レールを外れてみた
第23話 熱士、青ざめる。視点、皇二
「こっちよ佐藤君!」
少し丈があっていないのか、俺の腕を引っ張る縁下さんの手は裾の中にある。
って、そんな些細なことに気づいたからどうだというのだ。
「着いたわ! 縁下陰子です。失礼します」
彼女は2回ほど職員室のドアをノックし、少し強く開いた。
そして、こちらに視線を向ける教師たちに軽く一礼する。
俺も彼女に続いて頭を下げ、またしても腕を引っ張られた。
「おう縁下か。ん、佐藤?」
到着したらしく、彼女の手がゆっくりと腕から離れた。
目の前には、俺のクラスの担任がいた。
担任の姿が瞳に入ると、俺は思わず目を反らす。
やばい、こいつは母親と親交がある。
部活をしていることをチクられたら大変まずい。
「あぁ、彼は新入部員です。で、そんなことより熱士! あんた何してんのよ!」
誤魔化そうと考えていたところ、呆気なくそれが破綻してしまった。
案の定、担任は予想外の情報に目を見開く。
縁下さんが青ざめた顔の熱士の胸倉を掴みにいっている状況ではあるが、彼は気づくのに数秒遅れていた。
「こらやめなさい!」
担任は2人を引き剝がし、ため息をついた後口を開いた。
「とにかく、彼が暴力を振るったのは紛れもない事実。1か月の謹慎を与える」
「そんな先生、それじゃあ部活はどうすればいいんですか? 大会の参加者提出、ちょうど今月の終わりなんですよ?」
彼女が焦ってそう言葉を漏らすも、教師はキャスターの付いた椅子に腰かけ、腕を組んでゆっくりと首を横に振った。
「残念だが、彼の反省が示されなきゃ謹慎の短縮は望めないだろう。大会に関しては、部員を増やすなりで頑張ってくれ」
それから縁下さんがどれだけ交渉しても、担任は一歩を引き下がらなかった。
職員室の外に出た俺たち3人は、夕焼けが差し込む校舎で暫くの沈黙に包まれる。
......非常に気まずい。
部員だから連れられたのだろうけど、後の2人はどこへいったんだ?
というか、辞めるつもりだったのに何でこんな事態に。
「本当にあんた、何がしたいの?」
「わ、わからん。不良女に声をかけられて、それからの記憶が」
「はぁ、何言ってるか全然わからないよ! もういい、自分が一番なんでしょあんたはどうせ」
縁下さんはそう言い捨て、その場を去った。
熱士は彼女に何か言おうとするも、伸ばした腕は寸前で止まる。
不良の女って言葉引っかかる。
そういえば、高橋(愛菜)は魔法をかけられて記憶を改ざんされてた。
いやいや、立て続けに周りの人間がまた被害に合うなんて偶然ある訳ないよな。
仮にそうだとしても、解除されて終わったことだ。
うん、となれば俺もこの息の詰まりそうな雰囲気から脱出しよう。
そして、夜にグループチャットで退部する旨を伝えることにするか。
俺が静かにその場から距離をとろうとした、その瞬間だった。
「佐藤皇二! 頼む、少し付き合ってくれ!」
突然、涙と鼻水を垂らしはじめた熱士が詰め寄ってきた。
な、何がなんだかわからない。
けど、まだまだ面倒事は長引くらしい。
俺は結局、空気に飲まれて頷くしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます