第一話 日常と異常

Hidden Her Hearts ▼ Side M


 ……代わり映えのない一日。普段通りの朝。

 今日も教室は騒がしい。なに一つ自分と関係のない話題が飛び交っている。真夏の狂った蝉のように耳を劈いてくる。

 でも、これでいい――私は、独りじゃないとダメだから。なにも、誰とも関係がない方が、都合がいい。

 気が紛れるようになにかしていたいけれど、あいにく手持無沙汰になっている。授業の予習も済んでいる。図書室で借りた小説もすべて読んでしまった。

 返しに行くだけの時間はまだあるけれど、別の本を借りられるわけでもない。休み時間に行った方が効率的だ。

 すべきこと、できることがないと、どうしても考えてしまう……自分がどうすべきなのか。どんな決断を下すべきなのか。

 ううん、本当は分かっている――私に選択肢なんてないことを。

 それでも、心のどこかで拒絶している。抗いたいと思っている。

 こんなにも独りでいることに慣れたのに……孤独を友人にできたのに。今更になって、迷いが生じている。

 とりあえず、少し距離を置こう。お母さんに連絡して、姉さんの部屋にでも……。

 ふと、ざわめきの中に聞き馴染んだ声が混じる。

 意識せずとも追いかけてしまう声……ダメ、気にしないようにしないと。

 だけど、あれって――ああ、やっぱりまただ。あの子に、いいように使われている。いつも制服を着崩している子。私とは特に折り合いの悪い女子生徒。

 ――これは弱さじゃない。だって、私は学級委員なんだから。昔みたいに、甘えるわけじゃないから……。

 そう自分に言い聞かせて、私は席に座ったまま耳を澄ませていた――。

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