Hidden Her Hearts ▼ Side M


 ……思っていたよりも片付いている。アパートにある姉さんの部屋よりずっと綺麗かもしれない。

 偏見かもしれないけれど、男子寮なんてもっと散らかっているものだと思っていた。

 姉さんに聞いた話だと、ここは普通の寮の部屋とは違うらしい。元は寮母さんのための部屋で、だから色々な設備が整っているって。

 本当に、泊まっていいのかな……さっきはあんな風に即答しておいて、今更迷ってしまう。

 泊まっていいわけがない。でも、ほかにどうしようもない。

 ……来るべきじゃ、なかった。せっかく、独りでも大丈夫になったのに。なにもかも諦められたはずなのに……今更、迷ってしまう。こんなところへ来てしまったら。優しさに甘えてしまったら――同じ過ちを繰り返してしまう。

 ……ううん、なにも考えないようにすればいい。心を乱されないようにすればいい。

 この四年間、ずっとそうしてきたように。

 今は早くお風呂を済ませないと。鏑谷君が戻ってくる前に。

『あんた今、鏑谷君って言った?』

 姉さんにそう訊かれ、私は返答に窮した。

 なにが悪いの? なんでそんなこと訊くの?

 どれも言葉にできなかった。私はなにも言い返せず、逃げるようにユニットバスの中へ入った……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る