星堕ちる夜に

Sura-Iti

なろうにも投稿中/短編 読み切り

 遠くから教会の鐘の鳴る音が聞こえる。空に飛ぶ飛龍は炎に染まり、騎士の鎧には雪が振り積もっている。時は12月。太陽が沈もうとしている。少し眩しい。私はトランクを持つ。夕焼けに染まった玄関の扉を開け、鍵を閉める。ため息を一つ。少し立ち止まったあと、身を翻しゆっくり歩き出した。ここに居を構えてはや7年。私はこの街に別れを告げ、私は旅に出ることにした。幸い、友との別れも済んでいる。私の家族はもう居ない。後ろ髪を引かれることはない…(はずだ。たぶん。)

 それは唐突に発表された。つい一ヶ月前に。この世界は終末期に入ったそうだ。星の堕ちる日が近い。だだいたい3年ってところらしい。心が空虚になった、同時に納得の感もあった。そして、私はすべてを捨て、旅に出ることにした。せめて最後にこの世界をこの目に焼き付けるために。(無理やりそういう目的をつくって。)


最寄りの駅に着く。券売所の前で立ち止まる。さあ、どこへ行こうか。

そして係員におもむろに話を繰り出す。

 "全線自由切符、乗車期限は無期限で。"

駅員は戸惑ったように言った。

 "無期限…ですか?"

後ろにいた初老の男も目を丸くしていた。。

 "ああ。"

私は答えた。無期限で切符を買う人は少ないらしい。まあ、そうか、相応の金額は必要だから。駅員は、困惑しながらも、発行してくれた。

"はい、無期限切符です。なくさないように気をつけてください。なくされましたら、一生改札から出られないようになりますから…。"


切符を買ったあと、後ろの男から話しかけられた。

"若いの、たびに出かけられるのですか?"

"ええ。"

"そうですか…わしも若い時に2年ほど旅に出ておりましてなあ…旅はいいですな、自分の心を満たしてくれますから…そうですな…次の電車まで時間もあることですし、そこでお茶でもしませんかな?"

たしかに時間がある。私はその言葉に応じることにした。黙って頷き、脇にある喫茶店の丸テーブルに歩みを進める。

そうして私達は紅茶を頼み、話を始めた。近況、食べ物、何処に良い店がある…などなど…

1時間ほど立っただろうか。話も途切れかけた頃、彼はまだ明るい空を見上げて唐突に言った。

"そう言えば今日は流れ星の日でしたか…"

"そうそう、例の日も見えるみたいですよ、流れ星。"

へぇ、そうなのか。

彼は続けて言った。

"もし機会があるならデ・パダユットに行ってみなされ。ここからずっと東に行ったところにある小さな町です……景色がきれいなところでね…私の故郷でもあるんですよ。きれいな丘があるんですよ。 きっといい星が見れますから…"

私達はしばらく景色を眺めていた。

少したったあと。私はポツリと答えた。

"そうですか…一度立ち寄ってみますよ…"

その後私達はずっと暮れゆく空を眺めていた。


やがて、汽車がやってきた。東行き。丁度いい。私は立ち上がった。

"ありがとう。さようなら。"

私は言った。

"よい旅を。"

"ではまた。"

上を指して彼はそう言った。

私はハッとした。そうか…そうだな。

言い直す。

"では、また。"

男の顔は満足気に微笑んでいるように見えた。

改札に入る。東行きの夜行汽車に乗る。席に座る。もう窓の外は暗い。空には流れ星が光り輝いていた。


友人への手紙(著者一部抜粋)

P.S……あなたはこの世界が終わるとしたら…何をしたいですか?…ーendー

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星堕ちる夜に Sura-Iti @suragaya

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