第13話 文字通りのレベチだな

 

  場所が変わって、北地区では左上に進んだBチームと『終悪』のチームが出くわし、戦闘を開始していた。


  このBチーム、リーダーを務めるのは『虎徹』という男の子。名前とは裏腹に、魔法の得意な風水師で、その相方に抜擢されたのはお馴染みの酒呑王子。酒呑王子は剣技が得意な王子様である。他には補佐役の『メロ』と『マロ』が居て、課金者の『プルーツ』と中々バランスの取れた構成となっている。


  「虎徹、君の魔法でなんとかならないのかい? こうババーっとさ。敵も中々強くてしぶといんだよね……僕達は早くハルさん達と合流しなきゃならないんだから」

  「魔法じゃないもん! 風水だもん! 出来ないこともないけど、みんな大変な目にあっちゃうよ?」

  「ああそうだったそうだった、風水ね! OK、OK。ごめんね。じゃあ大変な目にあっても構わないから風水をお願いしていいかな?」


  魔法と風水は違うんだと、拗ね気味の虎徹を、まるで子供をあやすかのように宥めた王子は、その有り余る力を行使するようリクエストした。


  「どうしよっかなー?」


  もったいぶり、なかなか面倒臭い素振りを見せる虎徹に酒呑王子も手を焼いたが、敵の放った魔法で作り上げられた巨大な竜巻がこちらに迫っているのを見て、慌ててお願いの仕方を変えた。


  「お願いしますっ! 風水師様! どうか、どうか私共に圧倒的自然の力を存分に見せつけてくださいませ!!」


  王子様にここまでさせる『虎徹』という少年。このギルドでもトップを争う力の持ち主だと伺い知れる。


  虎徹は「しょうがないなー」と明らかに喜んだ様子をみせ、風水師特有の祭具を取り出し天に向かって祈りを捧げた。


  すると────


  一瞬にして空が厚い雲に覆われ月を隠すと、その雲から何かが落ちてきた。

  これは雨や雪といった固形物では無い。風の塊。

  俗に言う『ダウンバースト』と呼ばれる現象である。


  虎徹の発生させたダウンバーストは、敵の放った竜巻を飲み込み更にその力を増大させると、地上に到達するや四方に広がりありとあらゆるものを飲み込んで行った。まさに天災。


  この突然の突風によって、敵のチームは壊滅状態に陥った。が、この風に飲み込まれたのは敵だけではなかった。

  少し離れた場所にダウンバーストが起きたと言っても、その被害はとどまることを知らない。酒呑王子を初めとしたBチームの面々も続々とその被害を被って行くのであった…………


  「み、みんなが大変な目に逢うって…………僕達の事か…………!!」


  とはいえ虎徹とて馬鹿ではない。敵を崩壊させ尚且つ味方が最小の被害で済むように計算された攻撃を行った為、この一撃でBチームの勝ちが確定された。


 


  ────そして、ところ変わってこちらはCチーム。左下に進み、Bチーム同様、南エリアで敵と遭遇していた。


  Bチームを率いるのは『クビト』、課金額1111万円の廃課金者。それを支えるのは『海月くらげ』双剣士で850万、『イーサン』パラディンで800万。次いで微課金者の『チカ』という魔術師と、ましゅまろ(アーチャー)の5人編成。

 

  副隊長の海月は850万円という圧倒的課金額を誇りながらも、このギルド戦においては普通程度の強さだ。これが、スタスタの恐ろしいところ。上を見ればキリが無い程上位陣は狂っている。


  飛び抜けて強い者は居ないが、飛び抜けて弱い者も居ないのがこのチーム。

  チームワークを駆使して敵を囲み、一人ずつを確実に潰していくのが得意とするスタイルとしていたが、戦闘になりすぐにその思惑が外れる形となっていた。


  チームの主軸を張るクビトが早々に敵のチームリーダーに深手を負わされてしまったのである。


  「クビト──ッ! イーサン、早くクビトに回復スキルを!!」


  海月がクビトに変わって陣頭指揮を取るも、突然の予期せぬ出来事にチーム内はパニックに陥っており、思うように機能していない。


  それを嘲笑うかのように、敵のチームリーダーが次はイーサン目掛けて襲いかかった!!


  来ると分かっていた攻撃だった為、イーサンはなんとか槍でその攻撃を防いたが、勢いまでは殺す事が出来ずに後方に弾き飛ばされてしまう。

 

  「──────っぐ…………!」


  そのまま岩に体を強くぶつけたイーサンは前方に倒れ込み、その動きを止めた…………


  「ぶぁっははははっ! 軽い軽い!パラディンでこれかよ!? 『かがぷり』ってギルドはこんなひ弱な奴しか居ねぇのか!? 無課金の女が仕切ってるだけの事はあるぜ! 金を掛けずに強くなろうなんざ、虫が良すぎるってもんだぜ! 金をかけてる俺らがそんな奴らに負けるはずねぇんだよ!!

  俺の課金額は1600万だぜ? 額が違うんだよ、額がよぉ!! てめぇらとはレベルが違うんだよ!! ぶぁっはははははは!」


  札束で殴るゲームとはよく言うが、このスタスタも例外では無い。金をかければかけるほど強くなるというのは、紛れも無い事実────


  ある意味この世界において、課金額こそが強さの象徴。


  早々に主力二人を欠いたCチームは絶体絶命の場面を迎えていた。

  クビトとイーサンにとどめを刺そうと、敵が近づいて行くのをただ黙って見ている程、ましゅまろ達は弱くない。それは戦力云々では無く、人として、だ。


 

  「スキル【五芒星矢域ごぼうせいしいき】!!」


  ましゅまろの放った矢はクビトを中心に五箇所に突き刺さり、それを結ぶように五芒星の結界が張られると、微課金者の『チカ』はイーサンを取り囲むように土魔法で壁を形成した。


  今はクビトとイーサンを守るのが最優先である。ここが落ちると、このチームではこの先どうにもならない…………


  しかし現実は時として非情なものである。敵は積み上げられた積み木を薙ぎ払うかのようにその防壁を粉々にすると、子供のように大きく笑いだした。


  「くっそ…………!!」


  それでもましゅまろ達は諦めない。ここを抜かれれば本陣が危険に晒されるのは明白。なんとしても止めなければならない─────


  攻撃スキルを有さないましゅまろは、最後のあがきとばかりに、敵に向け力いっぱい矢を放った!


  だがその矢は呆気なく叩き落とされた挙句、足で踏みつけられへし折られてしまった。敵リーダーでなくともこの戦力差。もはやこれまでか────


  「こんなチンケな矢じゃ俺達には当てられないぜ? まあ、当たったところでどうって事ないんだけどな! 試してみるか? んん??」

  「こんのぉ────っ!!」


  敵の態度に、ましゅまろは再び矢を放ったが敵は言葉通りその矢を体で受け止めた。


  「ぐあああああああああっ! 痛えよおおおおおお!! 3ダメージ!! ガハハハハハハハハ! こんなもんだ、二千回くらい撃ったら倒せるかもなー!」


  敵はましゅまろ達をコケにし、嘲笑を繰り返した。このままコケにされ続けていれば足止めは成功していると言えなくもないが、そう上手くはいかない。

  敵のリーダーは、そろそろとどめを刺して先に進めという命令を下した。


  次にCチームが取るべき行動は『離脱』である。ヤエが言っていたように、ここから先は他の者に任せて、命を守る事が優先される。


  だがどうだ? 手負いの二人を抱えて、補助スキルだけで逃げ切れるか────


  ましゅまろは頭をフル回転させた。

  どのスキルを、どのタイミングで使えば……………………


  考えが纏まらない。あらゆる選択肢の中、どの案を選んだとしても確実性に欠ける物ばかりだった。


  ダメだ──────


  差し迫る時間の中、ましゅまろ達は逃げるという選択肢さえ見失おうとしていた。


  ───────と、その時。


  瀕死のクビトの耳に、ヤエの声が飛び込んできた。感覚共有のおかげで届いた、我らがリーダーの声。


  『クビト、お疲れ様。時間だ。もういいよ。よく耐えてくれたね』


  それはまさに天からの救いの声だった。その言葉をどれ程待ちわびた事か────


  クビトは最後の力を振り絞るかのように状態を起こすと、ましゅまろ他メンバー達に合図を送った。


  その合図を見たCチームのメンバーはそのサインに気づきハッとした。


  ついにこの時が訪れたのだ。


  「来たか!」

  「さっそくやります! 全開放だ────っ!!」


  ましゅまろ達の体が一斉に光に包まれ、それは何度かに分けて発光し続けた!!


  1回、2回目、3回、4回、5回───っ!!


  「きたきたきたきた───っ! やった! 届いた! 新しいスキル、いけます!」

  「こっちもいける!」

  「よしっ! やれっ!!」


  海月が号令をかけると、ましゅまろとチカはスキルを発動させた。


  「スキル【エナジーアロー】」

  「スキル【ノックバック】」


  チカの【ノックバック】で迫っていた敵を後方に弾き飛ばし、その間にましゅまろのスキル【エナジーアロー】でクビトとイーサンを回復させるという連携だった。


  「なぁにぃ!? 『アーチャー』が回復スキルだとぉ!? そんなスキルがあったのか!!」


  敵のリーダーが驚くのも無理は無い。アーチャーという職業に、回復スキルは存在しない。いや、過去には存在していなかった。


  「アーチャーにも回復スキルはあるんだよ! たった30秒前からだけどね!」


  この時、Cチームの面々は一瞬にしてアドバンテージを得ることに成功していた。

  それは0時00分に日付が変わったタイミングでの事だ。この日付が変わった瞬間、レベルキャップ(運営側が強制的にそれ以上レベルが上がらないようにするシステム)が外され、レベルの上限が70から75に引き上げられたのだ。これは前々から告知されていた事である。


  ではなぜ、Cチームのメンバーだけがレベルアップすることが出来たのかというと、それはCチームのメンバーは『経験値』を持ち運んでいたから。


  通常、経験値とはカンストした状態で得てもその先はどんどん溢れて無駄になっていくものであるが、中には使用する事で経験値になる経験値がある。代表的なのは、イベント報酬の経験値がそれである。

  彼等はそれらを一切使用せずに、この日の為にずっと貯め込み持ち運んでいたのだ。


  それは努力の結晶。


  イベント経験値を使わずにカンストまでレベルを上げし者達にのみ与えられた特権!


  このレベル帯の5差は非常に大きな意味を持つ。基礎ステータスは勿論だが、新スキルや解放されるコンテンツの恩恵が特に大きい────


  「ましゅまろ、すまない。あとは僕たちに任せてよ」

  「クビトぉ!」

  「チカもありがとう。頑張ってくれたんだね。感謝してもしきれないよ…………戦闘は任せて! 行くよ、クビト、海月!!」

  「イーサン!!」


  絶望的な課金額の差を埋めたのはレベルの差。このCチームは努力を怠らない、生真面目を集めたチームであった。


  『文字通りのレベチだな』


  してやったりのヤエの声が微かに聞こえた気がした────

 




 

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