第4話 死因

 チャボットの事に関しては、やはり私も言っておかなければならない事がある。


 だからこれは良い機会なのかもしれないと思い直した。




「……確かにチャボットの事は、私にも悔やむ所があります」


「そ、そうだろう」




 殿下の眉間からしわが減った。


 自分の思う通りに話が流れ始めたとでも思ったのかもしれない。




「もっと欲しいと強請ねだるチャボットに、全部あげてしまえば良かった……」


「もっと欲しがった?」


「あとで餌が食べられなくなるかと思ったのですが……」


「は? 死んだら餌は食えんだろう……」


「途中でめさせなければ良かったのです」


「途中でめる? 少々躊躇ためらったからといって罪は軽くなどならんぞ?」


「殿下はそれでお怒りなのではなかったのですか?」


「グレイシア? お前は何を……?」




 まるで合いの手を入れるかのように小さく呟いていた殿下が、困惑して眉をしかめているが、それはこの際置いておく。


 私はこの場に集まる多くの者に懺悔ざんげするかのように声を大きくした。




「ですから! おやつでお腹が一杯になっていれば、あんなに餌を急いで食べなかったかもしれない。──殿下はそう仰りたいのでしょう?」


「え? いや、私が言いたかったのは……」


「違うのですか? では、あの時もっと注意して見ていたら、餌に混じっていた異物に気付けたかもしれないと……?」


「餌に異物? そんな誤魔化ごまかしはかんぞ」




 困惑から一転、怒気を含んだ言葉に変わる。


 あぁ、もしかして殿下には別の説明がなされていたのかもしれない。


 自分の顔色が変わるのを私は感じていた。



 もしかして、日々の世話や飼料を用意している飼育員に罪が行かないよう配慮されていたのに、私がうっかりここで明かしてしまたっとか!?




「申し訳ありません」


「やっぱりお前が……チャボットに毒を盛ったのか!?」


「……毒?」


「そうだ。異物などではない。チャボットは毒殺されたのだ! それをお前が、ここにいるルーザリアの罪と偽った事は分かっているんだぞ!」




 そう言って殿下は薄桃色の髪の少女を全面に押し出し背後から抱きしめた。


 彼女は怯えたような仕草でクラウン殿下の腕にしがみ付き、フルフルと震えながら発言する。




「グレイシア様、もう嘘はやめて下さい! ちゃんと本当の事を話してくれたら、きっとクラウン様だって温情をかけてくれます!」




 震えていたとは思えないほどハッキリきっぱり言い切ったルーザリア嬢。




 私、初めてこの方の声を聞きましたわ。


 でもこの声、どこかで聞き覚えが……。



 どこでだろうと考えて思い出す。


 これは私の行く先々で、ずべっと転んだり、池や噴水に飛び込んでいったり、お茶や食べ物を盛大にこぼしていたりと、数々の奇行を披露ひろうしていた令嬢かもしれない。


 周囲の者がガードしてくれるから、これまで直接本人と接触していなかったけど、ニアミスは知らない内に起こっていた事を今知った。

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