第7話 メリディアナが教室に!? 視点、皇二

 はぁ、俺は異世界へ行きたいという願望はあったんだ。

猫耳娘やエルフっ子とか、みんなチートスキルが使える俺の虜になる感じの。

だけれど、現実世界にその住人が来たというのは果たして喜ぶべきものなのだろうか。


......否!


 サキュバスみたいな容姿をした天使が1人来たところで、俺の人生は好転しない。

何故なら、この現実世界ではどうあがこうと男子校という進路が決まっているからだ。

あのサキュバス天使、いや長いから省略してサキュ天。

あんな女の子とドタバタできる日常も悪くないだろう。

だが、サキュ天ことメリディアナには致命的な欠点がある。

勘違いとか、思い過ごしで生のイチモツを食いちぎる狂った行動力。

最大にして最悪の弱点だ。

という具合に彼女とのむふふ展開は起こす予定はないし、俺にそんな度胸やコミュ力はない。

となると彼女の存在は非常に弊害となる。

彼女が何かハプニングを起こさないかを、常に監視しておかなければならないからだ。

幸い家の中にしかいないため、問題は内内で済ませれるかもしれない。

だが、俺はそんなことに気を回しながら息抜きタイムを楽しめるのか?

あぁ、プレッシャーに耐えられないくせにどうして厄介事を増やしたんだ昨日の俺!


「おーい、そろそろ席に着け!」


 窓際の席で遠くを見つめ、考え込んでいると担任がそう発した。

いつもなら一番に教室へ来てゆったりと時が流れる中、落ち着いて勉強ができる。

だが、今日ばかりは今朝に忙しいことが多々あったため遅れてしまった。

出欠確認が席に腰を下ろして3分ほどで始まってしまい、マインドセットすら上手くできなかった。


「えー、出欠確認の前に留学生を紹介しまーす!」


 留学生?

なーんかその言葉を聞いた瞬間、冷や汗が止まらない。


「「「うぉー! まじかよ!」」」


 こめかみに一滴のしずくがポツリと垂れる俺とは真逆に、

クラス中はざわめき始める。

男の子か、女の子か。

イケメンか、美少女か。

そんな話題で持ちきりだ。

よくもまぁ毎度同じテンションで賑やかになれるなぁ。


「さぁ、おいでぇ」


 担任の呼びかけ後、クラスメイトは黒板側の扉に視線を集めた。

しかし、開く音が教室中に響くのに扉は閉じたまま。

少し戸惑いの声がポツポツと漏れるが、担任の一声でそれは止んだ。


「メリディアナ、なんでそっちから入った。普通黒板側だろう。まぁいい、こっち来なさい」


「すいません。どっちから入れと言われなかったのでわからなくて」


 後ろからかよ!

心の中で突っ込みを入れつつ、上半身だけをそちらへ向ける。

あれ?

ていうか担任さっき、メリディアナって言ってなかった?


「うぉークソかわいい!」


「綺麗な紅髪! お人形さんみたい!」


 あー!?

そうだ、留学生が家に引きこもっていたらおかしいだろ!

だから学校にも来れるよう記憶操作したんじゃないか!

最後の記憶の断片を見落としていた。

昨夜の俺、ほんと殴りたい。

やばい、家でのルールは昨日教えていた記憶はある。

だけど、学校での立ち振る舞いの言いつけはしてないぞ。


「はじめまして、メリディアナといいます。私立ガブリエル学園から夢を......じゃなかった。留学生として日本に来ました。お願いします」


 教壇の隣でペコリとお辞儀する彼女。

どうやらきちんとここの制服を着用し、角やら翼やらは隠している。

多分そこだけは昨夜の俺が忠告したのだろう。

ふぅ、とりあえず最低限守るべきところは安心していいと見た。

上半身を起こし、ニコっと彼女が笑うとクラス中が歓喜する。


「今年は当たりだぁ!」


 陽気な男がそう言うと、彼女らしき女の子がギロリと睨みを効かせる。


「あ、去年も当たりでした。すいません」


 2人の一連のやりとりはクラス中を爆笑に包み、担任がそれを締める。

幸いなことに、あの陽キャ男子のおかげで彼女への質問攻めは回避できた。


「じゃあメリディアナ、お前はあの席な」


 急に担任が刺すように指を向けるから、背筋がビクっとなった。

しかし、どうやらこれまた運が良い展開だ。

彼女の席はどういうわけか、俺の隣。

これで1時限目のうちに説明できる。

授業が終わってしまえばきっと、彼女の席へ人が群がってしまうだろうからな。


「じゃあ授業始めるぞ」


 今日は担任が引き続き1限目教える日か。

教卓の下から歴史の教科書を取り出した担任は、すぐにページ数を連呼した。

彼女に視線を向けていたクラスメイト達も怒られたくないためか、机へ顔を戻す。

よし、学校での振る舞いの注意事項をノートにしたためることができた。

俺は彼女の机に小さく折りたたんだ紙を置いた。

一瞬目だけを置いた紙に彼女は向ける。

しかし、それ以降は一度たりとも視線を戻すことはなかった。

黒板をひたすらじーっと眺め、ノートにメモをとっている。

こいつ、なんで意味が伝わらないんだよ。

あぁ、学校じゃ真面目で通っているのに。

俺は力みつつも小声で彼女に声を掛ける。


「メリディアナ、その紙見ろ」


 はぁ、すっげ色々消耗した。

人にこうやって自分から話かけること滅多にないからな。

加えて女の子に言うってなると、俺としちゃかなり勇気を持った。

まぁ、女の子といってもサキュ天だけど。

しかし、安堵する俺を彼女はギロリと睨みつけた。


「皇二さん、授業中ですよ! ちゃんと先生の話聞いてください!」


 こ、こいつまじで言っているのか?

友達が1人もできなかった理由、何となくわかってしまった気がする。

まぁ、俺もコミュ障とガリ勉という称号のせいで1人もいないのだが。

でもこうなると、まじで授業終わりの休憩時間でどうにかするしかないぞ。

どうすれば......考えろ、俺!

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