第7話 探せー!登れー!開けろー!
『それではお待ちかねのルール説明でーす! 皆さんには今からマップ内に出現した【謎の塔】に登ってもらいまーす!
ただ登るのではなく、この【謎の塔】はマップに表示されませーん! なので、先ずは己の足と目を存分に使って探しましょー!
そして肝心の塔に入ってからは、五人一組で行動してもらいまーす! 五人いないとクリア出来ない仕様になっているので気をつけてねー!
最上階にある宝箱には豪華な景品を用意しているから、それを目指して皆頑張ってね!
そうそう言い忘れていたけど、今回のゲリライベントは五種類の難易度の塔に別れていて、塔内はPK(プレイヤーキル)ありのルールとなってるので注意してね!
説明は以上! あとは自分達で考えて行動してねー!
それではゲームスタート!!』
ワールドアナウンスが終わると同時に世界中で大きな地響きが起こったが、それはすぐに治まった。
状況を瞬時に判断し、リーダーであるヤエはすぐにハウスに居たギルドメンバーに指示を飛ばした。
「『イーサン』『(ΦωΦ)』『海月』『仁平たん』『青太』さんが第1グループでお願いね!
『ちゅんこ』ちゃん『ハル』『メロ』『マロ』『クビト』は第2グループね!
そして第3グループは『私』『酒呑王子』『プルーツ』『ましゅまろ』ちゃん『赤月 忍』でいいかな?
『虎徹』はこれからログインする人を纏めて!
意見のある人、都合の悪い人は今のうちに言ってね! 強制ではないから、遠慮は無用だよ! 友達付き合いも大切だしね」
実に手際がいい。ヤエは頭の回転も速いと見て取れる。その手際の良さと信頼感から来るのか、そのパーティ構成に意見する者はおらず、ただ一人、意見をしたのが忍だった。
「ちょ、ヤエ! 僕なんかがパーティに入ってていいの!? 皆強そうだし、その……足でまといになるんじゃ…………」
そんな消極的な考えの忍に対し、ヤエはいささかガッカリと言った感じだ。
「忍よ。その意見はどこから来るのだ? 自分が弱いからか? それとも無課金だからか? そんな考えは今すぐ捨てろ。
お前はこのゲームにおいての無課金者の価値を全くわかっていない」
「え?」
「そんな卑下た思い込みはやめろ。無課金者には無課金者の強みがある。弱いものには弱いものなりの存在価値がある。それを今回のイベントで私が分からせてやろう」
「でも……」
「私を信じろ。伊達に無課金でここまで成り上がった訳では無い」
「う、うん……わかった。僕、行くよ!」
姫凪 八重 というプレイヤーは、常に自信に満ち溢れている。廃課金者の群れの中に置いてもそれが揺らぐことは無い。
自信に満ちた人間の言葉というものは、それだけで説得力があると言うものだ────
「よし。では準備が出来次第、出発だー! どの塔を攻略するかは確チームのリーダーに任せるから! でもあんまり無理はしないようにね!
いくぞー! 探せー! 登れー! 開けろー!! 『かがぷり』のチームワークを見せる時だー! いざ、示しの時──ッ!!」
「「おお───っ!!」」
ヤエの号令と共にチーム毎に集まり散り散りになってホームを出ていくプレイヤー達。その目はやる気に満ちていた。
そしてメンバーを見送ると、ヤエ率いる第3グループも動き出す。
「よし、私達も行くぞ。目指すは最高難易度の塔だ」
「ええ!? 最高難易度……!?」
「忍、いい加減その負け犬根性をどうにかしろ。お前でも出来る。私が保証する。
隣に居る、ましゅまろちゃんを少しは見習ったらどうだ?」
忍の隣には矢を担いた女の子が居る。彼女もまた無課金者だが、忍のようにビビった様子は全くない。
「ましゅまろちゃんは怖くないの?」
「うん! 強い人と一緒だから全然怖くないよ! でも、忍くんが思ってるように、ただついて行くだけじゃ悪いって気持ちもあるよ。だから、私は私にしか出来ないことを一生懸命頑張るの!」
「自分にしか出来ないこと……?」
「このスタスタは持てるスキルの数が決まっている、というのは知ってるよね?」
「うん」
この Star Of The Star ではプレイヤー一人が持てるスキルの数には限りがある。そのため、他に有用なスキルを入れようと思ったら、他の何かのスキルを捨てなければならない。
スキルの組み換えには貴重なアイテムが必要となってくる為、スキル構成は重要なファクターとなっている。
「強い人達は自分の身を守るため、若しくは高難易度ダンジョンを踏襲する為に、戦闘向きのスキルを重視する傾向にあるの。でもね、初めから強い人頼りの私たち無課金者はそんな事は考えなくてもいいんだ」
「──え??」
「私のスキル、見てもいいよ」
そう言われた忍は【識別】でましゅまろのスキルを見た。
彼女のスキル構成は、上から下まで補助系スキルで埋め尽くされていた。
「ええ!? これ……全部……!?」
「そうだよ! 強い人が強い敵と戦う。そして弱い人がその旅の手伝いをする。良い言い方をすれば、これって、ギブ&テイクなんだよね。だから、私達は私達にしか出来ないこと。それを頑張ればいいんだよ!」
この子にもまた、無課金者という弱い立場に負い目を感じてる素振りは一切無かった。
この話を聞いた忍も『自分にも出来るかも』という気持ちが少しだけ湧いてきた様子で、拳をグッと握った。
「うん! 僕も頑張るよ!」
「その意気だよ!」
そんなやり取りを見ていた課金者二人は暖かい目でそれを見守っていたが、ヤエは少し不服そうだった。自分が分からせてやりたかった、とでも思っているのだろう。
その後第3グループの5人は、ひとまず街を出てフィールドに移動した。
早速ここで役に立つのが、ましゅまろの持つスキル【鷹の目】である。
「ましゅまろちゃん、よろしくね!」
「任せてください! スキル【鷹の目】!」
スキルを使用したましゅまろの背後から、1羽の鷹が飛び立つと、そのまま空高く舞い上がって行った。
「どう?」
「う~ん……南の方に赤い塔……西に青い塔…………北東に金色の塔で…………南西に『虹色の塔』! 発見しました!」
スキル【鷹の目】はフィールド上を俯瞰で見ることの出来る力だ。
この目を使えば、マップ上に表示されない塔を探すことも容易い。
「よし、目指すは南西の虹の塔だよ! 皆行くよー!」
意気揚々とヤエが手を上げると。酒呑王子はあるアイテムを使い、かぼちゃの馬車を出現させた。
「移動速度が上がる乗り物だよ。ここからならこれで行ったほうが速いと思うよ。さあ、皆乗って乗って」
さすが王子。イメージがピッタリすぎだろと、一同は頷いた。
「まさに気分はシンデレラですね! さすが王子さん!」
「そうだろ? 姫を運ぶのにピッタリの乗り物だな!」
「ははは……僕はヤエの魔法が解けないか心配だよ。その裏の顔────、痛でででででで……!」
ヤエは足で忍を走る馬車から押し出した。乙女心を傷つけたのだ。当然である────
「王子さん……! 見ましたか!? ヤエは本当はこういう奴なんです……! 普段は猫を被ってるだけなんです……!!」
「忍くん、それは違うと思うよ?」
「え?」
「ヤエちゃんがギルド内でそんな態度をとるのは、忍くん、君の前だけなのさ。つまり、そっちが表の顔で裏の顔が普段のヤエちゃんの可能性だってあるんだよ」
「つまり……?」
忍がヤエを見ると、ヤエはぷいっとそっぽを向いてしまった。
完全に機嫌を損ねてしまったようだが、酒呑王子はそれを見て大笑いしていた。
かぼちゃの馬車はグングンと進み、気づけば虹の塔はすぐそこまで迫っていた。
「見えたー! 突撃ー!!」
かぼちゃの馬車が減速することなく虹の塔の前まで突き進んでいくと、塔の前には既に数人の男達がたむろしていた。察するに、この人達もヤエと同じく虹の塔の踏襲が目的なのだろう。
馬車が五人組の前を過ぎる時、ヤエは一人馬車から飛び降りた。
「そこを退くのだ。愚民共。今からこの塔は我々が制覇する────」
それを見た忍は、やめてくれよと言わんばかりに馬車から飛び降り、ヤエの側に駆け寄った。
「姫プの八重歯……!」
「かがぷりだ……! かがぷりが来たーー!!」
口々に恐怖の声をあげた5人組は、一瞬にして蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。が、その中で一人逃げ遅れたものが居た。
彼はヤエに睨まれ動けない様子で、全てを諦めたような顔をしていた。
「ゆ……許して…………」
「許すもなにも、私達は────」
「もう嫌だぁぁぁ!!」
ヤエの言葉を聞く前に、取り残された男は最後の叫びを残し、抜け殻のようになってしまった。
【ログアウト】である。つまりゲーム自体を離脱したのである。
しかしながらこのゲーム、スタスタはバトル中のログアウトは認められていない。例えログアウトをしたとしても、バトルの勝敗は反映されてしまうのだ。
「どうするの……これ?」
「知らん。取り敢えず埋めておけ。とその前に…………」
ヤエは抜け殻となった男のポケットをまさぐり始めた。
「ちょ、なにやってんの!?」
「戦利品だ。無課金者は貰えるものは貰っとかないと、あとから響く」
「戦利品って……」
「綺麗事を言うな。このゲームはサバイバルだ。生きるか死ぬかだ。命を奪わないだけありがたく思うべきだ」
その言動に忍は、ますますヤエという女の子の事が分からなくなった────
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