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 親父と話したことを、俺はありのまま二人に伝えた。

 藍香さんも舞佳も呆気に取られたように無言だったが、注意深く見るとそれぞれ異なる表情をしていた。

 藍香さんは驚きを隠せないと言った顔で俺を見つめ、

 舞佳は、今にも溢れそうな涙をなんとか堪えているような、そんな顔に見えた。

「悪い、二人とも。こんな大事なこと、一人で勝手に決めてきて」

 だけど、と俺は続け、

「俺がこの家に戻ることができれば、誰に憚られることなく二人を匿えると思ったんだ。舞佳も日本を離れずに済むし、藍香さんも藍子さんと距離を置ける……なにより、また三人一緒にいられるって」

 これが、俺が出した答え。

 ずっと反故にし続けてしまっていた、幼い日の約束を果たすための。

「……ほんと、呆れるくらい真面目よね、ユウって」

 茜色に染まった微苦笑が零れ落ちる。

 その眼差しには大きな安堵と、小さな喜びが織り込まれていた。

「でも、こんなに頼もしくなるなんて思わなかった。まさかユウが、自分からお父さんに会いに行くなんて」

「まあ、結局俺は親父に縋っただけだから、頼もしくなったなんて言われてもな……だけど俺は、藍香さんの言葉があったから親父に会いに行けた、頼ろうと思えたんだ」

「あたしの、言葉?」

「真幸さんに言ってただろ。俺は頼まれたら断れない、そういう男の子なんだって……それは間違ってないと思う。俺は藍香さんとの約束を守り続けるために、ずっと断らないようにしてきた。それで時には、無理難題を押しつけられて、断り切れなくなったこともあった。だけど……」

 俺は二人に目配せして、言った。

 藍香さんや舞佳、そして親父からの言葉で気づかされた、俺自身の本心を。

「二人の願いだけは、断りたくないんだ・・・・・・・・。だからどっちを選ぶとか、そういうことじゃなくて――二人が一緒にいて、離ればなれにならなくて、一緒に笑ってくれることが、俺にとって大切なことだったんだ」

「……もう。ユウのくせに、泣かせるようなこと言わないでよ。ちょっと生意気――」

 と、藍香さんが苦笑を込めた言葉を返した時。

「――わっ!?」

 ずっと黙り込んでいた舞佳が、俺の体に飛びついてきた。

 あまりにも突然のことで体勢を崩しかけたが、なんとか踏み止まって彼女の体を支えた。

「ま、舞佳? 大丈夫か?」

「……ごめん、ごめんなさい……っ」

 嗚咽混じりの声がかろうじて聞こえた。

 ほとんど抱き着かれたような形となっているため表情が分からないが、舞佳が泣いていることだけははっきりと分かった。

 そしてその涙が、悲しいものではないことも。

「ありがとう、ユウ君……ありがとうっ」

 俺の胸元で舞佳が顔を上げる。

 彼女の涙が俺の腕に零れ落ちた。確かな熱を持った温かな雫だった。彼女の頬に張りついた氷の仮面を溶かすには、充分過ぎるほどに。

 ――そうだ。舞佳はこんな風に笑う少女だった。

「……もうっ、こんな時ばっかり素直なんだから」

 すぐ傍で、呆れたような呟きが聞こえてくる。

 それからすぐ、俺の体に抱き着く温もりが二人分になった。

「こらっ、舞佳だけずるいわよ! あたしも混ぜなさい」

「ちょ、二人は、さすがにきつい……!」

「きゃっ! ね、姉さん、どこ触って――」

 なぜか三人でもみくちゃになってしまい、果ては俺の足腰が持たずその場に倒れ込んでしまったが、俺たちの笑顔は変わらなかった。

 こんな時間が、三人一緒に笑っていられる時間が、いつまでも続いてほしい――。

 子供染みた願いを胸の中に描きながら、俺は懐かしい夕陽色の景色に目を細めた。


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