第45話 皇ニ、悪夢に喰われる。視点、皇ニ
目の前に佇む不良女アブラヘルの背後には、黒煙が上がっていた。
火山口から湧き出る煙というのはわかっていても、彼女のどす黒いオーラのように感じる。
俺は1メートルほどある岩を背に、メリディアナをゆっくりと移動させた。
途中、「行ってはいけません!」と、念押しされた。
「でも、今俺が向き合わないと行けないんだ」
彼女の心配を振り切り、目の前の不良女に顔を合わせた。
「このクソガキがてめぇらを呼んだか、まぁいい。もう手遅れだしな」
アブラヘルが手遅れと指しているのは恐らく、皇気がすでに悪夢に囚われているからだ。
屋上の時の俺と同様、あいつの魔法で気絶させられて夢を見させられている。
誘拐した理由はわからないが、皇気が深刻な状況になっているのは確か。
彼女が懇願して俺の要望を聞くとも思えない。
いや、それ以前に炎で攻撃してくる相手と対峙することすら危うい。
だが、それでも俺はこの場から逃げる訳には行かない!
「ハハハ! 馬鹿な奴だなぁ!」
突進する俺へ、彼女は白く光る輪っかのようなものを空中へ出現させる。
周囲に形成された輪は、収縮して身体の自由を奪う。
手足を拘束され倒れる俺へ、アブラヘルは不気味な笑みを浮かべた次の瞬間。
鼻先へ蹴りが入り、鼻腔から血が溢れた。
鼻を抑えることもできず、苦悶の顔を浮かべるしかない。
痛みに耐えながら、なんとか見上げるとアブラヘルは高笑いをしていた。
「どうだメリディアナ、お前の男がこんな情けねえ面になったぜ?」
髪を掴まれ、傷を修復中のメリディアナに顔面を向けさせられた。
「やめてください! なんで、なんでそこまでして酷いことをするんですか! 天使は、人を助ける存在なのに!」
「うるせぇ! 生まれた場所だけで私の人生を左右するんじゃねぇ! 私は自分たちの糧のためにストレス回収してるくせに、善人ぶるてめぇらが嫌いなんだよ!」
そうか、こいつがここまで堕ちたのは……。
俺は垂れる鼻血の痛みを耐えながら、アブラヘルへ声をかけた。
「君さ、俺と同じで寂しいんだよな。気づいてもらえないよな、そういうの」
そういうと、アブラヘルは眼光を見開いて1秒ほどこちらを凝視した。
秒後、彼女は動揺した表情から再び鋭い目付きに変わる。
「ハ、ハハハ! てめぇもどうやら、クソガキと一緒に死にたいようだな!」
アブラヘルは俺を魔弾で吹っ飛ばした。
痛みはないが、背後に目をやると皇気の頭から立ち上る球体の黒煙が迫っていた。
悪夢に触れると、一瞬にして暗い闇に視界がジャックされる。
直前、メリディアナの叫ぶ声がした。
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