第5話 メリディアナ、錯乱する。視点、メリディアナ
「アブラヘルちゃん、ありがとう! 私のために......」
でも、アブラヘルちゃんももしかして校則違反って知らないのかな?
今読み返したら、本当に校則でダメでした。
もし彼女もあの人のイチモツを引っこ抜こうと考えていたなら、どうしよう。
「引っこ抜いたら死んじゃうよ、この人」
気絶した男の人間を指し、私は彼女を止める。
しかし、アブラヘルちゃんは鋭い眼光をこちらへ向ける。
「あぁ? あんなの嘘に決まってるだろ。普通に回収すんだよ。あ、お前にはやらねぇからな」
嘘?
アブラヘルちゃんが高得点だって言ってくれたのに、本当は違ったの?
わからない、どうして友達に嘘をつくのだろう。
「アブラへ……んぐっ!?」
私が再度話しかけようとするも、彼女は猿ぐつわを口に押し当ててきた。
「お前喋るとうぜぇからそれ咥えとけって言ったよな? 忘れんな馬鹿」
私は彼女に猿ぐつわを口に嵌められる。
なんでアブラヘルちゃんが怒っているか、私にはわからない。
けど、私の言動でこんな風に友達を怒らせてしまう事が過去にもあった。
もう友達は失いたくない。
「こ、ここはどこだ!」
ふいにあの人間の声が横から聞こえた。
声の主を発見するが、目を閉じて仰向けに倒れている。
喋れないはずの彼の声がどこからかする。
そう思っていたがよく見ると、アブラヘルちゃんが彼の周囲に魔法陣を展開していた。
球体のような黒い雲が彼の頭から浮き上がり、映像が映る。
アブラヘルちゃん、本当に夢を回収しようとしているんだ。
でも、夢を見させる魔法って白い雲になるはずだけど。
「ハハハ! 聞こえるか人間の男!」
アブラヘルちゃんは口角を吊り上げ、彼へ話す。
「お前がここに俺を閉じ込めたのか? さっさと出せ!」
「あぁいいぜ! そいつらに食べられたらな!」
突如、映像空間はだだっ広い草原に変化した。
ポツンとそこへ立つ彼の視線の先から、ガサガサと物音が次第に大きくなっている。
「巨大ゴキブリの群れ!?」
彼は、遠くから現れた虫の大群に目を丸くした。
そして、気づくや否や走り出す。
おかしい、夢回収はこんな人を恐怖させるものじゃない。
夢で人を満足させ、蒸発したストレスエネルギーを手に入れるもの。
なんでアブラヘルちゃんはこんな事しているの?
私は猿ぐつわに手をかけ、彼女に話しかけようと考えた。
しかし、手前でそれを止める。
でも、また怒らせたら今度は本当に絶交されるかもしれない。
私は人の気持ちがわからない。
何でこの人が怒ってるのか、泣いているのか、喜んでいるのか。
だから、失敗したら2度同じ行動を起こさないと決めている。
「やっぱりお前らは悪魔だ! 天使見習い学校にどういう訳で入ったか知らない。が、転落しようとしたけど! 真面目に生きてきた人間にこんな仕打ちして楽しいのか!」
イチモツさん、また悪魔って私たちのこと間違えた。
天使は悪魔じゃない。
この世に生きる人々が、少しでも笑って生きれるように陰で助ける者……それが天使。
なのに私たちイチモツを抜こうとしたり、夢で彼を怖がらせている。
友達は無くしたくない。
けど、私は自分が勇気を与えられたように誰かの苦しみを和らげたい。
その為に入学したんだった。
アブラヘルちゃんは友達じゃなくて親友。
親友ならもう一回は許してくれるかな?
「アブラヘルちゃん! 悪夢は校則で禁止されてるよ! ここに載ってたほら!」
私は意を決して大声で彼女に声をかける。
「だから何? それとるなって言ったよな? うぜぇな本当にお前」
「え? だから……」
やっぱり怒らせてしまった。
いや、それだけではない。
過去に私から離れていった子たちもこんな目をしていた。
私、また幻滅されて嫌われるんだ。
何でなのかな?
彼女のためを思って言った言葉なのに、どうしていつもこうなるのかな?
「あぁ! これ夢なんだな!」
私が俯いたとほぼ同時のタイミングだった。
爆発音が連続して鳴り響く。
黒い球体の雲の中、映像空間でそれは起こった。
「……なっ!? どういうことだこれは!」
「どうもねぇだろ。俺は夢の中じゃ、異世界チートしてんだよいつも!」
彼が指を鳴らす度、ゴキブリは爆散した。
そうか、夢形成は対象の記憶から作り出す。
彼自身の身体もその影響下にある。
「ふ、ふざけんな! なんで人間如きが!」
アブラヘルちゃんがいくら虫を作り出しても、爆発によってそれらはすぐに吹き飛ぶ。
魔力切れに伴い、黒い雲は徐々に濃度が薄くなっていく。
「クソ! メリディアナ、てめぇも力貸せや!」
「え!?」
「早くしろカス!」
友達の頼み事、断るわけにはいかない。
でも、これは校則違反。
私は彼女の為を思って止めるべきなのか?
それとも、友達が校則違反したなら私も道連れになるべき?
それこそ本当の友情というもの?
わからないよ。
私はどうしたらいい?
「変態女、お前も来い!」
頭を抱える私の手を、誰かが掴む。
目の前にいたのは、悪夢から抜け出してきた人間さんだ。
どうした彼は、私の手を掴んだの?
何が何やらわからないまま、屋上の扉の中へと彼に引き込まれた。
アブラヘルちゃんが心配で、引かれながらも後ろを見た。
一瞬だけど、生徒指導の先生がワープから現れていた気がする。
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