第34話 アブラヘルとの再会。視点、メリディアナ
白いモコモコの床が敷き詰められた球場ほどの大きさの部屋。
その円形の部屋の端には望遠鏡が設置されていて、覗くと地上の様子が確認できる。
私はその部屋の中央に4つほど設置された長椅子の1つで、肘掛けに重心を乗せ地上を覗ける長筒を見つめた。
皇二さんと別れて1か月、皇二さん家で定期的に回収した甲斐もあってか、ノルマは後1食分で完遂する。
「簡単!」と楽観的に過ごして来ましたが、もう1週間しか残りの日がないよ。
ストレス抱えている人って頭にすぐ血が上るから、ちょっでも琴線に触れると怖い。
みんなは記憶改変すれば楽勝って言うけど、一時的なストレス解消のためにポンポン魔法かけていいのかなぁ。
噂だけど、札幌で一人暮らしのお爺さんが魔法かけられた後に同様の快楽を求めて危ない薬に手を出したとか。
考えてみれば、ストレスを抱えるのは環境のせいなんだから一時的にストレス解消させても意味はない。
なら天使がストレスエネルギーを回収しても、地上の暮らしは良くならないんじゃ?
……って、私は何学校のノルマと関係ない難しいこと考えているんだ!
もぉ、やっぱり1人って嫌だなぁ。
誰ともまともに会話しなくなると、視野が狭まるって言うけど、今やっと実感した。
愛菜ちゃんや皇二さんと出会う前には……わからなかった。
皇二さん、あんな別れ方したくなかったよ。
うぅ、望遠鏡で皇二さんがどうなったから知りたい〜。
でも、なんかこれって仲良くなった人にするのは罪悪感がある。
でも覗き……たい!
「ハハ! お前も酔狂だね、メリディアナ」
筒を握った瞬間、背後から聞き馴染みのあるハスキーな女性の声が聞こえた。
振り返ると、ニタニタと笑うアブラヘルちゃんがいた。
屋上での一件以降、気まずくて話しかけられなかったんだ。
でも、アブラヘルちゃんから声をかけてくれた!
やっぱり彼女は私のこと、友達だと思ってくれてる!
「あ、アブラヘルちゃん! ごめんね、屋上でさよならして」
「いいよそんなの」
彼女はタバコを5本咥え、顔面が見えなくなるほどの濃い煙を吐いた。
天使は人間のようにタバコで身体は悪くならないけど、5本同時って咳き込まないのかな?
というか何故だろうか、彼女の笑みに見覚えがある。
いや、そんなことよりもう一個謝らないと!
愛菜ちゃんの一件で魔法を掛けた天使が、アブラヘルちゃんって確証はないのに少し信じてしまった。
「あのねアブラヘルちゃん、私もう一つ謝らなきゃいけないことがあるの。私、地上にいた時アブラヘルちゃんが悪事を働いてるって話を少し信じてしまった。本当に……ごめん!」
頭を下げると、彼女は沈黙した。
何も反応しないので、ゆっくりと見上げる。
彼女の顔がゆっくりと視界に入った。
煙が消えると、彼女は口を開いた。
「ハハハ! 謝る必要ないんだよねそれ。だって私がやったんだから」
「……っえ?」
想定外の返しに、私の思考は一瞬停止する。
無意識に近い声が溢れるように出た。
……思い出した。
「あんたほんとここに何にも詰まってないね。あんたの女のダチも、部活の部長もぜーんぶこのわ、た、し! ハハハ、ざまぁ!」
渋谷で愛菜ちゃんのことナンパしていたあの男の人と同じ、騙す人の笑い方だ。
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