第12話 今日、勝つのは僕達だ!
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ギルド戦はこのゲームでは一種の目玉である。
高ランカー達がしのぎを削り、ライバルチームを蹴落とし名誉と報酬を得ようと皆真剣にこのイベントに臨んで来る為、高ランカーの間では盛り上がるイベントとして有名だった。
そして遂にギルド【輝け!姫プリズム】VS【終焉の悪魔】が対決する日がやって来た。
姫凪八重が率いる『かがぷり』はギルドランキング7位、対する@Q擁する『終悪』は最近グングンとランキングを上げてきており、現在の順位は10位となっている。
幾つかのサーバーに別れているとはいえ、世界規模で人気のあるスタスタでこの順位をキープしているだけでも凄いことである。
その両者が今夜、相見える事になるのであった────
「───────、以上が今回の作戦だよ! 皆宜しくね! 忍にとっても『かがぷり』にとっても絶対に負けられない戦い。でもね、とにかく命が大切。勝ち負けよりも、まずは自分の命を優先する事! 危なくなったり危険を感じたら絶対に知らせて。その時は迷うこと無く、私が『敗北宣言』を出すから。今回の相手はその可能性が十分にある相手だということを忘れないで。お願い」
ギルド戦直前、メンバーを集め作戦内容と注意点を念入りに語ったヤエ。
その話を聞くもの達の目は既に戦闘態勢に入っており、現場にはピリピリとした空気が満ちていた。
死んだら終わりのゲームにおいて、このPKありルールで正面からぶつかり合うギルド戦は正に戦争そのものだ。
そんな中、初めてのギルド戦を前に忍は震えていた。
「怖いのか?」
ヤエは忍の震えが止まるように、そっと手を重ねた。
「大丈夫だ。お前には確固たる信念がある。そして私がいる。更にその後ろにはこれだけのメンバーが着いている。存分に貫け。存分に信じろ。存分に頼れ。私達は必ず勝つ。それを今夜、
ヤエはいつもと変わらず自信に満ちていた。
こんなにも凛々しいリーダーが居る。頼もしい仲間達もズラリと並んでいる。
大丈夫。
「僕は……こんな日が来るとは思っていなかった。無課金で誰の邪魔もせず、誰にも狙われることなく細々とゲームをこなしていけばいいや、なんて考えでやってたんだ。だけど、このギルドに来て変わった。
本気でゲームをやっている人達が居た。
無課金でも誇りを持ってやってる人が居た。
自分の信念を絶対に曲げない奴が居た。
僕もそんな風になりたい。だから────
ケジメをつけてくるよ。いつまでも過去に囚われ、負い目を感じながら生きて行くのは今日で終わりだ!
────行こうっ! 今日、勝つのは僕達だ!!」
「「おおーーーっ!!」」
忍は明らかに変わり始めていた。
ギルドの皆が声を上げ拳を突き上げた。
戦いが、始まる─────
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ここで簡単なギルド戦の説明をしておこう。
このギルド戦、勝敗を決するのは大きくわけて3つ。
1つ目はギルドリーダーの戦闘不能(死亡)。
2つ目はギルドリーダー、もしくは副リーダーが下す『敗北宣言』
3つ目はマップ内に設置された『ギルド旗』を折る事。
このいずれかを満たした時、両者の勝敗が確定しその後は速やかにPKが解除される仕様となっている。
真っ先にギルドリーダーを潰すか、狙いやすく動かない旗を折るか、状況を優勢に進め、被害が拡大する前に敗北宣言を引き出すかが大筋の作戦となってくる。
時間制限もあるが時間制限が過ぎた場合は引き分けとなり、両者ともにランキングダウンする可能性がある。
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23時30分。
世界のあちこちで一斉にバトルの合図が鳴らされた。
歓声と共に始まるゲーム。勝つのはどちらか、生き残るのは誰かのサバイバル─────
「戦いの始まりだーーーっ! 行こう! いざ、裁きの時────ッ!!
まずは作戦通りにいくわ! ましゅまろちゃんお願い!」
「任せて下さい!」
ましゅまろによる【鷹の目】で空から戦況を見下ろす。
「次はマロ!」
「おっけー。スキル【通信】」
「続けてメロ!」
「はいはーい。スキル【共有】」
バトルの下準備は無課金者達の役目である。
【鷹の目】で空から戦況を伺い【通信】で言葉のやり取りを行う。そしてそれらを【共有】で主要幹部4人と共有する事で、チーム全体を把握し繋がる状況を作り出した。
この辺はバトル慣れしており、流石と言ったところだ。
「うーん。今回のフィールドは横に長い菱形ね。真っ直ぐ進むのが敵陣に一番早く到達出来そう」
『かがぷり』から見たら、西側に敵陣があり東側に自陣がある。道は真ん中、左上、左下に伸びており、それぞれが敵陣本陣に繋がっている。
「作戦通り4つの編成でいくわ!
Bチームは左上、Cチームは左下、Dチームは自陣を守りながら全体指揮をするわ! そしてAチームが真ん中の道を突っ切って、最短で旗を折りに行く!」
忍が所属するのはAチーム。最短距離を突き進み、敵本陣を真っ先に落とす役割を与えられたチームである。
対するヤエはリーダーであるため、前線には赴かずに本陣を守るDチーム。
危険なAチームではあるが、リーダーである@Qが本陣にいる可能性は高い。
忍の悲願を達成するのに、このチームは持ってこいだった。
「忍、あの日の仇を────」
「うん。僕、やるよ。だから指揮、頼んだよ」
ヤエとしばしの別れを告げ、忍は真ん中の道を走り出した。
忍の所属するAチームのリーダーは『ハル』という女の子。見た目は可愛いが、その戦闘力は本物。課金額1700万という化け物だ。
次いで『仁平』1300万、『ジャオ』750万の廃課金トリオ。プラスして『猫ロンジャー』無課金の『赤月忍』という編成。
少ないと感じるかもしれないが、部隊を4つに別けるとだいたい5人編成となってしまう。
仮にこのメンバーで本陣を落とせなくとも、左上ないし左下に向かったメンバーと最終的に合流する事になるので、そこで一気に叩く事が出来るという訳だ。
「じゃあいつものようにスキル【化け猫】を使うから」
「化け猫?」
「そう、ここからは真ん中を突き進んでくる敵を無視して本陣に突撃するよ!」
猫ロンジャーの使うスキル【化け猫】は、味方を猫の姿に変えることの出来るスキルである。
暗闇の中、黒猫に変化することにより、大幅な戦闘力ダウンと引き換えに相手に見つからないように行動する事が可能になる。また、移動速度も少し上がるため、最短で突き抜けるという意味では効率的なスキルなのである。
「スキル【化け猫】!」
猫ロンジャーがスキルを使うと、5人の姿は猫の姿に変化した。
4本足で走る事に最初は戸惑った忍だったが直ぐに慣れ、自分の体の身軽さに驚いた。
「凄い……これなら早く敵陣に到着出来そうだね!」
「まぁね! でも僕にはこれ位しか役に立てないから」
忍から見れば、猫ロンジャーも十分強い部類に入ると思うのだが、如何せん、周りのメンバーやランカーを見ると、そう思うのも無理は無いと理解出来た。
────スタートから10分くらい経っただろうか。あれから誰の姿も確認できないまま、時間だけが過ぎていた。
「そろそろかな? 忍くん、お願いしてもいいかな?」
「分かりました! スキル【探知】」
ハルの合図とともに【探知】を使用した忍。このマップ上の近い敵反応を知る事の出来るスキル。
「……………………居たっ! 真っ直ぐこっちに走って来てる! 6人……いや、7人!」
「そうか、ありがとう。忍くんが居てくれて助かるよ。皆、ここからは道の端ギリギリを走るよ! すれ違う時も絶対に立ち止まらない事!」
「すれ違うの!?」
「そう、私達は一秒でも早く敵本陣に行き相手を倒す。それが一番の安全策だからね!」
猫のまま走り続けるAチームは、その数十秒後、敵のチームとすれ違った。
どいつもこいつも厳つい装備と、顔つきで、忍は気づかれるんじゃないかと心臓が止まりそうだったが、作戦が見事にハマりやり過ごす事に成功した。
────が、その中に居た一人の男にハルは焦りを感じていた。
「まさか……あんな奴がこのギルドに居たなんて……!」
「あんな奴……?」
「死神『F・クロウ』……最近PKエリアで無差別に殺戮を繰り返してると噂の男だ。その中には1000万プレイヤーもゴロゴロ居る。聞いた話によれば、奴の強さは並外れているそうだ。あんなのがうちの本陣に行ったら…………」
ハルの話に忍は一瞬嫌な想像をしてしまった。それは最悪のシナリオ、あの男の手によってヤエが…………
「い、今から戻って奴を……!」
「いや、さっきも言った通り、私達が最速で相手本陣を落とすのがなによりの安全策であることに変わりは無い。中間地点を過ぎてからだいぶ時間も経っているし、私達の方が早いのは明白。このまま突っ切る!」
「でも……!」
「姫様が心配? それなら大丈夫。姫様自身が敗北宣言をする権利を持っているし、Dチームはこのギルドの中でも特に強い二人が揃っているからね。そう簡単には抜けないよ。私達は私達の仕事をやるだけ。
この作戦には忍くんの力も必要になってくるんだから、その辺自覚しなきゃだよ?」
その通りだ。
忍が@Qを撃てばこの戦いは終わる。
誰の犠牲も出す前に、一秒でも早く敵本陣に乗り込む事が今出来る最前の選択────
「ハルさん、わかったよ! もっとペースを上げよう! そして一刻でも早くこの戦いを終わらせよう!」
猫の姿のまま、5人は暗闇を走り続ける。足場の悪い岩場を乗り越え、小川を飛び越え全力で走り続けた。
それが忍達、Aチームに与えられた使命なのだから────
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