第35話 アブラヘル、復讐する。視点、アブラヘル

「じゃあ、本当にアブラヘル......ちゃんがしたの?」


「ハハハ! いい表情になったじゃないか」


 馬のチ○コ食わせてもケロっとしてた女が、こうも困惑した顔になるとはね。

記憶改ざんした甲斐があったわ。


「なんでこんな酷いことしたの?」


 メリディアナの動揺した顔はすぐさま消え、涙ぐんで眉間にしわを寄せる。


「なんで? お前に男を奪われる気持ちを教えてやるためだよ!」


「意味わからないよ、アブラヘルちゃん!」


「まだわからないのかよ! お前が私の男のプライドズタズタにしたんだろうが!」


-------


 そう、私の彼はヤリチンで有名だったが最強だった。

喧嘩が強く、ムカつくと女であろうとグーパン。

天使でありながら悪に染まる。

同じスタイルを貫く同士、彼と私は出会ってすぐに波長が合うのを感じた。

普通の女は彼氏が他の人とヤルのを許せないだろう。

しかし、私は別だ。

女がとっかえひっかえであればあるほど、こいつの男としての価値が高く見えた。


 だがある日、彼がメリディアナに声を掛けて全てが狂った。

あの女は彼が話かけて無視し、素通りした。

彼の後をつけ、私は2人のやり取りを盗み聞きした。


「あ、すいません。話かけてくれる人少ないもんで」


 メリディアナは後頭部に手を当て、申し訳なさそうに微笑んだ。

その様子を見た彼は、「かわいい」とポツりと呟く。


「なぁお前、俺と付き合わないか?」


「え、嫌です! 私、不良嫌いなので」


 はぁ!?

確かにあいつは見た目もゴリゴリのヤンキーだが、顔に関しては1000人以上の女が認めた物だぞ?

クソ、腹立ってきた。


「わ、わかった。じゃあ真面目な服装選んでくれよ」


 いつもなら反抗的な女は少し圧をかけるのに、変だ。

それから段々と彼のリーゼントの長さが縮み、一ヶ月経過した。

髪型は完全に普通になり、丸眼鏡を掛けている。

遊ぼうと声をかけても授業を抜け出さない。

私の男はメリディアナによって、真人間へと仕立て上げられた。


「メリディアナさん、僕ら付き合って一ヶ月だね!」


 彼は私という存在がいながら、メリディアナのことを性的対象ではなく恋愛感情を持っていた。

何か別れさせる策はないかと、ひたすらストーカーする日々が続く。


「僕らそろそろ、エッチしてみないか?」


「え、どういうこと?」


 彼の言葉にメリディアナは小首を傾げ、少し困った顔を見せた。


「僕らもう立派な恋人じゃん」


「えー!? 違いますよ、友達の付き合いをしてたんじゃ」


 そのやり取りを見て、メリディアナがアホということがすぐわかった。

結局その後は、彼に恋人がいることを知っていたメリディアナは付き合うことを拒んだ。


「二股とかはダメですよ! その子のこと大切にして」


 そう言い残し、メリディアナは彼から離れていった。


「お前のせいで私の彼氏は変わってしまった。だから、お前が好きな相手に嫌われるよう仕向けたんだよ。まぁ、私の介入がなくてもお前とまともに話してくれる奴なんていなかっただろうけどな」


「事情はわかった。たしかに私は人の言動を察するのが下手。そのせいでアブラヘルちゃんの彼氏に酷いことした。その件は本当に、ごめんなさい」


 メリディアナは頭を下げ、謝罪した。

まぁ、今更謝った所でもう遅い。

さて、ここから更に苦しませるにはどうしたものか。


「でも皇二さんは最後は酷い別れ方だったけど、私とちゃんと向き合ってくれた。そのおかげで私もちょっとだけ、何がダメで何がいいかわかるようになった気がするんだ」


 そうだ、今のあいつの現状を教えてやるか。


「なぁメリディアナ、許してやる代わりに1つ賭けないか?」


「賭け?」


「そうだ。お前と向き合ってくれたその男、今どうしてると思う?」


「どうって、皇二さんならきっと柔道部を立て直しています!」


 ちっ、正解しやがった。


「で、その後はどうなったと思う?」


 そういうと、沈黙してこちらを見てきた。

ハハハ、どうやら今度は簡単に推測できないようだな。

メリディアナは悩んだ末、ゆっくりと口を開いた。


「立て直した後は、きっと前よりも楽しい生活をしているはずです!」


「じゃあお前はそれに賭けろ。もし負けたら、ノルマを全部私によこせ」


「え、でも」


「なんだ? お前と仲良くしてくれた相手のこと、信用できないのか?」


 けしかけると、彼女は首を横に振る。


「わかりました」


 そういうと、私は彼女に地上が見える望遠鏡を覗かせた。

もちろん私は事前に把握してる。

奴が今、失恋した挙句に家を追い出された直後ということをな。

ハハハ!

これでこいつは更に絶望し、私はノルマを楽々手に入れて卒業。

我ながら最高の復讐だ。

さぁ、曇った顔を見せろ!


 望遠鏡から頭を離した瞬間、私は彼女を眺めた。

しかし表情を確認する間もなく、彼女はこの部屋の出口へ向かう。

な、なんだ!?

こいつもしかして、ノルマが惜しくて逃げる気か?

そうはさせない!


「待て! 右腕のカウンターを私のと交換しろ!」


 腕を掴むと、彼女はこちらに振り向いた。

カウンターはノルマの達成度を示している。

これさえあれあれば、課題はクリアできる。

メリディアナは何も言わず、急いでカウンターを外してこちらに投げる。


「なんなんだよ!」


「放してください! 皇二さんが不良の方々に殴られてたんです! 急いで助けないと」


 こいつ、真剣な目をしてやがる。


「お前、課題達成できないのになんで? それに、こいつはお前を見限ったんだぞ」


「皇二さんがどう思おうと関係ありません。大切だと心で思った方が、酷い目にあって見捨てるなんて私にはできない!」


 メリディアナは手を振り解き、羽を使って急ぎ足でその場を去った。

何だよ……何なんだこの感情は。

ノルマも後一つ、メリディアナはもう今年卒業できず留年。

復讐は達成したはずだが、この虚無感は何だ?

そうか、あいつは男を見捨てなかった。

私は変わってしまった彼に、向き合うことなく捨てた。

この達成感のなさは、敗北を感じたからなのか?

どうやら、私がメリディアナを絶望させるにはあの男をどうにかするしかないようだな。

ハハハ!

絶対にお前を私と同じ場所まで叩き落としてやる!

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