第22話 皇二、言い放つ。視点、皇二

 昼休みが終わり少し眠くなる5限目の最中、俺は今朝の出来事で頭が一杯だった。

縁下さんが去った後、田中と遠藤に柔道部の過去を聞かされた。

あの太眉こと熱士は、いかにもな脳筋な喋りと性格から昔から厳しい練習を部員に強制させていたらしい。

昭和の根性論のごとく、水は飲むな、休憩するな、些細な失敗をしたら走り込みや筋トレ。

今朝みたいな暴力を振るったりはしないものの、根性で何でも乗り越えられるという思考だったらしい。



「じゃあ皇二!」


 その理不尽な練習に耐えられなくなり、部員が途絶えたという。

田中と遠藤、部員が2人だけになってようやく自分の過ちに気づいて反省した。

最初で最後の大会出場は残った2人のために絶対叶える。

そう誓って彼は部活勧誘を頻繁に行い始めたらしい。

なのに何故、またあのようになったかは2人もわからない。

ここからは俺の予想になるが、多分部員が増えて元の荒い気性が再発したのだろう。

だから体育会系は嫌いなんだよな。


「おい皇二!」


 顎に手をついて青空を眺めていると、誰かが名前を叫んでいるのが耳に入った。

前を向くと、教室中の視線を一点に集めていたことに気づく。

どうやら、考えに耽り過ぎて呼ばれたことがわかなかったようだ。

俺は急いで立ち上がり、恥ずかしい気持ちのまま黒板に書かれた問題を解く。


「流石だな皇二。だが、最近よそ見が多いしたるんでるぞ」


「は、はい。気を付けます」


 たくっ、これも柔道部のせいだ。


◆◇◆◇◆


 放課後、俺は帰り支度を済ませて足早に教室を飛び出た。

そして、下駄箱に上履きを入れて外靴を取り出す。

縁下さんには悪いが、午後の練習には出たくない。

靴を床に投げたその瞬間、目の前を黒い翼が横切った。

翼を追っていくと、下駄箱の上に辿り着く。


「皇二さん、逃げるんですか?」


 メリディアナは奪った俺の靴をスカートの上へ置き、下駄箱の上から見下ろしてそう言い放った。


「お、お前翼!」


 俺がどもりながら言うと、彼女は頬を膨らませながら翼を収納する。

周囲を見回してみたが、まだ誰もいないようだ。

こんなところ見られたら、大騒ぎだっていうのにこいつは。

ため息を吐くと、彼女はスカートをひらりと舞い上げて地面に着地した。

太ももから先が見えそうで見えない......てっいけない。

俺は目線を反らし、その場で黙り込んだ。


「私、皇二さん家にずっといて気づいたんです。あなたは、学校と家の往復だけでいつも1人。ご両親の言いつけで勉強をしなきゃいけないから、というのはわかります。

でももう少し、自分の気持ちを曝け出してもいいと思うんです。

私だって、歩み寄ったから......」


 彼女の言葉のどれもが、癇に障ってきた。

人を巻き込んでおいて、他人の気持ちも知らないで偉そうに、諭すようにいうな。


「前々から言おうと思ってたけどメリディアナ、お前うざいよ。俺は俺なりに必死に生きてんだよ! なのに、歯車狂わすように面倒事増やしやがって。良心から住まわせてやったが、もう我慢の限界だ! 家から出てけ!」


 彼女の言葉に被せ、俺は思いのたけをぶちまけた。

お望み通り、気持ちを曝け出してやった。

こんなに長々と喋ったことがないから、少し酸欠しかけた。

膝に手を当て呼吸を整えると、俺はゆっくりと顔を上げる。

ずっと沈黙いている彼女が、何を返すかと身構えた。


「そうです......よね。私、皇二さんに助けていただいた恩を返したかったんです。愛菜ちゃんたちと仲良くなって、私は少し毎日が楽しくなった。だから今度は私が、皇二さんの日常を変えたい.,....そう思ったんです。でも、迷惑でしたよねごめんなさい!」


 彼女は翼を広げ、校舎の外に出ると空へ消えていった。

横切って少し後、俺の頬に水滴が着く。

俺は初めて女の子を、泣かせてしまったかもしれない。

でも......これでいいんだ。

彼女が消えた上空を眺めていると、ふいに誰かが手を握った。


「皇二君! 熱士が大変なの! 一緒に来て!」


 振り返ると、縁下さんが充血した目で頼み込んできていた。


「わ、悪いですけど縁下さん俺もう」


「熱士が田中を殴っているところを、先生に見つかっちゃったのよ! それで職員室に呼び出されて、もしかしたら退学かもしれないの」


 た、退学!?

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