第3話 誤解

 私が現実逃避している間にクラウン殿下は痺れを切らせたらしい。


 眉間にしわを寄せている。




「謝罪するのなら聞いてやるが?」


「はい?」




 偉そうにそう言われるが、私が謝るような事など何も無い。


 言いがかりもいい所だ。


 それにチャボットは、名目上の飼い主クラウン殿下より私に懐いていた。


 常々『ご自分でもお世話なさってください』と言っていたのを無視して、世話係りに任せたまま放ったらかしだったチャボットを外に出してみたり、運動のために走らせたり、優しく話しかけたり、そうやって世話していたのは私だもの。


 だからチャボットの飼われている場所に出入りする姿などいくらでもあっただろうし、それを見たことのある者は大勢いるに決まっている。


 そしてチャボットが死んでしまって、より悲しんだのは殿下ではなく私だ。


 殿下は悲しんだかすら危うかったと思う。




「チャボットが亡くなってから大分経ちますが、なぜ今ごろになってその話を?」


「バカを言え。まだそれほど経っていないだろ」




 見解の違いにイラッとしつつ、この殿下の暴走を止める者──もしくは止めようと試みる猛者もさはいないのかと見渡す。


 しかし殿下の未来の側近たちは自分に話を振られないよう、なるべく目立たないことに労力をいているようだ。


 誰一人として真正面を向く者はなく、時折り様子見にチラッと目を上げるだけだった。


 そしてその中には、私の幼なじみの公爵子息も含まれていて……。




 ヴィクターったら、なに隠れてるのよ。


 少しは私の味方になろうとか思わないのかしら?


 あの薄情者め!




「殿下がチャボットの死因に関係する者すべてをとがめたいと思うほどお怒りとは……私、知りませんでしたわ」


「は?」




 私の嫌味にクラウン殿下は器用に片方の眉尻だけを釣り上げた。


 今の言葉くらいで顔に出るほど殿下が不機嫌になるなんて、これでは王族の資質を疑われかねない。


 感情を隠さないのは良くないと注意したいところですけど……その前に疑問を解消したい。


 大体にして、どうして私がチャボットを殺した事になっているのか?


 そしてなぜ、そんな話を持ち出してまで、今この場で婚約破棄など言い出したのか?




 すべてが謎過ぎて分かりませんわ。

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