第5話 難波駅

 自分が幼い頃、父親を見送りに難波駅に行った。


 本妻さんは和歌山の人で妾である母親と一緒に見送るのである。


 その頃の難波駅はホームを出て駅前に多くの賭け将棋のおじさん達が群れを成していた。


 その様子を珍しそうに見ていると、「そんなもの見なさんな」と鳥取と大阪の訛りが混じったアクセントで母親がよく言っていた。


 一度、父親が難波の宝くじ売り場で10万円を当てた。


 自分の幼い頃だから、今の10倍ぐらいの価値だろうと思う。


 当たったのはそれぐらいで、後に、本妻さんの家の人間に為替手帖を預けたら、かなりの金額を現金化されて、父親は破産をした。


 遠い記憶の難波駅は帰りに買う松阪牛の牛肉弁当の味と重なる。


 断片化した記憶を箇条書きにしてみたが、あまりに遠い記憶なので靄がかかっている。

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