第2話
そして思い起こす。
――確か、一か月前のK市の広報サイト。
介護認定を受けている家庭に『介護ロボット』がお試しで派遣されると書いてあった。
ただ、まさかこんなに早く、自分の家に「人間に近いロボット」が来るとは思っていなかった。
「ただいまから、
一見、どこからどう見ても人間そのものの、ロボットの『みどり』。
「あの……本当にロボットですか? 福祉課の人では無くて?」
すると、みどりは自分の左手首を掴んだ。そして
驚く
「任期は半永久的……。
「は、はあ」
「では、とりあえずお家に上がらせてください」
みどりはそう言うと、
突然部屋に現れたみどりに、
「初めまして。私は本日より
「……姉ちゃん? あんた、みどり姉ちゃん?」
「そうですよ」
みどりの大嘘に
確か、
「姉ちゃん! お団子作ったよ。これ持ってどんど焼きに行こう!」
「はいはい。行きましょうね」
「姉ちゃんはトウモロコシの団子ね!」
「はいはい」
また
その迅速で巧みな技に、
みどりはプロの介護士では無い。
ロボットなのだ。
いつの間に、こんなにロボット技術が進化していたのか。みどりの実力に目を見張った。
日本人の本質は、真面目で勤勉で一途だ。
頻繁に起こる大震災だって、数十年前に起きた疫病の時だって不幸に見舞われた時、一丸となって協力する種族なのだ。
老後の危機にもきっと涙ぐましい努力を重ねた多くの開発者達が居たはずだ。
その結果がこの『みどり』だろう。
みどりは「では、台所をお借り致します」と言うと、持参した緑のエプロンをつけて、豆腐の味噌汁、鮭の塩焼き、納豆、カボチャの煮びたしを作った。
「あの、母はカボチャは……野菜全般は食べないと思いますが」
「そうですか!」
その間、
朝食は
その間にもみどりは昇降式ベッドを操作し、
「はい、どうぞ」
みどりがベッドに取り付けたテーブルにご飯を置くと、
「そうですか。では」
みどりはカボチャを潰した。そしてそれを丸く捏ねた。
「お団子はどうですか?」
「お団子は好き!」
みどりは言った。
「さあ、
◇◇◆
介護ロボット『みどり』は完璧だった。
料理に、洗濯、掃除、下の世話、葵の話し相手……。テキパキと世話をこなした。
彼女はロボット。疲れ知らずに21時間働く。葵は夜も起きては大声で歌を歌ったり、
きっと、介護の辛い所の一つは寝たい時間に寝れない所だろう。
しかし、
「
「
「はい、
「……へえ、そうか。……………
「
「そうか。……………
みどりは夜の間、ずっとこうして
それだけでも、
背中に付いたコードを伸ばし、家のコンセントに差し込むと、静かに目を閉じて眠るみどり。
電気代がドライヤーの五倍かかるそうだが、みどりが行っている仕事量を考えれば安いものだった。
みどりがほぼ介護をしてくれるので、時間が空いて、
ずっと
以前は他人をどこか避けていたが、こうやって
みどりが
暗かった部屋が、女性二人(老人と中年女性だが)が
みどりの存在は、
余裕が出来た事で
みどりはロボットだったけれど、植物を見ているのが好きだった。
母の日に
すると、彼女の事を思いながら色とりどりの花を見ていると不思議と心の高揚を感じた。
昔から女性にあまり興味がなかった
赤い
「ラッピングしますか?」
マチの広い紙袋に並んだカーネーションと雛菊。ピンクの包装紙に包まれた雛菊を見て、みどりは喜んでくれるだろうかと心弾ませて家へと急いだ。
帰りの途中、車道に沿った歩道を歩いていると「そこの人!」と急に
振り向くと、中学生ぐらいの年頃の少年が
「その人、捕まえて!!」
少年は、
その老人の男は今にも歩道から車道へと飛び出そうとしていた。
ワゴン車が激しくクラクションを鳴らす。
少年は
「ありがとうございます! じいちゃんを助けてくれて……」
「……君のおじいさんは認知症なのか?」
「はい、まだ六七歳なんだけど、若年性の認知症で徘徊が酷いんです」
それを聞いて驚く。この老人は
「君が見ているのか? 介護ロボットは外は助けてくれないのか?」と尋ねると少年は
「そんなの! 俺の家に来る訳がないじゃない」
そう自嘲する少年に、
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