第31話 再スタート。視点、皇二
翌日、朝練の時間に縁下さんと道場にて合流した。
もちろん理由は勧誘についてだ。
「うーん、勧誘のチラシとかポスターじゃやっぱり限界あるよね」
眉間に皺を寄せ、腕を組む縁下さんは唸り声を上げて考え込んでいた。
俺も彼女と同じく、何か考えを巡らしてはいるがやはり手段が浮かばない。
投げられ屋みたいな奇抜なことは、注目を集められるが不良のような厄介ごとを巻き込むリスクがある。
かと言って普通のやり方じゃ興味を持つことなんて滅多にない。
「そうだ! チアガール姿で勧誘するのはどうかな?」
「チ、チアガール!? それって縁下さんがってこと?」
驚きながら返すと、うんと照れながら頷いた。
縁下さんって邪な作戦とか考えなそうだと思ってたけど、案外何でもやるんだな。
って、関心している場合じゃない!
彼女は胸はメリディアナに劣るが、少し幼い顔立ちとボーイッシュな雰囲気がある。
本人は気づいていないが、結構男子の間で人気があったはず。
そんな彼女が露出のあるチアガールの服装で勧誘をしたら、覆面どころじゃない騒ぎになるやも。
「縁下さん、それはやめといた方が」
そう言いかけると、彼女は少し潤んだ目をした。
「まぁ、私の容姿じゃダメだよね。でも、柔道部って応援団いるイメージないでしょ? それに柔道ってむさ苦しいからさ、女の子と応援があるって知ったら部員になってくれる人いるんじゃないかって思ったのよ」
ぐっ、一理ある。
いや一理どころか確実に部員は集まるだろう。
しかし、質を度外視しすぎではないか?
いくら部員が足りないと言っても、邪な気持ちで入部した部員が増えるは……。
「シクシク」
提案について熟考していると、彼女がハンカチで頰を伝う涙を拭いていた。
いかん!
必死に考えてくれて、一回も試していないのに否定するのは良くない!
「いや、縁下さんは可愛いよ! う、うん、一回やってみよう」
動揺しながらも俺は彼女の作戦に賛同した。
すると、縁下さんはコロっと表情を変化させて笑顔になる。
「やった! ありがとう佐藤君!」
この人、実は結構承認欲求が強いんじゃ……。
まぁでも、この笑顔のせいで誤魔化されるんだよなぁ。
「はぁ」と、ため息をついた直後のことだ。
部室の扉がガタっと開くと、のぶとい声が響いた。
「失礼します」
振り返ると、そこには見覚えのある2人がいた。
「田中、遠藤!」
縁下さんはびっくりしてそう声を大きくした。
2人は彼女から目線を外し、どこか緊張しているように見えた。
「インコちゃん、あのさ、もう一度入部してもいいかな?」
彼女は2度の意表をつく出来事に目を丸くし、ぽかーんと口を開けた。
「インコちゃん、それに佐藤! 申し訳なかった! 俺ら受験で少し焦ってて、柔道部のこと気になってたけど、いい辞め時だと考えてしまったんだ。だけど熱士は俺らのこと考えて今も頑張ってて、お前らも柔道部のために動いてる。なんかそう思うと逃げるように辞めるのは、俺らダサすぎてさ」
どうやら、熱士のあの写真が彼らの意欲を取り戻したらしい。
俺はもちろん歓迎だが、縁下さんはどうなんだろう。
そっと覗き込むように彼女の方を向いてみた。
「いいけどさ、2人ともまだ辞めてないよ? ほらここにまだ退部届の紙あるもん」
彼女はそういうと、懐から2枚の紙を取り出した。
「おぉ! インコちゃんまじで天使!」
涙ぐんだ2人は彼女に抱擁しようと突進を始めた。
巨漢2人の突進で怪我しないかと心配したが、彼女は柔道経験者であることを思い出した。
案の定構えを取り、対処するため動き出す。
「うぐぅ! 酷いよインコちゃん」
彼女は柔道の技を使わず、ただ金的に蹴りを入れ大男2人をダウンさせた。
「よし! 佐藤君、勧誘の人数後1人だね!」
親指を立て、満面の笑みを浮かべる姿は少し恐怖を感じた。
最初の頃の印象からここ最近、かなり離れてきている。
俺が苦笑いをするも、彼女はマイペースに再び腕を組んだ。
「熱士が戻れば丁度だけど、確証はない。だから後1人は絶対必要なんだけど、さてどうする?」
「あの、柔道部ってここですか?」
縁下さんが腕を組んで数秒、下駄箱のある段差の前に背丈の低い男子生徒がいた。
彼は確か、俺が不良に絡まれてるところを助けてくれた人だった気がする。
「あ、先日はどうも。実は佐藤さんに謝ろうと思って来たんです。俺がSNSで投稿したせいで、まさか不良が来るとは想定外でした。しかし、あの時のはすいませんほんと」
え!?
わざわざそれを言いに朝っぱらからここに来たのかこの子。
めちゃくちゃいい子じゃないか!
それになんか土下座してるし、こっちが罪悪感湧いてくるよ。
俺が「わざわざ来てくれてありがとう」と、返答しようと口を開いたが、縁下さんが先に彼へ接近していた。
「君、よかったら柔道部に入らない?」
縁下さん、節操がない。
それに、彼は一度俺の勧誘を断っている。
謝りに来てはいるが、柔道なんかまったく興味が……。
「え? いいんですか?」
マジかよ。
彼女に手を握られた彼は、目を輝かせていた。
「実は、投げた時の感覚が忘れなかったんですよ。何か口実をつけて、ここに来れないかなって考えたんです。こちらから言おうとタイミングを見計らっていましたけど、まさか誘ってくれるなんて感激です!」
えー、やっぱりこの子良い子じゃないわ!
「やったぁ! 柔道部再始動よ! 早く熱士に報告しないとね」
あはは、これは俺の手柄ってことになるんだろうか?
なんか、肩透かしに物事が上手くいったなぁ。
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