第3話 皇仁、メリディアナに出会う。視点、皇仁

 あぁ、まだ柵さえ超えていないのに心拍がとてつもなく早くなっている。

冬の風が肌に突き刺さり、手を震わせながら柵越しに見下ろした。

ここから落ちるのか俺。

そう自問自答したくなるほどには、死への恐怖が増大していた。

頬を叩き、俺はもう一度家へ帰宅した。

そして、冷蔵庫からレッドブルと度数の高いお酒を拝借。

すぐさま屋上へ戻り、翼を授けてくれるドリンクを飲み干した。

続けてお酒を一口喉へ通す。


「うげぇ」


 まっず。

ほろよい飲んで酒なんてジュースと変わらないやん。

と、思った過去の自分を殴りたい。

まずいというより、辛い。

これ飲んだら死んじゃうんじゃないか?

あれ俺、異世界に行くために転落するんだろ?

なんで死にまだ怯えているんだ。

そうだ、これぐらいへっちゃらだ!

一升瓶を空にし、荒い鼻息で柵まで進む。


「ぷひー、さぁ飛ぶぞ! 異世界で待っててくれよ、ねこ耳ちゃん! 首輪ちゃん!」


 千鳥足で柵の前に到着。

片脚をそこへ乗せ、腕に力を入れたその瞬間だった。

目の前に、というより空中に女の子が浮遊していた。

そして、落ちようとする俺の襟元を掴み上げ屋上の床に落とされる。

酔いで夢でも見ているんだろうか?


「んーん-」


 朦朧とした意識の中、俺は思わぬアクシデントを把握するために角と翼の生えた女の子を観察した。

細くしなるような長い脚は、大人の女性の妖艶さが感じられる。

しかし、目線を上昇させるほど彼女が自分とそれほど歳が離れていないと思えた。

胸はたわわに実っているが背が小さい。

まぁ最近はこういう身長サイズでも大人っていう場合もある。

その証拠というか、顔を見ると俺の息子は元気に起き上がった。


「んーんー」


 猿ぐつわをしている銀髪の女の子。

小さな額の二本の角と、背中のこれまた小さな黒い翼。

全体で見ると中学生ぐらいなんだけど、口に咥えているそれはまごうことなき大人の道具だ!

尻もちをついた俺は迫る彼女に色々と期待を持ちながらも、一様フリだけでもと思い後ずさる。

そして、会話が出来ないと目的もわからないということもあり声を掛けてみた。


「あ、あの! それとってください! な、何しようとしているかわからないですけど、喋ってくれないとこっちも」


 そういうと彼女はパチクリと大きく瞬きをし、口を塞いでいた物を外した。

よだれが月明かりに照らされてエッチだ。

その直後さらに息子が高まりかけたが、とてつもないスピードで縮こまる。


「ぷっ! ツー、ツー」


 彼女が異国の言葉を喋り出し、何を言ってるかわからないからではない。

そうではなく、彼女が口から吐き出した血溜まりの上にある動物のイチモツだよ!

なんだこれは?

血は鮮血のようだし、胴体からの切断面を見るに食い違ったようだ。

もしかして、彼女が?

いや、もしかしなくてもそうだ。

普通の女の子が動物のイチモツを食い千切って口に咥えるか?

ありえないだろ!

やばい、彼女は俺の妄想が増幅して作られた化け物かもしれない。

早くこの酔いを消さなければ、この歳にしてお漏らしをしてしまうよ。

異世界転生前に女の子がイチモツを食い違ぎりにくるって、どんな展開だよ一体!

いや待てよ?

そうだ、こんな非日常的な状況明らかに起こりえない。

ならばこれはもしかして、異世界へ転生するための試練なのか?

ここでどういうアクションを取れば正解なのかわからない。

しかし、何かしら彼女から情報を得れば解決できるやも?


「あのさ、紙ある?」


 首を傾げる彼女は変わらず異国の言葉を話す。

ジェスチャーしたけど伝わらないか。

仕方ない、いや超絶嫌だけど!

俺はイチモツの血を指につけ、絵を描いた。

女の子が喋りかけ、男の子が頭にハテナを浮かべてるものだ。

俺は男の子、彼女は女の子と指で合図してみた。

すると、ようやく理解したのか手のひらにポンと拳を縦にして置いた。


「ツーツーません。私、翻訳機押すの忘れてました」


 彼女が花のようなヘアピンをポチッと指で押すと、途中から日本語へ切り替わる。

某◯oogle社の翻訳機よりも優れた音声システムだ。

機械音声という感じもなく、地声なのだろうか?

それぐらい人の声に聞こえる。


「あのさ、君空飛んでなかった?」


「はい! あ、申し遅れました。私の名前はメリディアナです! 天使見習い学校の者です」


 ニコッと可愛くはにかんじゃってまぁ。

イチモツ吐き出してなきゃ受け入れてたよ!

でも吐き出したんだよ君は!

本音を言いたい!

でも、俺は言えない性格なんだー!


「あのー、そろそろ良いですか?」


 頭を抱える俺を見ながら、彼女はそう呟いた。

え? 良いって何が?

今度は本当に後退するが、彼女に追いつかれた。

足がもつれ、再び転んでしまう。

そんな俺を心配するわけでもなく、真顔で追いつく。


「酒くさいですよ。て、そうじゃなかった」


 俺の身体に馬乗りになった彼女は、鼻と鼻がくっつきそうな距離でそう発した。


「おち◯こ食べさせてください! 課外授業のノルマなんです」


 え? はぁ!?

おおお、おち◯こ?

今、お◯んこって言ったか?

まじでこの子、意味深とかじゃなく本気で。

本気で、俺のち◯こ食いちぎる気なんだ!

こ、これは転生の正規ルートなんだよな神様!

ち、違うよな?

いやわからないよ!

こ、怖い!

やっぱりまだ……死にたくない!


「き、君! それは天使じゃなく、悪魔だよ! サ、サキュバスだ!」


 これがこの俺、佐藤皇二(さとうこうじ)の久しぶりに発した本音だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る