第40話 皇気の居場所。視点、皇二
そんな、メリディアナが1週間で消えるなんて。
「あ、そうだ! ノルマは達成しているんだし、また休日とかにふらっと来れるんじゃないのか?」
俺がそういうと、彼女が首を横に振った。
そして、自身の右腕を見せる。
あれ、いつも彼女が装着していた時計のようなリストバンドがない。
「ストレスエネルギーを蓄積するカウンターは、アブラヘルちゃんに譲りました。そして、この課外学習を達成できなかった天使見習いは二度とこちらへ来ることはありません。天使の裏方として、天界で一生を過ごすことになるんです」
「そんな、メリディアナはなんでそんなことを」
「簡単にいえば、皇二さんを助けるためにやむを得ず」
俺のため?
そんな......皇気の一件と重なってゴタゴタし始めたタイミングでこんな。
ちゃんと謝りたかったのに、なんでいつも俺はこう運が味方してくれないんだ!
唖然としていると、スマホに通知が入る。
母から父の家にて、詳しい事情を話してもらえるという旨の内容だ。
クソ、絶対に皇気の一件を片付けてメリディアナに誠心誠意謝ってやる。
「行こう!」
時刻は0時を回り、日をまたいで間もない頃だ。
いつもの慣れ親しんだ一軒家の前へ来た。
恐らく、こんな事態が発生しなければもう二度と踏み入ることはなかった。
中へ入ると、コワモテのヤクザと呼ばれても説得力がありそうな中年の男性がリビングで佇んでいた。
その男性は敬語で淡々と、怒鳴る父に返答する。
俺ら3人は2人の口論に割って入り、事情を聞くこととなった。
「ですので、犯人のこちらへの回線を傍受したところハワイを指しました。我々としても国外からの救出は大変困難でして、事件は難航している次第です」
コワモテの刑事は父への対応と違い、俺ら3人には少し責任を感じた表情を浮かべる。
それにしても、身代金の要求までは理解できる。
けど、ニュースになったのは何故だ?
こういう事件って、公になるものなのか?
俺が疑問を抱いていると、案の定父はまたしても刑事に詰め寄った。
「おい犬! 貴様らに忠告したはずだぞ! 皇気の件は公にせず、静かに捜索してくれと!」
「ですからそれは先ほど申し上げた通り、犯人が通話内容をマスコミに流したんです。どういう理由か知りませんがね! こちらとしても対処しようがないんですよ! わかってくださいよ!」
2人はまたしても口論を繰り広げる。
母は泣き崩れ、話す余裕はなさそうだ。
無理もない、俺もまさか海外に誘拐されているとは予想外だった。
ハワイまで今から飛ばしても、飛行時間は8時間以上かかる。
羽田までの道のりも計算すると、凡そ半日。
そこから犯人の居場所を特定する時間、あぁ考えるほど1週間以内というのが現実的ではない。
もう俺らに打つ手はないのか?
ただ犯人の要求通り、身代金を払うしかないのか?
いや、犯人の要求した金額はおよそ父の資産の半額だ。
離婚調停で財産分与をするとなれば、そこからさらに半分をこちらに渡すことになる。
恐らく父が身代金の要求に屈することはないだろう。
何故なら既に世間体は崩壊し、彼には蓄えた資産しか残っていないのだから。
「ハハハ、どうせ身代金払わなきゃ勝手に放すだろ? ならいいじゃねえか、ハハハ」
親父は案の定、開きなおった態度でそう言い放つ。
母は、彼に向かって声を荒げた。
「あなた、それでも親ですか!」
「うるせぇ! お前ら3人とも、こんな欠陥品になるとは思わなかったんだ! ったく、ここまで俺を陥れやがって! 親もクソもあるかよ!」
警察もダメ、親もダメ、そしてただの中学生のガキである俺が何かできるわけでもない。
完全に詰んだ。
「皇二さん、私を忘れたんですか? ほら、背中に......んぐっ」
羽を広げられそうになる直前、俺は彼女を廊下まで連れ出す。
あと一歩、判断が遅かったら危うく親たちに天使であることがバレるところだった。
額の汗を拭い、彼女に目をやる。
「ハワイまで8時間かかるんだぞ? 俺を担いで、本当にできるのか?」
俺は諦めた口調でそう言い放つ。
彼女は少し目を閉じた後、キリっとした顔になった。
「はい。もう私はこの世界に戻ることはできませんので。私に優しくしてくれた皇二さんのためにも、振り絞れる力は使いたいと考えてます」
その真剣な眼差しに、ただ応えるしか俺にはできなかった。
「わかった。支度をしたら、ハワイに行こう!」
「はい!」
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