第9話 アブラヘル、別れる。視点、アブラヘル

「アブラヘル、反省しているか?」


 メリディアナ、あの野郎ふざけやがって。

あいつが口開かなきゃ、悪夢で効率良く回収できたのによ。


「悪夢はな、人間のストレスを過剰に蓄積させて爆発させてしまう。たしかに爆発させてしまえば膨大なストレスエネルギーを回収できる。しかし、それは回収後の人間への影響を考慮していない。おい、聞いているのか!」


 机がバチンと叩く音が響き、私は仕方なくおっさん教員に向き合った。

指導室に缶詰めにされてはや1時間半。

どうやらこのおっさん、本当に反省している素ぶりを見せないと返してくれないらしい。


「はーい、反省してまーす」


---それから2時間後---


「二度目はないからな!」


 おっさんは指導室のドアを、これまた強めの音を鳴らして閉める。

私はというと、尻をさすりながらスマホをいじっていた。


「あっ、アブラヘルか」


 そもそも、私が何故メリディアナに苛立っているかというと。


「あっ、じゃねーよ! アホボケカス誰じゃわれっ!」


 そう、彼氏がメリディアナに浮気したからだ!

しかもただ気をそらしただけではない。

彼氏があいつへ公然で告白し、こっぴどく振られた。

その日を境に、男としてプライドを喪失してしまった。


「うぅ、怖いぃ」


「うっぜぇ。もうお前とは別れる! じゃあな、しね!」


 スマホを地面に叩きつけるも、それでも思い返すたびに腹の底から煮えたぎる。

うちの男をこんな弱虫にしくさりやがって、本当にムカつくぜ。

でもまぁいい、この馬のイチモツを咥えた画像を拡散してやりゃあ。

てっ、あっー!!!

スマホ壊しちまったじゃねーか!

クソっ!

せっかくあいつの天界生活めちゃくちゃにしてやろうと思ったのによ。

ノルマも回収できねぇし、散々だ。

だが仕方ねぇ、またあいつを陥れる作戦を考えねぇと。


 私はガブリエル学園の雲の間へ訪れた。

ここは地上の様子を観察できる、特殊な望遠鏡が設置されている。

細長い筒の穴に目を当て、照準を日本に絞る。

そして、昨日の場所へとさらに狭めた。

あっ!

あいつも夢を改変しているぞ!

そんな、悪夢はダメであれは許されるのか。

開いたこともない生徒手帳を開き、校則一覧を指でなぞる。

ハハハ、なるほどな。

課外学習終了後に記憶を消去しても、問題ない記憶改ざんはいいのか。

地上の生活に溶け込むために設けられた措置。

いいじゃねぇか、使えそうだ。


 となれば、あいつのノルマ回収の邪魔になりそうな人間を探すか。

ハハハ、見てろよメリディアナ......地獄に落としてやる。

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