第68話 一刀両断
「暗部?」
アッザムが訝しげな声を出す。他の者たちも聞きなれない言葉に驚いていた。
「まぁ私たちのことはあまり表立って行動しない人間だと思って下さい。裏でこっそり動く人間だと」
「そんな裏で動く人間がのこのこ表に出てきちゃっていいのか?俺たちはお前の顔を見たんだぜ?」
「ご心配なく。この顔は偽りのものですから。今は高レベルの開拓者という設定で動いていますのでご安心を」
そう言うなりゾルダンはまた不敵な笑みを浮かべた。アッザムはその笑みを見て不快な思いになる。
「気に食わねぇ野郎だ。その暗部がなんで俺たちに正体を晒した?何が目的だ?」
「それはあなた方に協力して欲しいからです」
「協力だと?」
ゾルダンの言葉に思わず声を漏らす。その言葉を疑うがあまり、さらに眉間に皺が寄る。その反応を見てゾルダンはため息を吐く。だが笑みは崩れていない。
「なんだか全然信用されていないみたいですね。いいでしょう。私たちは今、ある敵を追っています。その敵の情報を得るために協力してほしいのです」
「敵?フォレスターの事じゃねぇのか?」
「いいえ、フォレスターなど捨て駒に過ぎません」
「————!」
アッザムにとって、それは衝撃的な一言であった。なぜならフォレスターは自分の私利私欲のためだけに動く事をよく知っているからだ。そんな人間が誰かの駒に成り下がり動く事など到底考えられない。
「あぁ、もちろんフォレスターは自分が利用されている気などこれっぽっちも思っていませんよ」
ゾルダンはアッザムの表情から気持ちを読み取り、答えた。その返答を聞き、アッザム自身は自分が見透かされたようでさらに眉間に皺が寄った。
「ますます気に食わねぇ野郎だ…それで、俺たちに協力しろって言うのは一体どういう事だ?」
「それはこれからここに現れるであろう超越者をあなた方に倒して頂きたいのです」
「超越者…やっぱり来るのか」
先ほどラルフたちが予想していた事が当たっており、思わず苦い顔をする。
「俺たちに戦わせて、お前たちは高みの見物ってわけか?」
「いいえ、もちろん私たちも戦いますよ。私とカルゴだけでは相手になりませんので。皆さんの協力を得て、そして超越者を捕まえ、彼らを動かしている者たちの情報を吐かせます」
「何で俺たちがそんな事に手を貸さなきゃいけねぇ?」
「手を貸す?利害の一致による協力と言ったところでしょうか?私たちは超越者を捕まえるため。そしてあなた方はドラゴンの卵を取り返すために。どうせこの金庫部屋を開ける事ができないのですから」
そう言ってゾルダンは目の前の金庫部屋を指差す。頑強な扉を目の前にし、思わず面を食らうアッザム。
(フォレスターはここに隠れたのか…確かにどうこう出来るものじゃねぇな)
「おい、どうする?」
アッザムは振り返り、ラルフたちに声を掛ける。
「どうするって…このままじゃあの金庫部屋は空きそうにないし。戦うしかないんじゃない?」
ナナはそう反応する。その横で腕を組んでいたラルフがルーに訊く。
「俺はどう足掻いても何にも出来そうにないんだが…おい、ルー。超越者ってのはやっぱり強いのか?お前でも無理か?」
「戦ってみない事にはどうにも。ですが少なくとも強いことは確かです」
「お前の口から強いという言葉が出るのか…という事は相当強いんだろうな」
「そんなの当たり前よ。超越者よ!?はっきり言って私たちの高レベル開拓者とは次元が違うわ。人離れしている強さ、やっぱりルーさんほどの実力を持っていてもおかしくはないわ」
ナナは本来、自分を卑下に扱う事は好まない性格をしている。しかし、そんな自分を雑魚と言えるほど、超越者と自身がとてつもなく力が離れている事を自覚していた。
「そんな奴らが最低2人は来るんだろ?おい、どうする?嬢ちゃんがメインで相手にする事になるが大丈夫か?」
アッザムがルーに声を掛ける。自然とラルフとナナもルーの顔を覗き込むように見る。
「正直に言うと厳しいという他ありません」
その言葉に3人は苦い表情をする。だが、
「ですので、戦わずにここを離れましょう」
それを聞いてキョトンとした顔をするラルフたち。
「おい、ルー。戦わずにって、一体どういうことだ?」
「それはですね…」
そう言うと、ルーはつかつかと歩き出し、金庫の扉の前に立つ。そして金庫の扉を確かめるように手でコンコンと叩きながら、
「この扉を斬ります」
と簡単な調子で言ってのけた。
それを聞いて驚愕な表情をするラルフたち。それはラルフたちだけではなかった。
「今、この扉を斬ると聞いたのですが…」
そうルーに訊くのはゾルダンである。
「えぇ。超越者と戦うのは避けたいので。下がってもらえますか?」
ルーは淡々と答えた。無言の圧を感じたゾルダンは素直に後ろへと下がった。
ルーはミスリルの剣を抜いた。剣を構えながらルーは目を閉じる。一度大きく息を吸い込み、それをゆっくりと吐く。
息を吐き終えたルーは目をカッと見開き、そして舞い上がる。
舞い上がりながらルーは剣を振り上げ、そして落下と同時にその剣を力の限り振り下ろした。
金属と金属がぶつかり合う音、それは衝撃音と言っていいほどの音が鳴り響き、思わず目と耳を塞ぎたくなるような大きさであった。
地面に着地したルーは何事もなかったかのように剣をしまい、そして扉に背を向け、ラルフたちに向き直った。
「お待たせしました。これで中に入れます」
「………」
ルーが示した金庫の扉は、斬ったというより、剣を当てた場所が裂けるような感じで割れていた。ルーは力づくでこじ開けたのだ。あまりのすごさに誰一人として声を発する事が出来なかった。
「皆さん?」
その声にアッザムたちは我に返る。
「よ、よし。これで超越者とも戦わないで済むな。よし、おめぇら行くぞ。それと暗部さん。わりぃが超越者とは戦いたくねぇからすぐにこの場をとんずらさせてもらうぜ」
未だ驚いているゾルダンにアッザムは笑って返した。それでようやくゾルダンも我に返り、
「分かりました。これではあなた方に協力を要することは出来ませんね」
と諦めたように笑った。
金庫の中へと入ったアッザムたちは中へと入る。そこには尻もちをついていたフォレスターがいた。
「久しぶりだな」
アッザムはギラりとした目を輝かせ、脅しを込めてフォレスターに笑みを浮かべた。よく見ると恐怖に慄いたフォレスターは小便を漏らしていた。そしてその横には大きな卵が置かれていた。
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