第11話 間接的に勝てればそれでいいのかと聞いている


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 今から約一年前の話─────


 当時、この頃から大のゲーム好きだった忍は Star Of The Star とはまた違う、別のMMORPGにのめり込んでいた。


 このゲームで忍は、無課金ながらもそれなりに順位をキープし、それなりの人間関係を築き楽しくプレイする事が出来ていた。

 時間さえあればゲームにログインし、コツコツとキャラを強くしたり、気の合う仲間と何気ない話をして過ごす日々は、MMOをやっているという満足感に満たされていた。


 そんなある日、忍はゲームの中で一人の女の子と運命的な出会いを遂げた。彼女は自分の名前を『苺花いちか』と名乗った。

 苺花はとても大人しく、このゲームが初めてやるゲームだったらしく、無課金でゲームをサクサクと進めて行く忍にすっかり懐いてしまっていた。


 次第に一緒に居る時間が増え、二人はいつの間にやらお互いを意識し合う存在となっていった。


 一緒に写真を撮った。

 野を超え山を越え凶悪な魔物の住むダンジョンを渡り歩いた。

 よく話をし、共にリアルでの悩みも相談し合った。


 大人しかった苺花は明るくなり、よく笑うようになった。無課金でも楽しめる事を忍に教えて貰った。

 ゲームの楽しさを、生きていく術を忍が教えてくれた。


 お互いがお互いを必要とし合い、ゆくゆくはゲーム内で結婚を────、なんて話もあったり無かったり。


 とても充実した日々だった────


 ゲームでこれ程までに心惹かれる存在に出逢えるなんて思ってもみなかった。

 この人の為なら命を張れる。互いを信じ、絶対に裏切らない。そう誓い合った。


 ────そんなある日、あの忌まわしき事件が起きた。


 それはあるイベントでの出来事だ。


 いつもの様に2人でイベントをこなしていた忍と苺花は、高難易度のエリアに足を踏み入れた。

 自分達もそろそろ行けるんじゃないか、そんな安易な気持ちだったが現実は甘く無かった。


 苺花は勿論のこと、忍もそのエリアの魔物に思うように太刀打ち出来ずに、何度も死を繰り返した。


 ただこのゲーム、スタスタとは違いデスペナルティーが厳しいということは無い。なので仮に死んでも【復活エリア】で復活しリスタートを切る事が出来た。


 しかしこれが諸悪の根源であった。


 この復活エリア、あろう事かPKエリア中央に堂々と設置してあったのだ。


 完全なる運営側のミス。


 そんな不具合を知ってか知らずか、死んで復活エリアに戻されたタイミングの忍を、生き返った瞬間即座に殺す男が現れた。


 それも一度ではない。


 その男に殺された後、復活するのがまたこの復活エリアであった為、そこで待ち構えていた男は何度も何度も忍を殺し続けた。


 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も──────


 大好きな苺花の前で、何度もだ。


「お願いだからもうやてめてーーーーっ!!」


 あまりの光景に苺花の悲痛な叫び声が響いたが、周りにいる者は誰一人として助けてはくれなかった。


「ぎゃははははははっ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!」


 何が楽しいのか男は執拗に忍だけを殺し続けた。残忍で冷酷な行い。だが、男は誰よりも強かった。


「無課金の分際でこの俺の前に現れるなああ! 目障りなんだよぉ! 弱えクセにプンプン飛びわりやがってよぉおお!! 」


 男は、そのぶっ飛んだ思考と廃課金で築き上げた強さ故に、誰もがその存在に触れようとはしない狂人として有名だった。

 この男の名前こそが【@Qアットキュー】。ゲーム内で知らない者は居ない、悪名高き変人─────


「お願い…………します…………忍を……もう…………殺さないで…………」


「まだまだまだまだまだまだまだまだまだだぜええええええ!! 楽しいのはこれからなんだからよぉ!! ぎゃははははははっ!」


 何度殺されただろうか…………

 もう復活する気力も残っていない。

 苺花の声も聞き取れなくなるまで殺され続けた…………


 弱い自分が恥ずかしく、苺花を悲しませる自分が情けなかった。


 消えたい……………………

 もう………………いいか………………


 結局@Qが殺すのを止めたのは、忍がログインしなくなった時だった。


 ──────、その後はどうなったかは分からない。


 忍は苺花を置いて逃げ出してしまった自分に負い目を感じ、その日以来ゲームにログインする事はなかった。


 ただ普通にプレイしていただけなのに。

 だだ楽しく過ごしたかっただけなのに。

 なにもかもが一瞬にして奪われてしまった。


 この事件の事は今でも時々思い出す。

 無課金という理由だけで、ゲームを、そして人生を奪われた事は、決して忘れることが出来ない過去として忍の心に深い傷として残された。



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「───────っという事があったんだ…………だから、僕は次のギルド戦は絶対に勝ちたい……!」


 ギルド戦を前に開かれたギルド会議にて、忍は自分の過去と想いを皆に話した。


 その話を聞いたギルドメンバーの反応は様々だ。

 共感する者、眠そうにしている者、興奮する者…………


 そんな中、ヤエは自らの意見をこう述べた。


「それを踏まえた上で、今から次のギルド戦の作戦を発表しようと思うの。さあ皆注目注目ー!

 今週末にウチと当たるギルド【終焉の悪魔】なんだけど、調べたところ最近勢いづいてるギルドだという事がわかったわ。リーダーの@Qをはじめとし、廃課金者がズラリと揃った武闘派集団ね。

 正直、戦力だけならトップキルドと遜色ないわ。かなり手強い相手だと思う。正面からぶつかっても勝てるかどうか─────」


 珍しく弱気な発言をチラホラ見え隠れさせるヤエに、忍は憤りを感じていた。

 @Qという名前を見たその時から、メラメラと燃えがる内なる炎は、今なお燃えたぎっているのだ。

 そんな弱気な事を言われては困る。@Qは必ずここで潰しておかなければまならない相手。

 そう。出来るならばこの手で─────


「という訳で、今回は正面から忍をぶつけようと思うの。どうかしら?」

「どういう訳で!? 僕なんか聴き逃してましたか!? 正面からぶつかって勝てない相手に、この僕が……!?」


 遠回しに「無理だ」と言う忍の顔に向け、ヤエはビッと指を突き出した。


「それでいいのか?」

「なに……?」

「お前は他人に@Qを撃たれてもいいのかと聞いている。間接的に勝てればそれでいいのかと聞いている。高みから@Qが無様に死んで行くのを見てるだけで、満足なのかと聞いているのだ」

「そんなの…………そんなの決まってるだろ…………ッ!!

 僕は……僕がやるんだ……アイツだけは僕が倒すッ!! 苺花の分まで僕がやってやるんだ!!!」


 苺花の名前を出した時、忍の目は明らかに変わっていた。

 やる気に満ち溢れ、揺るぎない信念を貫く、覚悟のある目─────


「ならば任せよう。お前が倒すんだ。あの時の、過去の精算を済ませてこい」

「任せてよ────」


 とは言ったものの、忍と@Qの戦力差は歴然。ギルド戦まではたった三日しかない。このまま挑んでも一年前の悪夢が繰り返されるだけである。


 忍は思わずそんな考えてしまっていたが、ヤエの指した指がまだ顔の前にある事に気がついた。


「忍よ。今日からみっちり秘密の特訓をするぞ。覚悟はいいか?」

「特訓……? 一体どんな…………」

「無論、無課金者が廃課金者を倒す特訓だ」


 ヤエは不敵に笑ったが、当の忍の背筋はゾクッと凍りついた。何か嫌な予感がしたのである─────

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