第5話

 鳴きざわめくベヌゥの群れが突然姿を現すと、カーネリア達の頭上を旋回し、野生のベヌゥ達に合わせて、ブルージョンも鳴きだした。どうやらハリゆかりの品に、手を付けてほしくないないらしい。カーネリアは慌ててナイフを元の場所に戻すと、イドで野性のベヌゥ達に呼び掛ける。

[もう大丈夫、誰もハリのものに触らないから]

しかし野生のベヌゥ達は、カーネリアの頭上で鳴き続ける。まだ何か知らせる事があるのだろうか? カーネリアは野生のベヌゥ達の様子を見続け、野生のベヌゥ達が無数にある穴の一つの上空を、旋回しているのに気付いた。あの穴の中に、何かがあるらしい。カーネリアは野生のベヌゥ達が知らせてくれたくれている穴に、ブルージョンと一緒に近付いて行く。

 カーネリア達が目的の穴に近付いて中を除き始めると、上空を旋回していた野生のベヌゥ達が一羽ずつ穴の上空から離れ、三羽を残して姿を消して行く。カーネリアが来てくれて、安心したとでも言うように。残った三羽は、おそらく見張りなのだろう。ベヌゥの見張りに見守られながら、穴の様子を窺がう。穴の縁から中を覗くと、わりと深さのある竪穴なのが解った。しかも周囲は垂直の壁になっている。しかし下りて行く手掛かりはあった。巨樹の天辺を這う太い蔓性の植物が、竪穴の底まで伸びている。これを使って降りていければ……。カーネリアは竪穴から少し離れると、足元を這っている蔓を両手で掴むと体重を掛けて引っ張り、蔓が切れないのを確かめる。かなり丈夫な蔓の様だ。人一人が掴っても、大丈夫だろう。カーネリアは穴の縁に戻ると穴の底まで伸びている蔦を握り、穴の縁に足を掛ける。

「ブルージョン、頼むわね」

カーネリアは穴の前に立っているブルージョンに、此処で待つように合図をすると、穴の下へと下りて行く。思った通り蔦は丈夫で、人の重さにもびくともせず、カーネリアを薄暗い穴の底へと導いた。カーネリアは穴の底に足を付けたのを確かめると、騎乗服のポケットから小さな石を取り出し、指でこする。摩擦を銜えると光を放つこの小さな石は、指で擦るとすぐに光を放ち始め、穴の中を照らし始め、この竪穴の全貌が露わになった。

 明かりが灯ってまずカーネリアの目に入ったのは、樹脂に覆い尽くされた竪穴の底だった。竪穴の壁面近くのごく僅かな場所を除いて、底全体が樹脂で埋められている、そう言ってもよさそうだ。実際カーネリアが立っている場所も、樹脂の上だった。おそらく今まで見た中で、最大の樹脂の塊だろう。カーネリアはゆっくりと、その樹脂の上を歩いて行く。足下の樹脂に、何か無いか注意しながら。しかし大量の樹脂の中には、何も無かった。野生のベヌゥ達は、この竪穴には仲間を埋葬しなかったようだ。何も無い樹脂の床があるだけだ。竪穴の中にも何も見当たらない。ただ壁面の一か所に、樹洞の入口らしきものが見えるだけだ。カーネリアは手に持った光石の照明を樹洞らしきものに向け、照らし出そうとする。しかしその前に、光に照らされた樹脂の中に埋まった何かが、目に入って来た。樹脂に閉じ込められた生き物だろうか? カーネリアは樹脂の中の何かに近付き、光に照らされてはっきりと見えるものに驚愕した。石の照明が照らしだしたのは、人間の女性の姿だった。それもカーネリアがよく知っている、あの女性の姿だ。今のとは形の違う騎乗服を着て、無数のベヌゥの羽根と共に静かに横たわるハリの姿が、樹脂の中にあった。

「ハリ! どうして此処に……」

あまりの事にカーネリアは絶句し、樹脂に閉じ込められたハリの姿を見詰め続ける。野生のベヌゥ達が鳥使い達に意識に送って来たハリの姿は、彼らが直接目にしたものなのだ。野生のベヌゥ達は樹脂の中に残されたハリの姿を、鳥使い達と接触する時に使っていた。樹海北端に住む野生のベヌゥ達にとってハリは、祖先から伝えられた記憶だけのものではなかったのだ。それにしても、伝説としてしか知らなかった祖先に、こんな形で出会おうとは……。樹脂に包まれて眠るハリを見詰め続けていると、涙がとめども無く流れるのを、押さえられずにいる。カーネリアは涙を流しながら、祖先を追悼する詠唱を小声で歌う。そして歌いながら、今みているハリの姿を、イドを通じて仲間の鳥使い達の意識に送る。このとんでもない発見を早く仲間達に知らせ、なるべく多くの鳥使い達と、今見ている光景を共有したかった。一人で見るには、心が重くなりすぎる光景なのだから。しかしそれは、カーネリアからイドを通じての知らせを受け取った鳥使い達も同じだ。カーネリアの意識には、ハリの光景を見た鳥使い達の驚きと動揺がイドを通じて伝わり、彼らもカーネリアと同じ詠唱を歌っているのも伝わって来る。

[驚きました、カーネリア。ハリの姿がこのような形で残っているとは……]

追悼の詠唱を歌い終わると、長老クリスタが、イドでカーネリアの意識に呼び掛けて来た。

それに対して、カーネリアもイドを使い、自分が今いる場所と、樹脂に包まれたハリを見付けるまでの経緯をクリスタ達に伝えた。クリスタ達長老も、樹脂に保存されたハリの発見には、かなり衝撃をうけたらしい。イドで話し掛けて来るクリスタの意識からは、クリスタ達長老の興奮ぶりが伝わって来る。だが興奮しながらも長老達は暫くイドで話し会いをすると、現役鳥使いの長老ビルカと、パートナーの怪我が治ったばかりのクロッシュを樹海北端に向かわせることを決めた。樹液に埋もれたハリの姿を、複数の鳥使いで確認するためだ。クロッシュのパートナーであるアルマティンの回復が順調なのを知り、カーネリアはほっとすると同時に、クロッシュに早く会いたい気持ちを強くしていた。

[うれいしい! 早くクロッシュ合いたい……とにかく此処で二人をまっています。でも本当に驚くばかりです。ハリはこの樹海北端の森に、他人に知られず滞在していたのです。こんなかたちでも、ハリに会えてよかった。後はハリが暮らしていた証しを見付けられたらいいのですが……]

クリスタは伴侶と会えるのを子供の様に喜ぶカーネリアにややあきれながらも、イドでの話し合いを続ける。

[貴方は、ハリの痕跡を探したいのですね。それならビルカ達が来るまで、ハリの痕跡を探しなさい]

[はい、有難うございます]

クリスタとのイドでの話し合いを終えると、カーネリアはハリの姿に一礼し、さっそくハリの痕跡を探し始める。まず目を着けたのは、竪穴の壁面に開いた樹洞の入口だ。カーネリアは樹洞の入り口に立つと、光を放つ石で中を照らして見る。樹洞の中は大人の足で四、五歩も歩けるかどうかの広さしか無く、その先は足の踏み場が無い、そのまま歩けば暗い底に落ちるだけの、何も無い空間になっている。この巨樹の内部に出来た、巨大ながらんどうだ。暗くてよく解らないが、おそらく巨樹の根元にまで広がっているがらんどうだろう。カーネリアが入った樹洞は、巨大ながらんどうの覗き穴なのだ。

 カーネリアはその覗き穴に立って、巨樹のがらんどうの中を覗き見る。恐ろしさを感じるほど暗く何も無い空間……でもどこかから、光が差しこんでいるらしい。がらんどうの下の方で、光の帯が見える。巨樹の幹に穴が開いていて、そこから光が差しこんでいるのだろう。カーネリアはさらに空同の様子を見ようとして腹這いになり、樹洞の縁からがらんどうを覗き込もうとした。その時カーネリアの手が触れた洞の縁が崩れ、ばらばらにになった木屑ががらんどうの下へと落ちていく。たちまち物が落ちる音ががらんどうに反響し、カーネリアは慌てて腹這いのまま後ろに下がり、樹洞の縁から離れた。樹洞の縁の部分が、脆くなっていたのだ。少し間違えば、がらんどうの下に落ちていたところだ。だが本当に驚くのは、まだこれからだ。木屑が落ちる音に続いて鳥の鳴き声ががらんどうに響き渡り、突然銀色の閃光が二つがらんどうの底から現れ、窓のように光が差し込む穴を通り抜けて行った。巨樹のがらんどうには、ベヌゥが潜んでいたのだ。カーネリアは慌てて樹洞から飛び出し、樹液の塊の上から空を見上げた。ビティスと天頂近くの太陽、それに三つの月が姿を見せている空には、二羽の野生のベヌゥとブルージョンが飛び回っている。

 野生のベヌゥ達は、巨樹の樹洞に潜んでいたベヌゥなのだろう。ベヌゥ達に意識を向けると、野生のベヌゥが興奮しているのを、ブルージョンが落ち着かせようとしているのが解る。カーネリアががらんどうを覗こうとしたことが、野生のベヌゥ達を興奮させてしまったのだろう。それにしても奇妙だ。複数のベヌゥが一つの樹洞に入っているなど、見た事も聞いた事も無い。普通ベヌゥは繁殖期に巨樹の枝に巣を作り、それ以外は巨樹の太い枝か、巨樹に出来た樹洞を塒にするのだが、たとえ大きながらんどうでも、二羽以上のベヌゥが一緒の洞に入る事は無いし、太い枝でも同じ枝を複数のベヌゥが塒に擦る事は無い。それなのに此処のベヌゥ達は、二羽でがらんどうにいる。何故のだろうか? カーネリアはふと、あの傷付いた野生のベヌゥが見せてくれた光景を思い出した。野生ベヌゥ達の住み家から何かを、盗み出して行った飛行物体の光景……もしかしてこの光景に出て野生ベヌゥの住み家は、ハリが眠るこの巨樹のがらんどうなのでは? 野生のベヌゥを傷付けた飛行物体は、巨樹の幹の穴かがらんどうの中に入り、野生のベヌゥ達か守っていた物を盗み出した……多分盗まれたのは、ハリゆかりの物に違いない。ここの野生ベヌウ達は、ハリと一緒に来たベヌゥの子孫なのだから。樹海北端の森まで来たハリは、がらんどうの中で生活していたのだ。ベヌゥ達と一緒に。確かめに行かねば……。気持を決めたカーネリアは光石を騎乗服のボケットに入れると、竪穴の上から伸びている蔦を使って竪穴から出ると、ブルージョンを呼ぶ。

「ブルージョン!」

ブルージョンは野生のベヌゥ達から離れて巨樹の天辺に降りると、蹲ってカーネリアを背中に乗せる。

[ブルージョン、これ

飛行の準備が整うと、カーネリアは巨樹のが解る?]幹に開いた大きな穴の光景をブルージョンの意識に送る。ところがブルージョンより先に、空を飛ぶ野生のベヌゥが反応した。野生ベヌゥ達は、山の様な巨樹の穴に入るベヌゥの光景を、カーネリアとブルージョンに送って来た。

[まさか、私達を導いてくれると言うの?]

カーネリアの問い掛けに、野生のベヌゥ達は一声鳴いて答えた。

[解った、お願いね]

カーネリアは野生のベヌゥ達に気持ちを伝えると、ブルージョンを飛び立たせ、野生のベヌゥ達と空を舞った。カーネリアとブルージョンは暫く空を旋回した後、巨樹の幹に開いた穴を見付けて急降下する。まず野生のベヌゥ達が大きな穴に飛び込むと、続いてブルージョンが穴に入り、さらに巨樹のがらんどうの底へと下りて行く。

[有難うブルージョン、無事に辿り着けたわ]

ブルージョンが、がらんどうの底に着地すると、カーネリアは先に着地していた野生のベヌゥ達に礼を言い、ブルージョンの背中を降りて光を放つ石を上着から取り出す。石の光で見るがらんどうの中は、想像していた以上に広かった。多分このがらんどうは、巨大な幹一杯に広がっているのだろう。その広い空間に、カーネリアはがらんどうの中で蹲る五羽のベヌゥと一緒にいた。ブルージョンと、ブルージョンと一緒に入ったがらんどうに入った野生のベヌゥ、そしてカーネリアが空洞に入る前からそこに居た二羽の野生ベヌゥ達だ。これだけのベヌゥが入っても、まだベヌゥが入れるくらいの広さが、巨樹のがらんどうにはあった。カーネリアはブルージョンにその場に留まっているよう指示すると、石の光を頼りに歩き出す。木の破片などが落ちているがらんどうの底は歩きにくかったが、探していた物はすぐに見つかった。石の光に照らし出されたそれは、細い木の枝を組んで作られた粗末な小屋の中に収められていた。やはりハリは、此処にいたのだ。発見したものを目に収めるとカーネリアはイドを使って仲間の鳥使いや長老達に、ハリの痕跡を探し出せたと報告した。

 カーネリアが見付けたハリの痕跡は、鳥使い達に大きな波紋を投げかけていた。粗末な小屋の中にあった物……それは小屋の床にちらばっている日用品と、古びた十数冊の本だった。ハリは長期に渡って樹海に滞在する時に使う道具と、自分が書いた本を持って鳥使いの村を跡にして、樹海北端の村でベヌゥ達と共に暮らしていたのだ。そしてこのがらんどうには、今もベヌゥがいる。カーネリアが見る限りがらんどうにはいつも、少なくとも一羽は中に入っていた。まるでハリの残した物を守る様に。

[良く見つけましたね、カーネリア。やはりハリは、樹海北端の森で暮らしていたのですね。お手柄です]

イドを通じて、カーネリアからハリの痕跡の様子を伝えられたクリスタが、がらんどうの床に蹲るブルージョンの傍で、敷物を敷いて座っているカーネリアの意識に伝わって来た。

[有難うございます。クリスタ、やっと探しているものが見つかりました。ハリ自身が書いた本です。ただし、ベダの一斉開花への対応策は、まだ見つかっていません。その代り本の中かから、こんなものが見付かりました。なんと子孫達への手紙です。]

カーネリアは本の中に挟まっていた紙を手にして、その内容をクリスタに伝える。

[この紙には、ハリが何故村を出たのかが掛かれています。多分、自分の子孫達がこの巨樹にやって来る事を考えて、書いてこいたのでしょう。それによると村を出る前のハリは、難しい病に侵されていたのです。自分の命が後わずかだと知ったハリは、生きているうちに自分の魂を樹海に返す為に、パートナーと樹海の奥へと向かい、樹海北端の森に辿り着いた……]

ハリの残した紙には、病の苦痛に耐えながらパートナーと旅をした事、鳥使いの村がある山に似た、上半分がなくなった巨木を見付けた時の驚きなどが書かれていた。終の棲家を見付けたハリはその後村に戻り仲間に知られないようにパートナーと樹海北端森と村とを何度か往復し、苦痛に耐えながら自分の書いた本や日曜品を運び最後の時に臨んだ。

[そうでしたが……私達鳥使いは命を終ると身体を樹海に返すけれど、ハリは魂を樹海に返そうとしたのね]

[ええ、それがハリの望みだったのです。]

ハリの最後についてクリスタと話しながら、カーネリアは鳥使いの村の葬儀を思い浮かべていた。鳥使いの村の住人は命を終えると、家族や隣人の手で樹海の木の樹皮で作った布に包まれ、ベヌゥで深緑に運ばれ、緑の底へと鎮められる。それを鳥使いの村では、肉体を樹海に返すといっている。ハリはその前に樹海の奥に行き、そこで命尽きる事を望んだのだ。魂も身体も、自分が生きた樹海に返す為に。そして自分の個人的な記録を、鳥使いの村に残しておかないように、自分の書いた本を持ってしまった。何故なのか?

[この本にはハリが知り得た、この世界に住む人類の祖先についても書いてありました]

[他の世界からこの世界にやって来たと言う人達ですね]

[はい、そうです。村に帰ってから正式にお話ししますが、ハリは祖先の事を秘密にしようとした事をお伝えしておきます。それにハリの本には、彼女が樹海を旅して見付けた、祖先の痕跡について詳しく書かれていました。ハリはその痕跡を悪意のあるものに利用されないよう、樹海北端に自分の本を隠したのですね]

カーネリアはハリの本の頁を捲りながら、イドでクリスタの意識に話し掛ける。いや、クリスタだけではない。樹海北端の森に向かっているクロッシュとビルカにも話し掛けていた。二人ともカーネリアの発見に、興味津々なのだ。二人だけでない。鳥使いみんなが、ハリが残した物に興味を持っている。だがそれがハリが生きていた時代には、新たな問題を起こすものだったことも理解していた。まだ鳥使いの数が少なく、鳥使いの村の基盤が固まっていなかったときには、鳥使い達を自分の欲望の為に利用しようとする人間達が存在していたのだ。その中には、祖先が持っていたと伝えられる技術をねらうものもいたらしい。ハリの決断は、人間の悪意からベヌゥや鳥使いそして先祖の遺産を守る決断だったのだ。しかし今鳥使い達は、これから起こる危機への対応策を、ハリの本に求めている。

[ほんとによく見つけてくれました。この発見で私達は新しい知識を得られ、ベダの花の一斉開花への対応策も発見できるでしょう。さぁ夜も遅くなりました。私はもう寝ます。おやすみなさい]

眠たそうなクリスタの意識が離れて行って、カーネリアはもう夜も遅くなっているのに気付く。もう寝た方がいいだろう。樹海北端に向かっているクロッシュからは、明日朝早くに到着するとイドでの連絡があったのだから。傍らのブルージョンや、一緒にいる他のベヌゥ達も、もう眠りについている。カーネリアは持っていた本を敷物の上に置くと、眠るブルージヨンに寄り添うようにして自分も眠りに就いた。

 次の朝早く、ベヌゥに乗ったクロッシュ達は連絡してきた通り、樹海の北端の森の空に姿を現した。それもモリオンを乗せたジェダイドと一緒に。故郷のイナでの用事を終えたモリオンは、鳥使いの村に帰ってある重要な仕事を終えた後、クロッシュ達の後を追い掛けたようだ。一体モリオンがどんな重用な仕事をし終えたのか、カーネリアは知りたいところだったが、モリオンは教えてはくれなかった。ただそれが、ベダの花の開花にまつわる物ではないのは解った。モリオンはイナの村でベダの開花にまつわる話を調べてみたものの、前に話してくれた昔話以上の物は、出で来なかったのだ。しかしモリオンが成し遂げたのは、それとは別の重要な仕事らしいのだが。

[詳しい事は、直接会ってから話すわ]

カーネリアがいくら聞いても、イドでそう伝えて来るばかりだった。

ブルージョンと共に巨樹の天辺でクロッシュ達を待っていたカーネリアは、大きく手を振ってグロッシュ達を迎え、一向を巨樹の天辺に着地させた。

「お久しぶりです、長老ビルカ」

着地したベヌゥからクロッシュ達が降りて来ると、カーネリアはまず長老ビルカに近寄って手を握り合い、挨拶をする。ビルカとの挨拶が終わると次にモリオンと手を握り合い、最後にクロッシュとはしっかりと抱き合って再会を喜び合ったのだった。

「元気にしていて本当によかったよ。それにしても、何ともすごいところだね」

お互いの無事を確認し、カーネリアから離れたクロッシュは、足元の樹脂の塊を見ながら感嘆の声を上げた。

「すごいでしょ。でも本当に驚くのは、あの竪穴に入ってからにして」

クロッシュに答えながらカーネリアは、巨樹の天辺に開いた竪穴を指差す。

「あの竪穴の底に、ハリが眠っているのだね」

「はい」

「それではさっそく、案内してくれね」

ビルカに言われる選りよりも少し早く、カーネリアは竪穴に向かって歩きだし、クマロッシュ達もそれぞれのベヌゥをその場に置いて、竪穴の縁に向かう。途中、樹脂の中に閉じ込められたベヌゥの雛や、生き物の姿を見ながら竪穴の縁を見ながら竪穴の縁まで歩くと、竪穴の縁から底まで伸びる蔦を、一人一人が手に取った。

「さあ、行きますよ」

まずカーネリアが真っ先に蔦を使って竪穴の底へと下りて行き、樹脂に覆われた底に着くと、後の三人が降りて来るのを待った。

「さあ、此処です」

全員が樹脂の上に降りたのを確認すると、カーネリアはポケットから取り出した光り石を擦って光らせ、ハリの姿がある場所を照らし出した。

「おぉ……」

光りが照らし出すさきに現れたハリの姿に、クロッシュ達からどよめきが起こり、長老ビルカが真っ先に速足でハリの元に向かい、自分の光石を取り出すとハリの姿に光を当てる。

「正にハリだ。祖先達が、イドを通じて伝えて来た通りの姿をしていらっしゃる」

ビルカはハリの前の樹脂に膝を着くと、顔を樹脂に近付けてハリの姿を見る。カーネリア達もビルカの後に続いてハリの前に集まり、樹脂に埋もれたハリを見詰めた。

「でも、思った以上に歳を取れられているみたいだね」

ビルカに続いて、クロッシュが率直な感想を述べ、それに対してカーネリアがクロッシュに意見する。

「そりゃそうでしょ。私達が知っているのは、が鳥使いの村が作られた時のハリの姿なのよ。ハリが鳥使いの村から姿を消したのは、彼女が鳥使いの村で生んだ娘が鳥使いになってからの事なのだから」

「あぁ、そうだった」

クロッシュはこれ以上何も言わず。先祖の魂の平穏を祈る詠唱を歌いだしたビルカに続き、跪いて詠唱を歌い始めた。続いてカーネリアとモリオンもハリの前に跪き、詠唱を歌う。一しきり詠唱を歌い終わると、鳥使い達はハリに一礼し、光石をしまうと蔦を使って竪穴の壁を昇り、巨樹の天辺に戻った。空を見ると鳥使いのパートナーのベヌゥ達が、鋭い声で鳴きながら、空を飛んでいる。ハリと対面して高揚した鳥使い達の意識を、ベヌゥ達も感じているらしい。

「ブルージョン」

カーネリアはブルージヨンを自分の傍らに呼ぶと、ブルージョンの背中に乗り、他の鳥使い達もそれぞれのパートナーを呼び、騎乗した。

「これからハリが滞在した痕跡のある場所を案内します。もっと驚きますよ」

カーネリアは悪戯っぽく微笑みながら話すと、ブルージヨンを空へと飛び立たせ、上空を旋回させた。

[さぁ、こっちです]

他の鳥使い達のベヌゥ達が、自分達の後を飛んでいるのを確認すると、カーネリアはブルージョンを巨樹の幹の大きな穴目掛けて下降させ、一気に穴の中へと飛び込んだ。カーネリアが穴に入ってしまうと、他の鳥使い達もベヌゥを下降させ、穴からがらんどうの中へと入って行く。

「何とまぁ、樹海の巨樹にこんな大きながらんどうが出来ていたなんて……実物を見なければ、信じていないところだったよ」

ベヌゥ達をがらんどうの中に着地させ、鳥使い達が木くずの散らばった床に降りると、まずクロッシュが驚きの声を上げた。

「私も初めは信じられなかったわ。でも此処で、ハリは最後の時を過ごしていたのよ」

カーネリアは光石を取り出すと、幹の穴から光が差し込むけれど薄暗いがらんどうの中を照らし出し、鳥使い達のベヌゥのほかに二羽の野生ベヌゥががらんどうの床に蹲っているのが見えて来た。

「これだけの数のベヌゥ達が一緒の穴に入っているなんて、珍しい……彼らは此処で何をしているのだ」

「はっきりとは解らないけど、まるで当番の様に、ベヌゥ達は代わる代わるがらんどうに入ってくるのです」

カーネリアは、がらんどうの中で並んで座る野生ベヌゥに興味を持ったビルカの質問に、自分が見て感じた事を話す。ビルカはじっとカーネリアの話しを聞いて、得にカーネリアが野生のベヌゥ達と意識を通じ合わせたのには、驚いた様だ。

「ほおう、ここの野生ベヌゥは、鳥使いと意識を通じ合わせられるのか。驚いたな」

「私も驚きました。でも彼らがハリのパートナーの子孫だとすると、鳥使いと意識が通じ合えるのも当然でしょう。それよりもほら、あそこにある小屋を見て下さい」

カーネリアは説明し終わると、ハリの記憶が収められた小屋を、光り石で照らし出して見せた。

「この中には本をはじめ、ハリが持ち出したものが収められています。しかし全てがそのまま残っていているかは、解りません。あの傷付いたベヌゥが伝えて来た飛行物体が、がらんどうに入ってこの小屋の物を盗んだのかも知れないから」

カーネリアは、あの傷付いた野生ベヌウが伝えて来た、樹木の幹に空いた穴らしきところから出て来る飛行物体の光景を、鳥使い達の意識に送る。

「村にやって来た野生ベヌゥが伝えて来た飛行物体が飛び出した樹の洞は、この巨樹の洞ではないか思うのですけど。違っていたらいいけれど」

「そう、違っていたらな。それよりもまず、ハリの本を調べてみたいよ」

ビルカはカーネリアが話し終わると同時に小屋に近寄り本を手に取り、カーネリアとクロッシュ、モリオンも小屋に近付いた。

「おぉ……確かにこれはハリが書いた記録だ。今までどこにいったのかも解らなかったのに……」

四人が入るには小さすぎる小屋を覗き込んだビルカは、自分の光り石で照らし出したハリの痕跡に心を揺さぶられたらしく、震える手でハリの本を小屋から持ち出すとやおら小屋の前に座り、本の頁を開いた。

「おぉっ、これは鳥使いになる前のハリの記録だ」

興味深い記録を手にしたビルカは、ハリの記録の内容

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