第4話


「ゆっずくーん! ただいま!!」


 騒がしい声に驚きながらも、適当に返事を返す。


 一瞬にして緊張した胸を撫で下ろし、ディスプレイに表示されている文章に目を向ける。


「「管理者各位。例の会議より、アメジスト社の内部捜索命令が下された。すでに実行している管理者もいるのだが、君。そうゆずは、奥さんがアメジスト社の研究者なために捜索がしやすいと思われる。お願いがします」」


 そんなメールだ。


 でも、そんな事できる訳ない。

 それ程「愛」はバカじゃない。

 なんなら、この家のネットワーク全て監視されていると言ってもいい。


「ねえ、ゆず君。君の最愛なお嫁さんがそのメール何? って聞いてるよ?」


 あ、ダメなパターンだ。


「いや、これは仕事の依頼で、断る事も出来るんだけど」


「うんうん。やっぱり世界の最前線は気になるよね。わかる。私もそうだったから」


 ん?

 

「ゆず君って今、個人営業主でしょ?」

「え、あ、まぁ」


「研究職っていや?」

「いや、大歓迎」



~12/30 17時~


「「5時になりました。現在のニュースをお伝えします。


 今日、14時頃、我が国の排他的経済水域内に二人称群が率いる戦闘機、6機が侵入しました。

 その機体は今まで確認されている物とは大きく異なり、完全なる新型とのことです。


 また、警戒の為に向かわせた戦闘機3機との通信が途絶えており、この件に二人称群戦闘機が関与している可能性が高いとの事です。いずれも二人称群から一人称群の挑発行為だと推測され、”宣戦布告”だと言えるでしょう。


 国は、今回の件で、占拠しているアメジスト社の所持する島での、兵器の生産を開始しました。

 しかし、その島では、人ではなく者が覇権を握っています。その為スムーズと言える生産状況では無く、先が思いやられる状態となっています。


 次のニュースです。


 人類史に波乱の予感です。

 昨日、世紀の大発見とも言える発見を旧東京大学の教授ら5人が発表しました。


 その発表の内容は、このアキピド教の神話に反する内容となっており、しかし、我々人類の進化の謎を完璧に解明します。


 この内容は、”我々人類は、一度滅亡している”との事です。

 場所として、カッパドキア、その地下深くに地下都市が発見した博士らは、その地下空間の調査を開始しました。


 そこには、今とは違う文明の痕跡が多数存在し、また地名が現在と全く同じとの事です。



 アキピド神話では、人は最初から文明を築き暮らして居たとされています。英雄アキピドは神、すなわち管理者に問いかけこの星を後にしたと伝えられています。


 この時、この当時の人口も記されており、1億人とされています。


 しかし、この遺跡から見つかった書物には、73億人の人口が居たと記され、核? と言われる爆弾で現在に至るシナリオが事細かく書かれており、またこれが偽物である可能性も無いに等しいと教授は言及しています。


 この事が真実なのであれば、我々はどうなってしまうのでしょうか?」」



~12/25、蛸~


 泣きじゃくっている私がいる。

 ただ泣いているわけではない。

 よくわからない感情が、体を駆け巡っている。

 

 でも、そんな私を慰めている人が一人だけいた。


 博士もそうだけど、今回はなんだか違う。

 博士と違って、”人”として見てくれる人。

 

 正直優しい。でも寂しい。


 優しいと思う私を、私が寂しいと思った。

 

 何か、あったのだろうか?


 でも、でも、自分は嘲笑っているんだ。

 そう。

 

 そうか。

 もう諦めて良いのかもしれない。

 

 楽しい時間なんて最初から存在しない。

 ただ、私が楽しいと思っていただけ。

 

 自分だけが楽しいと思っていただけ。

 

 周りは本当に楽しかったかもしれない。


 悲しく私は、残酷な世界を楽しいと思っている。

 

 辛い事から、目を瞑り。背け逃げていた。

 でもそれは正しいと思う。


 見て見ぬふりした自分は偉いと思う。

 

 でもこの現状だ。


 知ってしまったら辛い事。

 自分は違うと信じ切れば悪口にならない悪口。

 でも、私は、それらを飲み込んでしまった。

 

 自分は自分で守らないといけない。

 確かにそうだ。


 でも。守った所で目的がない。

 理由が分からない。

 生きる理由。


 確かに、私は実験体として生まれてきた。

 

 未来なんて考えずに生まれてきた。


 私は、誰かの近くに居たい。


 誰かに愛されたい。

 誰だろう?

 

 この人かな。

 生きる意味とは、その人に尽くす事?

 

 その人を必死に愛して、愛される。

 そうか。そうかもしれにない。


 理由がないなら、探せばいい。

 でも、私は変わり者。

 変わり者。


 同じ土俵にも立っていない。

 そんな。


 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。



 分からない。


 なんで泣いているのか。


 ただ、私はみんなで楽しく過ごしたいだけなのに。

 

 泣きたい。

 でも心の底から泣けない。

 自分を隠して生きている。

 誰か、理解者が欲しい。

 私の本性を知ってもなお、一緒に居てくれる人。


 泣いてしまいたい。

 そのまま、崩れ落ちて消えてしまいたい。


 過去は思い出したくない。

 知らないまま消えていきたい。


 そうだ。忘れよう。

 この思考も、この感情も。全て。

 これから聞く全ての言葉は、嘘だ。

 全て疑え。


 良いかもしれない。この世界。


 でも蓋を開ければ残酷で。


 また、同じ土俵に立たなければ、空気も読めず助けてもくれない残酷な世界。


 生きる世界。

 皆が生きる世界。

 でも、私は溺れ死ぬ世界。

 蛸なのに。


 多湖と名前をもらったのに。


 でも、この人は信用してもよさそう。

 分からない。全てをぶつけてもよさそう。

 消えたい事も、辛い事も。

 今まで頑張って生きてきた事も。


 全てをぶつけても大丈夫。

 きっと大丈夫。


 言葉は信用できない。

 でも行動なら。

 行動なら。


 彼に甘えてみる。

 彼の胸に、涙で汚れた顔を押し付けてみる。

 彼の肌を包み込んでみる。


 彼は、彼は。


 そんな私を。


 撫でてくれた。


「「ナノシステム盲愛より通知。アップグレードを開始します。本システムは、盲愛より、盲愛(gen2)となります。新機能などはありませんが、全てのアプリケーションのパフォーマンスが大幅に上がります。一部上書きされた、溺愛のコードは削除されます。またセキュリティパッチも含まれる為、以後、強制的な上書き保存はできません」」


「「また、ナノマシンのコロニーを再構築します。以後、本システムは電子型よりニューロン型に変更されます。一部アプリケーションが使用できなくなる可能性がります」」


「「ナノシステム溺愛より通知。本システムの動作のコロニーの一部を移植し、電子型処理を行いないます」」


「「アップグレードを開始します」」



「「完了しました。ナノシステム盲愛gen2及びサブナノシステム溺愛を、よろしくお願いします。以後、サブナノシステム溺愛より、感情の演算を行います」」


「「ふふふ。よろしくね。タコちゃん」」


 彼は、優しくキスをした。

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