第57話 アジトにて
ラルフたちは話を聞くため再びアッザムのアジトへと訪れる。またこの時はナナも呼び出していた。
アジトの中を歩くラルフたち。ちらほらと構成員の視線が集まる。構成員たちはアッザムとラルフが打ち解けた事を知っている。しかし、全ての者がそれを受け入れる事が出来たわけではない。
特にラルフたちへ絡んだマルスは睨みつけるようにラルフたちを見る。
「アッザムさんもなんであんな奴らと仲良くしてるんだ?」
ここで同じくラルフたちに絡んだスペルクがマルスをたしなめる。
「まぁそう言うなよ。俺もあの時はムカついたけど、今はもうなんとも思ってねぇよ。それにあのラルフって奴、俺たちと同じスラム出身だって言うじゃねぇか。俺はあんまり嫌いになれねぇよ」
「っち、裏切り者が」
そう言うとマルスはどこかへ姿を消してしまった。
「それにしても相変わらず野蛮な奴らが多いわねぇ」
ナナは辺りを見渡しながら話す。
「あたりめぇだ、上品な奴らがここにいるわけねぇだろ」
「ナナはここに来たことがあるのか?」
ラルフはナナへと問いただす。
「まぁね。アッザムには私からもいろいろと情報をもらったり、ズーに武器を融通してもらったりしているのよ」
「ふぅ~ん、アッザムはいろいろとやってるんだな」
ラルフは少し感心したように答えた。他人と極力関わる事を避け、1人で生きて来たラルフにとって、構成員を束ねて組織を作るなど決して出来ないからだ。今もアッザムの横には付き人が一緒に歩いている。やはりアッザムはこの組織の中でトップの存在であるのだ。
「食ってくためにいろいろと手を出したらこうなっただけだ。そんなことはどうでもいい——おい、部屋の中には誰もいねぇな?」
と部屋の前で立ち、見張り役をしていた男にアッザムは問いただす。
「はい、誰も入っていません」
「おい、とっとと部屋の中へ入れ」
ラルフたちを奥の部屋へと入らせた。アッザムはラルフたち3人が部屋の中へと入るなり、
「お前は外で待機だ」
と部屋のカギを閉め、付き人たちでさえも部屋の中へと入らせなかった。
「いいのか?」
「どこで話が漏れるか分からねぇ。話を聞く人間は少ねぇ方がいい」
ラルフの問いただしに対し、アッザムは素っ気なく答えた。
アッザムの組織は100名を超える組織のメンバーで構成されている。当然古巣もいるが、入って間もない者も多い。それだけの数がいれば全てのメンバーの行動を監視出来るわけでもない。貧困喘ぐ明日を生きるのもままならない者たちがスラムで活動をしているのだ。どんな者が混ざっていても可笑しくない。組織に所属しているからと言って、完全に信用出来るわけでもないのだ。アッザムという男はそれを熟知していた。
アッザムはラルフたちがソファへと座るなり、話を始めた。
「早速だが今回の件、やっぱり貴族が絡んでいるぞ」
当然だという顔をするラルフたち。その中でルーは少しだけ2人より目つきを鋭くしていた。
ルーが王女でいた時代、顔を合わす者たちはほとんどが身分を保証されていた貴族たちであった。どの貴族たちも好意的で紳士的に振る舞いをする者たちばかりであった。多少苦手と感じる者がいたとしても、どの貴族も品行方正に生きている者だと思っていた。貴族とはそういう人間の集まりだと思っていた。だが、国は違えど、現状を知った今は自分がお花畑の考えであったことに反省をしていた。寧ろ、今は清く正しい貴族など存在しないのではないかと思うほどに。
そんなルーが声を低くし、アッザムに尋ねる。
「それで、その問題の貴族は?」
「第二階貴族のイーロン家だ」
すると、ナナが意外そうな顔をする。
「イーロン家?あそこって結構まともな貴族だと思ったんだけど?」
「嫌、間違いねぇ。イーロン家は最近活発的に動いている。あそこは嗜好品の事業を独占しているからな。もっと商売の手を広げるために第一階貴族や王族に名を売りたいんだろ」
「なぜそのイーロン家がドラゴンの卵を盗む必要があるのです?この国に混乱をもたらして何の意味があるのです?」
ルーはイーロン家がドラゴンの卵を盗んだ意味が分からなかった。それはラルフも同様だ。
「バカ。ドラゴンが無事に孵ってイーロン家がドラゴンを育てあげてみろ?人間の言う事を聞くドラゴンだぞ?ものすごく貴重な戦力になる」
「ルーさんだっけ?あんたがどんな過去を生きて来たかしらないけど、それだけ強ければ少なからず事情は知ってるでしょ?どこも国を上げて魔界に遠征しているのを」
「…はい」
ルーはナナの言葉に一瞬驚いた。なぜならルー自身がアルフォニアで先頭に立って魔界に遠征していたからだ。戦力が多いければ必ず魔界の開拓が上手く行くという保証はないが、戦力は多いに越したことはないのだ。
「ドラゴンを育て上げ、王族や第一階貴族に売り込めばイーロン家は融通を利かせてもらえるという事ですか?」
「あぁ、そういう事だ」
そんなやり取りを聞いていたラルフが頭を掻きながら、
「面倒くせぇ話だなぁ」
とため息を漏らすように答えた。まるでどうしてそんな上の者たちの思惑に下々が迷惑を掛けられねばならないのかというような感じだ。
そんな素直なラルフにアッザムは笑いながら、
「あぁ、面倒くせぇ話だ」
と同調した。
「それで、そこに卵はあるのか?」
「まぁ、待て。今はまだどこにあるか分からん。それにおやっさんにも報告しなきゃいけねぇ。ギルドへ向かうぞ」
そう言うと、早々にアッザムは立ち上がり、部屋の扉を開けた。ラルフたちも立ち上がる。部屋と一足先に出たアッザムは付き人の男に「ギルドへ行ってくる」と告げ、出口へと向かっていた。ラルフたちもそれに倣って部屋を出て行った。
部屋の外で見張りをしていた男が周りを見渡す。アッザムたちや付き人、また他に人影は見当たらない。
「おい、もういいぞ」
男は誰も居ないはずのガランとした部屋に声を掛けた。しかし、その部屋の奥に人1人が入れるくらいの隠しスペースから男が出て来た。その男はマルスであった。
マルスは見張りの男に「わりぃな」と声を掛け、いくらかの金を渡した。
そしてマルスはアジトを出て、同じスラム街のある場所へと向かって行った。
ギルドへ着いたラルフたちは早速ギルドへと報告へ言った。
ランバットはラルフたちをギルド長室へ入らせた。現在この部屋はラルフたちとランバットの5人しかいない。
「おやっさん、盗聴されてねぇか?」
「ギルド長と呼べと言っただろう。大丈夫だ。お前と違ってそんなヘマはせん」
「そうか、ならいいな。おい、さっきの話は忘れろ。これから本当のターゲットの話をする」
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