第11話 メリディアナ、渋谷へ行く。視点、メリディアナ
さぁ、いざ愛菜ちゃんたちと遊びへ!
っと、危うく飛んでしまいそうになりました。
電車というもので渋谷へ向かうのでした。
ルンルン歩きは止めなくてもいいですよね?
それにしても、今の私って天使人生で一番順風満帆ではないですかね。
皇二さんのお家で毎日ストレスエネルギーを回収できてますから、ノルマの達成度が50%まで到達しています。
また、人間界の学校で友達がたくさんできました。
天界では1日でみんなグッパイしていき、それはそれは辛い毎日でした。
アブラヘルちゃんだけが唯一仲良くしてくれてますけど、今度こそきちんと仲良くなりたいものです。
ふぅ、結局渋谷までずーっと扉の前に立ち尽くしてしまいました。
まさか、電車というものが壮絶な椅子取り競争を繰り広げなければならないものとは。
普段飛んで移動する私にとって、立ち続けたり歩き続けるのは結構きついんですよね。
皇二さんには翼は出すなと言われてますが、本当はこういう疲れそうな時だけ数センチ浮遊させているんですけど。
我ながら人間界の創作物である○○えもんの隠し設定みたいなことをしていると自覚はありますが。
駅の改札を降り、集合場所である犬の銅像を発見。
時刻は待ち合わせ時間の5分前。
ぴったりに着いてよかったと、ハチ公に進む私。
銅像数メートルに近づいた時、愛菜ちゃんたち3人の姿があります。
声をかけようと手を上げましたが、寸前で口を閉じました。
なぜなら、彼女たちの前に顔面ピアスまみれの男の方がいたので。
顔は皇二さん家で拝見したテレビに出ていた新人俳優?
のように整っています。
「ねぇいいじゃん、君かわいいから付き合ってよ」
「えぇ? 嫌だよぉ」
わ、わからない。
これは一体どういう状況なんでしょうか?
愛菜ちゃんは嫌だと発言していますが頬が赤く、照れている様に見えます。
しかし、嫌だと発言しているからにはあの男の方に付き合いたくないはず。
ここは友人として、お助けせねば!
「あのっ! 愛菜ちゃんが嫌がってないですか?」
私は精一杯に眉をしかめ、彼を睨んだ。
「あっ、メリディアナちゃん」
愛菜ちゃんたちはこちらに手を振る。
私がそれに返すように手を上げると、同じぐらいのタイミングで彼が詰め寄ってきた。
「えっ、なんですか?」
戸惑う私の前で、彼は目を輝かせた。
「君、メリディアナちゃんっていったか? すーっごいかわいいね! よかったらお茶しない?」
えぇー!
「はぁ!? ちょっとあんた、私に声掛けてたんじゃないの?」
愛菜ちゃんは男ににじり寄り、怒気を込めてそう発した。
「君、嫌がってたじゃない。それに、この子の方が何倍もかわいいんだもん」
男の人がため息交じりに返すと、愛菜ちゃんはムッと顔をしかめた。
そして、他の2人の友達に視線を送った。
何をしているんだろうと心で疑問に思った瞬間のことだ。
「あぁそう! みなさーんこの男痴漢でーす!」
彼女たちは大声を出し、周囲に助けを求めだした。
痴漢ではないような?
男の人は彼女らの行動に焦ったのか、どこかへ走って消えていきました。
「はぁ、まじあり得ないあの男。顔だけって感じ。そう思うでしょ? メリディアナちゃん」
愛菜ちゃんたちは舌打ちをし、不機嫌な顔のままこちらを向いた。
どういうことはわかりませんが、ここは過去の経験上同調しとくのが得策。
「うん、そうだね」
私がそういうと、彼女は機嫌を取り戻したのか笑顔となった。
「まぁいいか、切り替えてこう。今日はみんなで渋谷の大通りを歩くわよ!」
「愛菜ったら、またスカウトマン待つの?」
彼女らは楽しそうに話し、ズンズンと足を進めた。
私は彼女らの情緒の素早さに若干混乱したため、遅れて歩きだした。
「愛菜、あのグラサン男怪しくね?」
「確かに、あの人の前通るわよ」
愛菜ちゃんたちの会話を聞いていくと、どうやらモデルのスカウトマンを探している様子。
愛菜ちゃんは芸能界に入りたいらしく、その為休日はこの大通りを歩いているらしい。
グラサンの人、スカウトマンでありますように。
私は彼女の願いが成就してほしかったので、両手を合わせながらそのグラサンの人の前を通った。
しかし、私たちの思いは肩透かしだったようです。
「ちぇっ、ただの一般人かぁ」
「元気だしなよ愛菜。本物がいたら愛菜の容姿なら100%イケるって」
お2人は愛菜ちゃんを励ましつつ、気分転換にカラオケ行かないかと誘っていました。
私も励まそうと、彼女の肩にポンと手を置こうと腕を伸ばした。
しかし、彼女に触れる前に何故か私の肩に誰かが手を置く。
ビックリしながら振り向くと、そこには先ほどのグラサン男が立っていました。
「き、君! よかったらモデルやらないかい!」
グラサン男は血走ったような目で見つめてきた。
ていうかモ、モデル!?
もしかして、この人スカウトマン!?
「あ、あの! 私じゃなくて愛菜ちゃんにお願いします!」
唖然とする彼女の背後に回り込み、ぐっと背中を押してあげた。
彼女は一瞬驚きながらもニッコリと笑顔を浮かべる。
グラサン男はこちらに接近し、彼女の差し出した手に腕を向ける。
よかったぁ、愛菜ちゃんの夢が叶う!
これは友達として、最高のサポートを出来たのではないでしょうか?
我ながら達成感に包まれながら満足顔をした。
しかし、グラサン男の手は彼女の手を触れることなく私に向けられた。
「ダメだ! 君のようなダイヤの原石じゃなきゃ......ダメなんだ! これ私の名刺、興味があればぜひ連絡くれ!」
懐から勢いよく突き出された小さなカード。
私はその迫真の言動に負かされ、つい紙を受け取ってしまった。
男は渡した後は人混みに消えてしまった。
茫然と立ち尽くす私は、3秒程思考が停止する。
しかし握っていた名刺を思い出し、愛菜ちゃんに声をかけた。
「愛菜ちゃん、これよかったら......」
「いやそれあんたが貰ったものでしょ? よかったじゃない、メリディアナ」
......愛菜ちゃん。
「さ、カラオケ行くわよ」
その瞬間から突如、彼女たちの笑顔は不自然に見えた。
楽しそうな会話は変わらないけど、どこか歪で違和感がある。
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