第14話 言葉の裏にある優しさ。視点、メリディアナ

 歩道橋の一件から翌日、私と皇二さんはとある病院へ訪れました。

天使が関わっていることを彼に説明すると、記憶改ざんの辻褄合わせをしないと行けないという。

私だけでは頼りないと言われ、腹が立ちましたがこの際しょうがないです。

今回の事件は完全に彼を巻き込んでしまったものですしね。

ですが、スマホでこんな饒舌なのにどうして面と向かい合うともじもじしているんですかねぇ。


「メリディアナ......ちゃん?」


 病室へ入ると、丁度彼女が目を起こした。

愛菜ちゃん......どういう訳か彼女に天使の魔法が掛けられていた。

規則を破った天使について、聞きださなきゃならない。

でも、非常に気まずい。

記憶改ざんで自分の意志でしていたことではないのだろうけど......。


「ごめん! 私が酷いことしたのに、助けれくれたんだよね?」


「え?」


 もしかして、解除魔法が中途半端だから改ざん後の記憶が残っている?

私でも使える魔法なのに、犯人は相当な未熟者なんだきっと。


「メリディアナちゃん、本当にごめんね!」


 あ、抱きついてる彼女のこと忘れていた。

泣いてる様子を見ると、嘘ではないようだ。


「いえいえ。私も愛菜ちゃんの気持ちも考えられず迷惑かけましたから。お互い様です」


「優しいいんだね、メリちゃんは!」


「メ、メリちゃん?」


 愛菜ちゃん、ベットの上だと言うのに偉く元気だ。

これだけ動けるなら、怪我とかの心配はいらないよね。

後は皇ニさんにどうするか決め……って居ない!?


「愛菜ちゃん、ここに皇ニさん居ましたよね?」


「え? 気づかなかった!」


 えぇ、どうしよう。


「それよりさ、私もあなたと一緒にモデルやりたいのよね。だから、嫉妬するんじゃなくて応募することにしたわ。って、聞いてるのメリちゃん」


「とりあえず元気ならよかったです! 明日は学校ですし、また仲良くしてもらえると助かります! それでは!」


 もう......皇ニさんはどこ?

院内を少し駆けると、看護師の方に注意された。

私はその方が通り過ぎるまでのそのそと歩き、後は小走りをする。

そして数分が経った頃、スマホに通知が届いた。


「辻褄合わせしなくても問題なさそうだな。俺は先にバス停に座らせてもらった」


 えぇ!?


「じゃあ隣でそう言ってくださいよ! わざわざ置いていく必要あります?」


「あ、あと5分」


「何が?」


「バスが着くの」


 そこで私はスマホをバックグラウンドに切り替えた。

もう!

一緒に来たのに置いていくってあり得ませんよ!

絶対追いついてやる!

私は小さな羽を出し、歩きの間隔を広げた。


「おいあれ……浮いてね?」


「なんだよ親父、ついにそこまでボケたのか?」


 すみません、真横にいたご家族の方々。

そして恐らく息子さん、あなたのおじいさんは慧眼であられます。

と説明してあげたいのは山々なんですけど、天使とか言えないですし、皇ニさんに追いつかねばならないので申し訳ないです!


◆◇◆◇◆


「待てい!」


 私がなんとか病院の前にあるバスターミナルに着くと、このお方は視線をキョロキョロとして態度が一変した。

まったく、本当に文字を打ち込んだ人物と同じなのか疑わしくなります。


「べ、別に帰りは別れてもよかっただろ?」


「ダメですよ!」


「は? な、なんで」


「なんでって、今しかちゃんとお礼言えないからです」


 そう、私が置いてかれる訳にはいかなかったには理由がある。

昨夜助けてくれたことを、ちゃんと伝えなきゃ。


「お、おい! 近いって! それに、なんで手握って」


「昨日はありがとうございました! 私、あの夜が一番嬉しい気持ちになりました!」


「おい! 周りにご、誤解される言い方やめろ!」


 なんと言われようとこの気持ちを伝えたい。

今まで話しかけては去られてきて、まともな交友関係を築けたことが無かった。

アブラヘルちゃんのことも、今となっては自分でも友達と思ってもらえていたか怪しいと考え始めた。

愛菜ちゃんとの一件があって、私は誰かと仲良くなることは叶わないのではないかと落ち込んだ。

黙り込む私の前で、立て続けに彼はどもりながらも話を続けた。


「そ、それに昨日は皇気が家出したから探しに行っただけだし。ほら、あの柔道部の火山熱士(ひやまあつし)って奴に追われてたから。そう、たまたまだから」


「偶然居合わせたとしても、あの状況で意志を持って介入したのは紛れもないあなたの意志です」


 私が言い放った直後、彼は到着したバスの乗車口が開くと慌ただしくそこへ入り込んだ。

後を追うように乗車口の段差に足を置く。

それと同タイミングぐらいでスマホに通知が入る。


「お前じゃなくても助けたと思う。良心を捨てたら残る物ないしな」


 窓際の席で頬を紅潮させ、外の景色を眺める彼を発見した。

私は隣に座り、きょどる皇二さんを見つめる。

なんでかわからないけど、この人の言葉の裏にある優しさは手に取るように気づいてしまう。

人の気持ちが汲み取りにくい私でも、すっと溶け込むように。

多分そう感じるのは、彼も会話が不器用だから。

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