通の布ではなく、皮でもない素材の見た事も無い服を着た三人組だ。一人は青い服を着た髪の毛が金色の背の高い男、その横に居るのは金色の長い髪をして見た事も無い形のオレンジ色の服を着た女、残る一人は、薄い緑の服を着て髪の毛も肌色も黒い女だ。この奇妙な人間達は黒髪の女が持っている何かを見ながら、話し会っているようだ。はたして彼らは何をしているのか? 鳥使い達はこの奇妙な三人組の様子を見張り続ける。

 鳥使い達が見張り始めてしばらくすると、鳥使い達に気づかず黒髪の女が持つ物を見ていた奇妙な人間達が、急に空を見上げて意味不明の言葉で話し始めた。空に何かがあるらしい。鳥使い達が顔を上げて見ると、あの小型飛行物体の姿が見えた。やはりハリの本を盗んだ小型飛行物体は、沈黙の山脈を超えていた。しかも山を超えただけでなく、ほとんど無傷のままだ。驚くべき事だったが、鳥使い達には驚く間も無かった。ベヌゥ達が小型飛行物体の出現に感情を高ぶらせ、今にも飛び出そうとしているのだ。

[落ちついて、落ち着いて]

鳥使い達は落ちつくようにベヌゥ達の意識に働き掛け、ベヌゥ達が飛び出すのを押さえる。その間に小型飛行物体は、見知らぬ三人組に向かって降下すると三人の前に着地し、金髪の男が小型飛行物体を拾うと三人そろって歩きだした。ハリの本を盗んだ小型飛行物体は、この得体の知れない男女の物に間違いない。鳥使い達はベヌゥ達を落ち着かせると、実を隠していた窪みから飛び出し、なだらか丘の斜面を下って行く。見知らぬ男女を捕まえ、ハリの本を取り戻す事に、心を決めたのだ。しかし鳥使い達が丘を下って谷底に辿り着く前に、得体の知れない三人組は姿を消していた。それも急に。歩いていて突然、消えてしまったのだ。小型飛行物体と共に。呆気にとられながらも鳥使い達は、谷底に着くと三人組が姿を消した場所まで歩く。

「あいつらが姿を消したのは、此処のはずだ」

三人組が消えたあたり着くとクロッシュは、三人組が歩いた通りに歩いて見せ、突然何かにぶつかったように後ろへ下がった。

「おお、いたい」

クロッシュは暫く頭を撫でた後、目の前の空間を触る様にしてから他の鳥使い達を呼んだ。

「みんな来てくれ!」

クロッシュは興奮しているらしく、カーネリアが近寄るといきなりカーネリアの手をとり、見えない何かに触らせる。

「あっ、これは……」

つるつるした金属の感触が、カーネリアの指先に伝わって来たものの、目で見るとカーネリアの指先は、ただ何も無い空間を撫でているだけだった。

「確かに、何かがある……」

見えない何かがここにある。カーネリアはクロッシュと一緒に見えない何かを触り続け、それが金属の壁の様なものなのを確かめた。

「長老ビルカ、モリオン、ほら触ってみて、見えないけれど、壁があるわ」

カーネリアはビルカとモリオンを呼ぶと、二人に見えない壁を触らせる。するとすぐにビルカが驚きの声を上げる。

「たしかに壁だ。それも金属のだ。金属で建物を建てたのか」

「そうみたいですね、それより何処に入口があるのだろう」

驚くむヒルカに対して、次口を開いたモリオンは冷静だった。慎重に見えない壁を触り続けて入口を探り、やがて大人の目の高さの位置にある一か所で、手を止める。

「此処に何が飛び出たものがあるわ、何かしら?」

壁についている突起を探り当てたモリオンは、暫くその突起を撫でたり引っ張ったりしたあと、拳で突起をぐっと押す。すると突然モリオンの目前で扉の形をした空間が少しずつ現れ、見えない建物の入口が姿を現した。

「さぁ、入って見ましょう」

驚く間もなくモリオンは今まで見えなかった入口に足を踏み入れ、他の鳥使い達もモリオンに続いた。

 見えない建物の入口を潜ってまず足踏み入れたのは、狭い金属の壁に囲まれた狭い空間だった。四人が入れは少し狭くなる部屋には何も無く、ただ部屋の奥に扉があるだけだ。カーネリア達は全員が見えない建物の中に入ったのを確認すると、クロッシュと一緒に奥の部屋に向かった。ところが二人が扉の前に立った時、カーネリア達には考えられない事が起こった。何んと扉が横にすべるようにして壁に消えて行き、入口が開いたのだ。驚いたカーネリアとクロッシュは思わず扉の前から後ずさる。すると今度は壁の中から扉が現れ、入口を閉じてしまった。どうやらこの扉は、壁に仕舞い込まれる仕組みになっているらしい。こんなな動きを擦る扉など、いままで見た事も無い。一体なんの力が扉を動かしているのだろう。カーネリアは思わず部屋の中を見回し、扉の秘密を探そうとする。しかし部屋の中には何もない。ただモリオンが開けた建物の入口が何時の間にか閉まっていて、建物の入り口があったところは、カーネリア達を驚かせた扉と同じ扉で塞がれていた。どうやらこの建物の扉は、自然に開いたり閉まったりするらしい。鳥使い達は暫く扉の前に立ち尽くしていたが、クロッシユが再び部屋の奥の扉に近付くと、再び扉が壁のなかに仕舞い込まれていった。

「まったく奇妙な扉だ。開けるのには、前に立ちだけでいいみたいだね」

仲間に話し掛けるクロッシュの声には、驚きを通り越して感嘆していると言う響きがあった。それもそうだろう。この建物を作った人間達は、感嘆に値する技術を持っているのだから。クロッシュだけでなく、鳥使い達全員が、自然に動く扉を作った人間の技術に魅かれていた。

「さぁ中に入って、何があるか見てみようよ」

クロッシュに促され、興味津々の鳥使い達は自然に開いた扉を超え、何やら解らぬ機械が並ぶ部屋に入って行った。

「なんだこの部屋は、機械ばかりじゃないか」

部屋に入った途端に、ビルカが呆れたように言ったのも無理は無い。本当に機械ばかりなのだ。しかもその中には、あの小型飛行体も置かれていた。あの奇妙な連中達は、小型飛飛行体を置いて、姿を消したみたいだ。それも鳥使い達が見た事も無い様な機械ばかりで、しかも動いているように光りを点滅させたり小さな音がしたりしている。そして部屋の様子をしっかりと見たカーネリアは、この部屋は鳥使い達が知識の塔と呼んでいる建物の部屋とよく似ているのに気づいた。

 樹海周辺部にある知識の塔は、かつて人間を空からこの世界に運んできた乗り物だったと言われる建物で、この見えない建物と同じように金属で出来ていて、様々な機械がおいてある。ただ此処と決定的に違うのは、知識の塔の機械が動いていない事と、壁の一か所に、大きな窓がある事だろう。もしかしたらこの建物に居る人間達は、空から来たのかもしれない。カーネリアは頭でそんな考えを巡らしながら部屋の中を見渡し、視線を部屋に置かれた机の上に向ける。機械と機械の間に置かれた、これも金属で出来た机の上に古びた本が置かれていたのだ。間違いなく、ハリが書いた本だ。

「ハリの本が、此処にあったわ」

思わぬ発見を仲間に告げると、カーネリアはすぐさま机に走り寄りって机ハリの本を取り上げ、本が透明な袋に入れられているのに気付く。

「なによ、これ」

カーネリアは本を袋から出そうとしたものの、袋の口が見付からなかった。何処を開けたら解らず、仕方なく袋に入ったままハリの本を持ち去ろうとしたとき、鳥使い達は後ろに人がいるのに気付く。部屋に置かれた大きな機械の背後にいたのだ。

「お前達が入って来るのを、しっかり見ていたんだぞ……何をしに来たんだ」

後ろを見ると、褐色の肌色をして、黒い髪を短く刈りこんだ大きな男が立っていた。しかも鳥使い達が外で見た三人の男女を従え、手には筒の様な物を持っている。多分、武器を手にしているのだろう。カーネリアは以前、筒の先から光りを放つ武器を見た事があった。樹海周辺部の生き物を生け捕ろうとした人間が、持っていた武器だ。

「さぁ、盗もうとした物を返してもらおうか」

武器を手にした大男は、どこかたどだとしい言葉でカーネリアに話し掛けながら、鳥使い達に迫り、カーネリアはハリの本が入った袋を抱きしめ、大男にくってかかった。

「こっちが盗もうとしたんじゃない。あの空飛ぶ機械が盗んだ先祖が残したものを取り返しに来たんだ。そっちに渡すものか!」

武器を突きつけて来る大男に、カーネリアはあらん限りの大声で怒鳴りつける。

「ほおぅ、先祖のものだと……お前達はなにものなのだ? 言ってみろ」

「我々は樹海の鳥使いだ」

武器でカーネリアを脅し続ける大男に向かい、今度は長老ビルカが怒鳴り声を上げた。

「樹海の……鳥使いだと……」

鳥使いと言う言葉を聞いた時、大男の顔が驚きの表情に替わる。どうやら鳥使いが目の前にいるのに、衝撃を受けたようだ。

「本当に……鳥使いなのだな」

大男がカーネリアに問い詰めようとしたとき、自動的に開いた扉からもう一人、人が大慌てでいて来た。灰色の服を着た、黒髪で切れ長の目をした青年だ。息を切らして入って来た黒髪の青年は、理解出来ない言葉を早口で話し始め、大男は鳥使い達に向けていた銃を下に向けると、他の男女と解らない言葉で話し始めた。彼らが何を言っているのか、カーネリアにはさっぱり解らなかったが、まず青年が天を指差しながらしゃべっているのが見て取れた。黒髪の青年は、空を気にしているらしい。青年の言葉は鳥使い達にとって全く聞き取れない言葉だが、鳥使い達は青年に何があったのか、すぐ知る事が出来た。外に出てまた別の小型飛行物体を飛ばしていた黒髪の青年を、ベヌゥ達が空から脅かしたのだ。

 鳥使い達には小型飛行物体を置いて逃げ惑う青年に向けて低空飛行を続けるベヌゥの光景が、ベヌゥ達の意識から伝わっていた。光景の中で青年は、ベヌゥ達に追われながら手にした武器をベヌゥに向け、武器からオレンジ色の光りを発射するする。しかし武器から発射された光りがベヌゥ達の間をすり抜けて行った時、ベヌゥ達は首の後ろの羽毛を逆立てる怒りの形相になっていく。青年が使った武器が、ベヌゥたちを怒らせたのだ。もっともベヌゥ達を脅かせたのは、光りを放つ武器だけではない。その前に空を飛んで来て、青年の前に着地した小型飛行物体に興奮したベヌゥ達が隠れ場所から飛び立ち、青年の上空を低空飛行していたのだ。この部屋に一か所だけある窓からも、激しく飛び回るベヌゥ達が見える。おそらく黒髪の青年は、これ以上ないほどの恐怖を感じたことだろう。何しろ四羽ものベヌゥに、怒りの形相で脅されたのだから。しかしベヌゥ達は、まだ本気で怒ってはいない。自分達を攻撃してきた人間を脅かしているだけなのが、ベヌゥ達の意識から伝わって来る。もし四羽ものベヌゥが本気で怒っていたら、黒髪の青年はとっくに命を落としているはずだ。しかもベヌゥ達は、黒髪の青年が見えない建物に入っても、怒りの形相のまま上空を飛び突けている。そのため見えない建物にいる連中は、ベヌゥを恐れて外に出られなくなり、黒髪の青年が外に置いてきた飛行物体を回収出来ずにいるのだ。状況が鳥使い達に有利になったと見た長老ビルカが、この時とばかりに攻勢に出た。

「お前達が、あの飛行物体を飛ばしているのだな。しかも飛行物体に火を放たせて、野生のベヌゥに傷を負わせた」

ビルカが大男に詰め寄りと、大男は少しに詰まったよう表情をしてから、ビルカに反論する。

「お前達の言うベヌウゥ…あの大きな鳥に怪我をさせたのは事故だったのだ。危険から逃れようと速度を速める時に放ったが火が、大きな鳥を傷付けたのだ……信じてくれ……それにドローン……飛行物体はもう飛ばす予定は無い。外に置いたままのドローンを拾ったら、すぐに此処を出る準備をする」

「本当に、そうなのだな」

反論する大男をビルカが睨み付けると、大男は両手を上げて見せる。どうやらこれは、降参の合図らしい。大男に抵抗する石の無いのが解ると、ビルカは大男の傍から離れた。

「よし、信じてやろう。お前達が何者かは知らないが、先祖の本を返して忌々しい飛行物体を持って此処を去るのなら、ベヌゥ達を大人しくさせてもいいぞ」

ビルカが大男とその仲間達に向かって言い放つと、大男は仲間の顔を窺がってからビルカに答えた。

「本は返す。だが手で行くのは……出来ない」

ビルカと向き合いながら、大男は相変わらずたどたどしい言葉で訴える。

「あのでかい鳥を、止めてほしい。でも……此処からは出て行けない」

「何故だ!」

「此処にいるのが……命令だからだ」

「命令?」

大男の言葉に今度は鳥使い達が、頭をひねる。命令とは、何なのだろうか?

「命令とは、だれの命令だ」

「我々が……所属してといる組織の命令だよ。我々は所属している組織からの命令で……この世界を調べにきたのだ。ドローンにお前達が言う先祖の本を持ち帰えらせたのも、この世界を調べる為だったんだ」

大男は鳥使い達に何とか理解してもらおうと、たどたどしい言葉で懸命に説明し続ける。

「私達はこの世界の外から……この世界を調べる為に空を飛んで来たのだ。解るか?」

「あぁ、解る。我々の先祖は、空の向こうの世界から来たと言われているからな」

ビルカが自分達の先祖の話しをすると、大男の表情が、驚きの表情になった。ビルカが大男とその仲間が別の世界から来たことを理解し、さらに自分達の先祖が別の世界から来たと言ったのが、大男を驚かせたようだ。しかし大男は直ぐ元の表情に戻り、ビルカに問い掛けて来る。

「何故知っているのだ……先祖が別の世界から来たことを……」

「鳥使い達の先祖が記録し、代々伝えてきた事だ。それがお前達と、何の関係かあるんだ」

ビルカが激しい口調で捲し立てたが、大男はもう表情を変えず、冷静さを保ちながらビネカに答える。

「先祖が空の向こうから来たことを、君達が知っていたからだ。まさかこの事実を知っているとは……他の人間達は知っているのか」

「いいや、知っているのは、鳥使い達だけだ」

「そうかあ……」

大男はビルカとのやり取りを止めると、何やら試案を始め、暫くして考えが纏まると、再び口を開く。

「解った。此処から立ち去って、空にもどろう。だがその前に、あのでかい鳥を大人しくさせてくれ。ドローン……私達の空飛ぶ機械を取りにいきたいから。本はそのまま持って行ってもいい」

「よし、そうしよう」

大男との取引が纏まると、鳥使い達はすぐにベヌゥの意識に働き掛け、怒りの形相のベヌゥ達を大人しくさせると窓の前に着地させた。

「さぁ、これでいいでしょう?」

カーネリアは本を持ったまま窓の傍に近寄り、外のベヌゥ達に目をやった。地面に並んで蹲っているベヌゥ達には、もう怒りの形相は無い。これで一件落着だ。今は見知らぬ人間達も、鳥使いと一緒に窓からベヌゥを見ている。カーネリアは暫くベヌゥ達の様子を見た後、大男に近寄ると袋に入ったハリの本を差し出した。

「ごめんなさい。開け方が解らないの」

カーネリアが小声で言うと、大男はカーネリアが持つ袋の縁の一つを指でなぞり、袋の口を開けて見せた。カーネリアはちゃんと袋が開いたのを確かめるとハリの本を袋から取り出し、透明な袋を大男に渡した。

「はい、これでいいでしょ」

「ああ……それよりもう一つ、返してもらえないかな。そこの君が持っている機械を」

大男はクロッシュを指差しながら言う。よく見ると、クロッシュの騎乗服のポケットの一つから、赤い光の点滅が、透けてみえている。沈黙の山脈を越える前に拾った機械が、ずっとポケットに入っていたのだ。

「あっ、これだね。返すよ」

クロッシュはポケットから機械取り出すと大男に渡し、大男は機械が無傷なのを見ると、今度は自分のズボンのホケットに入れた。

「ありがとう……明日此処を立ち去る事にしたから。空にいる仲間には、後で説明しておくとしょう。出来れば明日の日暮れ頃に、向こうの山脈を見ていてくれないから。山脈から光りが空に昇るのが見えたら、それが此処を跡にして、空に戻った証拠だ。それからもう一つ、此処で見聞きした事は、他の人間には話さないでくれ」

「よし、そうしょう」

これで大男達との取引が終った。後は樹海に戻るだけだ。

「さぁ、此処を立ち去るとするか、さらばだ」

全てが終わってビルカが仲間に声を掛け、大男達に分れを告げると、鳥使い達は窓から離れ、大男たちと共に部屋の外へと向かった。機械が置いてある部屋から外への扉がある狭い部屋に来ると、大男は扉の真ん中に手を当てて扉を開ける。鳥使い達は扉から外に出ると手を振って大男達に別れを告げ、扉が自動的に閉まるのを見届ける。そして扉が閉まって見えなくなると、鳥使い達は地面に蹲るベヌゥ達の元に向かい、ベヌゥの背に乗る。ハリの本は、カーネリアがブルージョンの騎乗具の物入れに入れて置いた。気が付けば空もう夕暮れ間近になっている。鳥使い達は顔を顔覆いで覆い、二つの命綱をしっかりつけるとベヌゥ達に声を掛けて荒地を飛び立ち、沈黙の山脈に向かった。


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