天使との学園生活

第6話 メリディアナがホームステイ!?視点、皇ニ

 うぅ、なんだか体調がとても優れない。

朝の目覚めだというのに、これは一体なんだ?

頭の痛みもとれないし、吐き気がだんだんと増していく。

いつもは起きたらベランダへ行くのが俺のルーティン。

だけど今回ばかりは洗面台へ駆け込んだ。

そして耐えられなくなった俺は、胃から込み上げたものを口から吐き出した。

同時にこのような状態になった理由を思い出す。

そうだ、昨日酒を飲んで酩酊していたんだ。

それで、サキュバスみたいな天使が現れた夢を見た。


「だ、誰か背中を擦ってほしい」


 恐らくこの時間、リビングにいるであろうお母さんに声を掛けたつもりだった。

しかし、小さい声となってしまい多分届いてないだろう。

しばらくの間、苦痛に耐えるしかない。

そう思った直後のことだ。


「こうですかね。ふむふむ」


 誰かわからないが、柔らかい手の平が背に触れる。

温かい手が背骨伝いで上下に動いていた。


「あ、ありがとう。少し、よくなった」


 でも、二日酔いの言い訳どう考えるか。

頭痛と吐き気が薄れてきたというのに、悩みの種が尽きないなぁ。

俺は蛇口をひねり、ついでに顔を洗った。

そして、タオルを探そうと腕を伸ばす。


「ひゃっ!?」


 ん?

なんかなまめかしい声がしたけど、それに。

それに、タオルを掴んだと思ったのだが違う?

弾力があって、それでいて揉むと柔らかさがある。

それに、ボタンほどの突起物らしき物も。

俺は正体を確かめる為、顔を上げ鏡越しでそれを確認した。

鏡には、コスプレイヤーかな?

と、見間違うほどには派手な服装の同年代ぐらいの女の子がいた。

そう、俺は彼女の胸を揉んでしまったらしい。

胸を揉んでしまった……らしい。


「ご、ごめん! わざとじゃないから!」


 振り返り、すぐさま彼女へ頭を下げる。

しかし、少し間を置いてあることに気づく。

紅髪にツノの生えた女の子?

こいつ、もしかして夢に出てきた……。


「改めまして、メリディアナです! 皇ニさん、おはようございます!」


 少し頬を赤らめながら、彼女はニコッとこちらへ笑いかけた。

状況が飲み込めない俺は、とりあえず説明を求めようと口を開く。

しかし、途端に言葉が出なくなった。

そう俺は、家族でさえあまり上手く話せないほどのコミュ障だったんだ!

昨日は酔いのせいでたまたま思っていることをすらすら言えたけど、今は無理。

人外であろうと、ここまで近い距離で美少女と話せるわけがない。


「お、おはようございます。ははっ」


 案の定、辿々しい喋りで返すことになった。


「皇ニさん、まだ体調が優れませんか?」


 彼女は吃りを変に捉えてしまい、またしても背に手を当てようと距離を縮めてきた。

やばい、これ以上近づかれると色々と思考が出来なくなる。


「き、君も顔洗ったら? なんて」


 手が触れかけたその瞬間、俺はなんとか対処法を編み出すことに成功した。


「そうですね!」


 ふぅ、何とか乗り切れた。

俺は彼女が顔を洗面台に埋めている隙を突き、廊下へ逃走した。

何でいるのかわからないけど、これはかなりまずいぞ。

もし家族に彼女が見つかったら大変なことになる。

いや、俺は問題ないかもしれないけど。

天使なんて人権がない以上、未確認生物として連行され実験体にされてしまう。

無関係と切り捨てられるほど、俺は人間性が腐っちゃいない。

とりあえず、彼女が出てきたら速攻で腕を掴んで自室へ逃げよう。


「あらメリちゃん、おはよう」


 しまった!

リビングの方を警戒していたせいで、トイレ側を監視し忘れた。


「おはようございます。おばさま」


 て、何で仲良く挨拶してんの!?

え? はぁ!?

ポカンと2人の会話を聞いていると、母がこちらにも声をかける。


「皇ニ、朝食食べないの?」


「え? あぁ、うん」


 困惑する中、彼女が俺へウインクをした。

その瞬間、昨夜の記憶が蘇る。

あの黒いもやを消した後、彼女を連れて屋上を降りたんだ。

そして、彼女に説教をした。

あんな不良と付き合うべきではないと。

そしたら……。


「アブラヘルちゃんは校則忘れていただけです! 私は彼女は悪い人じゃないと、信じています!

それに、私の唯一の友達なんです」


 曇りのない目でそう言ってきた。

俺はそれを聞き、じゃあと提案をした。

課外学習の間だけでも彼女と離れてみてはと。

あの柄の悪さ、すぐにまた問題事を起こすに違いない。


「わ、わかりました。では、そろそろ炊き出しの時間なので」


「炊き出し? ホームレスなのもしかして?」


「はい。アブラヘルちゃんがお金欲しいっていうので、全部あげちゃって。それで仕方なく」


 呆れた俺は彼女を放っておくのも忍びないと考え、自室で匿ってあげることにしたんだった。

今になって思えば、酔っていなきゃこんな大胆なことしないのだが。

色々と話し合いをする中で彼女の能力で夢を操作して、一時的に記憶を書き換えることができると発覚した。

俺は匿うよりその方が便利だと判断し、家族に彼女がホームステイでやって来た女の子。

という設定を加えさせたのだ。

何で俺、こんな大事なこと忘れていたんだ全く。

酒は2度と飲まないと心に誓いながら、リビングへ向かった。

いつもと変わらぬ朝食風景だが、異物が1人いる。


「これ美味しいです叔母さん!」


 そう、メリディアナである。

彼女は天真爛漫に話しかけ、朝だというのに盛んにご飯を口に含んだ。


「あらあら、メリちゃんはお上手ね」


「お上手? 箸の使い方とかですか?」


「え? あぁ、お世辞がってことよ」


「あぁ〜、違います! 本当に美味しいですよ!」


 一人が加わるだけで、暗い食卓がこうも色づくとは。

いつもならしーんとして、ただ作業って感じなのに。

横を見ると、弟はいつも通りスマホをポチポチいじりながら食事をしていた。

お前は変わらなくて安心した。

と、いうべきなのだろうか?

ていうか、俺は悠長に食事をしている場合じゃなかった!

気づけば時間は結構過ぎており、5分以内に家を出なければならない状況だ。

米と目玉焼きをかっこみ、玄関へ向かう。


「じゃあ行ってきます」


 玄関でそう挨拶をすると、母親は駆け足で追いつく。

そして長い気をつけてねが始まり、時間も相まっていつも以上にイラついた。


「あ、その次にお電話してね!」


「うん、じゃあ!」


 まぁとりあえずメリディアナの件は落ち着いたな。

家にいれば4人から定期的にノルマを獲得できる。

それにしても、家より学校の方が疲れなそうな毎日がやってくるとは完全に想定外だ。

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