Hidden Her Hearts ▼ Side R


 ……はぁ。重たい溜め息。

 思わぬ形で当てが外れてしまった。よもやよもやな事態。

 前から約束してた友達より、急に来た彼氏の方を取るなんて。あたしも人が良過ぎるかしら。簡単に引き下がれるほど余裕ないはずなのに。

 でも、友達だからこそ、彼氏との時間を邪魔するわけにはいかないわ。

 かと言って家にも帰りづらいし、ほかの友達はみんな実家だからお世話になりづらいし……。

 はぁ、いつもはあんまり思わないけど、今日ばかりは彼氏持ちがちょっと羨ましいかも。あたしもそろそろ、ちゃんと考えなきゃなのかなぁ……。

 ――あ、やばい。手が滑った。

 なんて気づいた時にはもう遅し、真っ赤なスーツケースが歩道橋の階段を独り歩き……なんてできるほど優秀じゃないから、ガラガラーっとぶっきらぼうに下っていく。

 しっかり鍵をかけてたおかげで中身はぶちまけなかったけど、キャスターが完全にお陀仏だった。鍵の方が頑丈ってそんなのあり? もー、これ結構高かったのに……。

 なんとか電車の中までは運んでこれたけどもう限界。これで家まで帰るとか絶対無理。でも帰りの駅はロッカーもないし、どうやって帰ろっかなぁ。

 ――しょうがない。切り札を使う。

 スマホを出してラインを送信。迎えにきてね、と。ハートマーク付けとくと喜ぶかな。うーん、そんなタイプでもないかな、あの子って。

 はぁ……、三度目の溜め息。吐き過ぎてもう肺が空っぽ。泊まる当ても万策尽きた。本気でどうしようっかなぁ……。

 ラインの返信が返ってくる。一応承諾されたっぽい。

 ……これ、もしかしてワンチャンあるかも?



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