第35話  彼女と天使とバレエ+巡礼 物語を彩るバレエについて少しだけ

 読者の皆様、志戸呂玲萌音です。

 『彼女と天使とバレエ+巡礼』をご愛読いただきありがとうございます。

 この場を借りてお礼を申し上げます。

 今回は、お話に登場するバレエについてご案内させていただきます。


1.チャイコフスキーと世界三大バレエについて


 バレエはイタリアで生まれ、フランスに渡り発達しました。

 その後、ロシアで大きく花開くこととなりました。

 その一つの要因は、衣装であるチュチュの変化です。

 長くふわりとしたロマンティックチュチュから、短く張りのあるクラッシックチュチュになったことで、脚全体が見えるようになり、舞踊の技術も大きく進歩しました。

 そして、当時すでに大作曲家であった、チャイコフスキーが音楽を手掛け、世界三大バレエと呼ばれる作品が制作されました。


 ①くるみ割り人形

 初演:1892年サンクトペテロブルグ(ロシア)のマリンスキー劇場

 振付:レフ・イワノフ

 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー


 クリスマスシーズンの人気演目です。

 クリスマスの夜、少女クララが、くるみ割り人形と共にお菓子の国に旅立ちます。

 ネズミの王様とおもちゃの兵隊の戦争。大きく伸びてゆくクリスマスツリー。個性豊かな民族舞踊。わくわくする楽しい場面が続きます。

 その中で最も目を引くのは、金平糖の踊りでしょう。

 チェレスタの音色に乗って、繊細で可憐なダンスが踊られます。

 大人も子供も楽しめるバレエで、家族で観劇する方も多いようです。


 ②白鳥の湖

 初演:1895年サンクトペテロブルグ(ロシア)のマリンスキー劇場

 振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ

 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー


 王子ジークフリートと白鳥に変えられた王女オデットの悲恋の物語です。

 オデットと悪魔の娘オディールは同じ人が演じます。

 繊細で優しいオデットと激しく大胆なオディールという正反対の役を踊り分けることが、この舞台の魅力のひとつと言えるでしょう。

 夜の湖畔に流れる「情景」はあまりにも有名で、神秘的な場面を盛り上げてくれます。

 そして、オディールの披露する32回転グラン・フェッテ・アン・トルーナンは見応えある超絶技巧です。

 

 ③眠れる森の美女

 初演:1890年サンクトペテロブルグ(ロシア)のマリンスキー劇場

 振付:マリウス・プティパ

 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー


 原作はシャルル・ペローの童話です。

 ある王国に待望の王女が生まれました。彼女はオーロラ姫と名付けられます。

 国中の妖精達が招待される中、手違いにより意地悪な魔女が招かれませんでした。怒った魔女は「王女は十六歳の誕生日に指に針を刺して死ぬだろう」と呪いをかけます。その中で、一人の妖精が「王女は死ぬのではなく百年の間眠り続けた後、王子のキスにより目覚める」と、それを和らげます。

 王女の十六歳の誕生日から、百年の眠り、王子との婚礼。豪華絢爛たる舞台が続きます。

 最大の見せ場は、結婚式で王子と踊るパ・ド・ドゥでしょう。

 初々しくも気品ある舞踏に観客達は魅了されます。

 オーロラ姫役のダンサーには、技術や演技力に加え、華やかな容姿が要求されます。

 バレエには数多くのプリンセスが登場しますが、その中でもオーロラ姫は別格と言えるでしょう。


 当時のロシアバレエは、皇帝と貴族の為のものであり、興行について気に掛ける必要はありませんでした。

 この状況がバレエの自由な発展に大きく影響したかもしれません。

 

 拙い説明ではありましたが、どれか一つでも演目に興味を持っていただければ幸いに存じます。


 2.ロマンティックバレエの代表作・ジゼル


 第二章で沙羅は「ジゼル」の主役を踊ります。

 ここではジゼルについてご案内させていただきます。


 初演1841年 パリ・オペラ座

 振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ジョゼフ・ペロー

 作曲:アドルフ・アダン


 ジゼルはロマンティックバレエの代表作の一つです。

 ロマンティックバレエとは、「ロマン主義のバレエ」という意味です。

 ロマン主義は、十九世紀初頭にドイツで文学として生まれ、欧州にとどまらず、世界中に広まっていきました。

 フランスではバレエにも影響を与え、それがロマンティックバレエと呼ばれるようになりました。


 特徴とてしては、身分違いの恋、異国の文化、自然、妖精などの神秘的なものなど、やや現実離れした存在に対する憧れがあります。


 バレエにおいては、白い薄布を重ねたロマンティックチュチュと、トゥシューズでの爪先立ち歩行により表現されました。

 この二つが、ふわふわとした妖精のような、儚げな雰囲気を醸し出したのです。


 ジゼルは二幕からなり、一幕ではジゼルは若者アルブレヒトに恋をします。

 ところが彼は貴族の青年で婚約者がいました。

 もともと心臓が弱かったジゼルは、それを知ったショックで命を落としてしまいます。

 二幕では、アルブレヒトがジゼルの墓参りの為に、夜の森を訪れ、ウィリの群れに捉えられてしまいます。

 ウィリは未婚のまま死んだ娘達で、青年を死ぬまで躍らせる精霊です。

 ジゼルはウィリの女王ミルタに逆らい、アルブレヒトの命を救い、物語は終わります。

 ジゼルを演じるダンサーは、二つの世界観を表現しなくてはなりません。

 一幕では素朴で可憐な村娘を、可愛らしいステップで表現します。

 前半のジゼルが幸福なほど、終盤の悲劇が際立ちます。

 二幕ではウィリに身をやつした悲哀、アルブレヒトを赦す愛の強さを表現します。

 この役を、完璧に演じ分けることの出来るダンサーは稀だと言われています。

 それほど、高い演技力を求められる、難しい役どころなのです。

 また、二幕は幻想的な群舞の美しさで知られています。


 朝日と共にジゼルが消え、アルブレヒトに別れを告げる場面は、感慨深いものがあります。


 少し悲しい物語ですが、見どころもたくさんあります。

 もし、機会がございましたら、劇場に足を運ばれることをお勧めいたします。


 拙い文章ではございますが、物語に登場するバレエを紹介させて頂きました。

 今後とも、「彼女と天使とバレエ+巡礼」をお楽しみいただけますようお願いいたします。





 


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