第3話

~タコオフ~


 博士との話の末、オフ会は行える事となったのは、22日。

 私はお金目的に始めた、ブログでそれを発表する。

 

 この世の中には、不思議な人、者も多く、私を好きと言ってくれる。

 正直うれしい。

 私は、同期? なのかな。

 とにかく、AとBシリーズの者は私の事を嫌っていた。

 触手がキモイだとか、同じAシリーズのくせになんで人外なんだ! だとか散々虐められた事を覚えている。


 そんな時、事が起きた。

 国立博物館占拠事件。


 それにより、AT社の規模は縮小。

 元社長は、終身刑にされている。


 そんな事はどうでも良い。

 

 博士は、その時に生き延びた者の一人らしい。


「「ナノシステム「盲愛」より通知。時間になりました。オフ会の時間です」」


 ありがとう。愛ちゃん。



~旧名古屋 タコオフ~


 その場所は、依然として変わらない、工業地帯。


 しかし、ほぼ全ての会社は、新名古屋、基、旧三河に移動した。

 旧尾張地区に属する名古屋は、案の定、ゴーストタウンになりかけている。


 そんな薄暗い道を歩く。


 空を見るに、その鈍色に驚きを隠せない。

 山も多く、それは雪化粧をしている。



 飛行機が飛んでいる。

 飛行機雲が残っている。

 それはログのように、いずれ消える。

 私も、誰かにログを残さないと。

 私と言う存在が居たという、ログを。

 でも、そんな事は無駄だと知っている。


 川は流れ、道を作った。

 でも、それは生物の道ではない。

 命の道である。

 ただ、その道に流され廻る生き物。

 山は笑い、木を生やした。

 水は、母親のように何もかも優しく包み込む。

 でも、それでいいのだろうか?

 古い鉄骨に苔が生えている。

 その苔の上に、草が生えている。

 またその草の上に木が生えている。

 結局は、存在は、足場に過ぎない。

 ただその足場に誰が乗るかはわからなが。


 そんな事を胸に電車を降りた。

 赤い赤い電車は、線路と言うを血管通り、私をこの場所に運んだ。


「あの、多湖さんですか?」

 ある男性が話しかけてきた。

「その艶やかな肌、それに曲線美の足! 多湖さんですよね」



 個体識別番号、0009988

 個体識別名称、坪田 多湖


 今思えば、こんな日間賀島に居そうな名前付けたやつ誰だろ。アメジストさんかな?


「おっ? 肌とは君、良い所に目をつけるね。そして、その呼び方としてもしかして、かなり腕のある「漁師さん」でしょ?」


「はい! 「漁師」です」


 漁師はファンネームらしい。私が決めた訳でもなく、何故か浸透している。

 意味は、世界と言う地上に引き上げる人たち、だっけな。


「やっぱり。でも集合時間は4時間後の18時だけど、何をするつもりで来たの?」

「楽しみ過ぎて、早く来てしまいました!」

「なるほどね。わかった、私も今から周辺の下見をするんだけど、来る?」

「え? いいんですか?」

「うん。ファンサだよ。ファンサ。手とかも繋いでカップルっぽくさ」

「あなたは、天使ですか?」

「天使に見える? どっちかと言えば悪魔よりだよ。じゃいこっか」


 そういって、漁師君の腕を、”透明で艶やかな、液体のような触手”で包み込む。


「多湖さん。あったかいですね」

「生きてるからね。何、漁師君、全身包み込まれたいの? それだったら、かなりの変態さんだね。あ、動揺してる」

「い、いえ、そんな、美少女に言われたら、動揺するのも無理ないですよ」


 そう口を開き、更に動揺しているような素振りを見せる。



 そして気付けば、朽ちたシャッター街に着いていた。


「今日はここでするんですか?」

「ん? そうだね」


 使用許可はとってある。管理者は、借りる位なら、買い取ってくれとか言ってたけど。


 まぁ買い取って、家を建てるのも悪くないかも。


 そんな事を考える。


「どうしました? 肩まで伸ばして」


 え? 

 その声で、自分の状況を知った。


 確かに、液化した触手が彼の腕、肩まで覆っている。


 何故だかわからないが、安心するからだろうか?

 分からない。

 

「迷惑だった?」

 濁す。


「え、いえ。何かあったのかなって」


 優しい。この人。

 信じて良いかもしれない。

「ごめんね。私やっぱり変だよね?」


「「ナノシステム「盲愛」より通知。現在、触れている相手の感情を読み取りますか?」」

 はい。


「「報告。現在、相手に恐怖感、不快感、不安感は無く、とても落ち着いています。そして、こちら側に好意を寄せてもいます」」

 なるほど。


 ショートカット遺伝子起動。

「「起動しました」」


 現在、対象に触れている左腕を除き、全ての四肢を液体化。

「「指示を受け付けました。実行します」」


「大丈夫です?!」

 慌てた様子の、漁師君。


「おんぶしてくれないかな?」

 

「僕で良いのですか?」

「いいよ。君をがいい。信用したいから」



~同日17時~


 5時になりました。

 ニュースをお伝えします。


 政府関係者への取材により、AT社、アメジストテクノロジー社の国営化する意思を固めた事が分かりました。


 日本時間の今日早朝に行われた、一人称群と二人称群の国際会議。AT社の安全性への懸念から、国営化案が後押しされ、速やかに実行するとの事です。


 国営博物館事件以前から、安全性に欠陥があるとされていAT社の製品。国営化に伴って、どのように変わっていくのでしょうか?


 ~~~~~~~


 また、別の関係者への取材で、性能はそのままに、セキュリティを重視した設計を行うことを約束する。と述べた上で性能向上や、者の出荷量を増加させる見込みもある、と伝えられました。


 しかし、そもそもの使用を禁止するべきだ。との声も上がっており、政府がどのように対応するかは、いまだ、わかっていません。


~18時~


「やぁ漁師諸君。今宵はオフ会だ。存分に楽しもう!!」 


 オフ会は、抽選で当選した10人で行うことにした。

 現在、私を含め11人。全員揃っている。

 だが。

「ところで、なんで、そんなに目を丸くしているの?」


「いや、待ってください。おんぶされてる多湖さんが言いますか?」


 そういえばそうだった。

「あ、そうだった。で、説明し忘れてたけど、今私をおんぶしているのは、アシスタントの漁師君。今、何故か手足の成型が上手くいかなくてさ、立てない訳で。こんな感じで良い?」

「え? 僕に聞かれても。ってかアシスタントって」


「うん? まぁそんな所です!! で、参加賞の子分を渡しますから、一人ずつ手を出してください」

 

 え? 近づいてこない?


「タコさん。俺、漁師辞めます」

「俺も」

「私も」

「吾も」

「俺も」


 え?


「なんで?」


「その。姿が。四肢が触手だって知ってたけど、あまりにも”きもちわるい”。成型されてる姿は大丈夫なんですが、さすがにそれは許容できないです」

「私も、触手は大好きなんですけど。それは生理的に無理です」

「だって、波打って、変形して」

「真っ赤な血が巡っているのがハッキリ見える」

「色も、人離れした透明だし」

「人の肌にべったり張り付いて、寄生されてるみたい」


 え?

「「ナノシステム「盲愛」より通知。触れている対象の感情は怒りを覚えました」」


「ねぇ、漁師君。そうなの? 気持ち悪いの?」

「そんな事無いですよ。多湖さん。僕はそれも大好きです」


「「触れている対象は、嘘をついていません」」


「帰ります」

 そう、9人が言った。


 それから、数分とした刻が流れた。

 

 泣いている。自分が。

 

「あんな奴ら、気にしなくても良いですよ。にわかです。奴らは多湖さんの良い所が分からないバカですよ」


「漁師君」


「安心してください。僕は離れていきません」

「本当?」

「本当ですとも」


「本当?」

「本当です。信じてください。そういっても初対面な人を簡単に信用できませんけどね」


「ううん私信用する。初めて優しくされた気がするんだ」


「そうですか。それはうれしいです。ですが、これからあのような輩が増える事でしょう。その為に、いい事を教えておきます」


「いい事?」

「悪口の事です」


「この世の中に、相手の事を考えて話している生き物なんて存在しません。理由は簡単で、考えが甘いからです。人の心理には必ず裏の背景がある。なのに。なのに。簡単に相手の感情を読んでしまう。考慮した言葉なんて机上空論に過ぎない」


 彼が何を言いたいか、よくわからない。


「貴女が、そう、貴女が”思い当たる点”があるから、悪口になるのです。相手の言うことは、全て、戯言だと思えばいいのです。だけど、私、僕だけ信じてください。思い返してください。貴女がネットを始めた時のあの言葉の嵐を。今、貴女を好きと言っている人間のほとんどは、本当に好きな訳じゃない。ネタとして見て。その材料として見ているだけです。そう分かっていて生きているのでしょ?」


「わかってはいるよ。多分」

 頭ではなく、心が理解した気がした。


「ナノシステム「盲愛」ログを読み込み。以後、読み込み制限を解除。システムの一部を「溺愛」に上書き。最適化後、再起動。これで貴女は”幸せ”になる」


「幸せ?」

「そうです幸せです」



~研究室~


「ン? 「溺愛」の起動を確認? 石英、解析モトム」

「あらぁ、いやですね。あの暴走しているナノシステムが再起なんて、穂先真っ暗じゃないですかぁ?」

「ソンナ事言っている場合じゃないヨ。早く解析ヲ」

「ったく、僕に押し付けてこないでくれる? 姉貴」

「だって、私より処理が速いんですもん。愛しの妹君、頑張って!」

「そんな引っ付かないでくれ。で、解析処理は完了しました。データ転送します」


「これって、「愛」とそれほど変わらないんじゃないですか?」

「姉貴の言う通りだ。あまり変わらない」

「マズイコトニナッタ」


「どうします? 遠隔解体します?」

「出来たら苦労してないぜ」

「ソう。これは博士に相談しないといけナイ」


「でも、今日休日で出かけてるって」

「ソレが問題。今ほしいのにイナイ」

「僕が通信しても、応答はないっす」


「それ、妹君、未来予知して何時帰ってくるか予想してみたら?」

「ソレダ」

「えぇそんな器用な事できませんよ」


「まぁ、予言する限り。明後日」

「オソイ」

「妹君、鬼電だ鬼電!」


「りょーかい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る