第44話 町の探索
ラルフの提案により、スラム街に向かう事になった。
「ラルフ、スラム街に向かうと言いましたが、どこにあるのか分かっているのですか?」
「そんなもの、治安がどんどん悪くなる方へ向かへば、いずれスラム街にたどり着く。とりあえず適当に歩こうぜ」
そう言うとラルフは当てもなくふらふらと歩き始めた。ルーも少し心配しながらラルフの後について行く。
しばらくするとラルフは立ち止まる。
「こっちじゃ無さそうだな。道を変えるか」
「どうして分かるんです?」
「見てみろ。高級そうな店があるだろ?こんな近くにスラムなんかあるはずがない」
ラルフの視線の先には宝飾店が見えた。
確かにラルフの言う通りで、この場所は平民でも豊かな部類に入る者たちが立ち入る場所である。
「宝飾店ですか」
「…おい、お前の金だからこんな事は言いたくはないが、そんな物に金を掛ける余裕なんてないぞ」
「ラルフ、私たちのお金です。それに宝石類なんて私は必要ありません。私は宝飾にも魔石を使った物があると説明したかったんです」
「魔石が?指輪とかにって事か?」
「はい、身体を保護するための物などがあるんです」
「ふぅ~ん、ちょっと見てみようぜ」
「えっ?入るんですか?宝飾品は高級品ですよ?」
「大丈夫だ、見るだけならタダだ」
そう言うと、ラルフは店の方へ軽快に進み始めた。
今までのラルフは自分の身なりなどで店に入る事をしなかった。入るたびに罵倒され続けて来たからだ。しかし、開拓者となり、まともな恰好を出来るようになり、周囲から見られる反応も変わった。蔑んだ目で見られることは無くなった。それにより、若干の気が緩んでいた。好奇心に駆られていたのだ。
「いらっしゃ…」
店主と思われる人物がこちらを見つけるなり挨拶をしようとする。だがラルフを見た瞬間に言葉を止め、そして怪訝な表情を見せる。
「ここは開拓者なりたての方が来るところではありませんよ。どうぞお引き取り下さい」
ラルフは先ほどの鍛冶屋で初心者装備に着替えていた。そのため、ラルフが開拓者なりたての者だと気が付いていたのだ。そんな者がこの店の商品を購入する事など出来はしないと踏んだのだ。
「いや、魔石が加工された宝飾があると聞いて、ちょっと見てみたいと思ったんだが」
それを聞いた店主は明らかに面倒くさそうな顔をし、
「残念ですが、あなたにお見せする商品はございま——」
「——ラルフ、やっぱり私たちではダメなんですよ」
「————!」
遅れて入って来たルー。
そのルーを見た瞬間、店主は固まった。
(なんて美しい女なんだ)
すると店主は態度を一変させる。
「女性をお連れでしたか。どうぞご覧になって下さい」
ラルフはこのあからさまな態度に少々ムッとしたが、商品を見る事が出来るならとしぶしぶ店の中へ入る事にした。
「魔石を加工した商品でしたね?こちらです」
店主はラルフに見向きもせず、ルーだけを案内招き入れるような仕草であった。先頭に立って店に入ったラルフであったが、いつの間にかルーの後ろをついて行く形になっていた。
「ラルフ、ありましたよ」
「ん、これがそうなのか?」
ラルフはそのショーケースの中に飾られた指輪を見る。
「ただのきれいな指輪にしか見えないな」
「いえ、これでもちゃんと効果があるのですよ。指輪の魔石と体の中の魔素が共鳴して身体能力を向上させたり、またこの指輪の魔石が光らせたりして、敵をひるませる役割などもあるんです。まぁ身体能力向上させる物がほとんどですね」
「へぇ~」
ラルフは物珍しそうに指輪を見ていた。
その隙に店主はルーに尋ねる。
「お二人はどういったご関係ですか?」
「私も開拓者で彼とは仲間です」
「あ、そうなんですね、もっとそれ以上の関係だったり?」
「それ以上?」
「いえ、恋人であったりとか」
その瞬間、ルーの顔は赤くなる。
「そんな、恋人だなんて。まだ私も開拓者になりたての新参者で」
「という事は、お二人もまだ出会ったばかりと?」
「えぇ、まぁ…そうですね」
それを聞いた瞬間、店主は不敵な笑みを浮かべた。そして、ルーにさらに近づき小声で話しかける。
「あんた、俺の女にならないか?そしたらここにある宝飾品、好きなのもくれてやる」
(さぁ、どうだ?女はこういう物が大好きだ。俺だったらいくらでも贅沢させてやるぜ?この間、随分儲けさせてもらったからなぁ。それにただのガキにこんなきれいな女を横に置いておくのはふさわしくない)
店主はルーの肩を抱こうとする。しかし、その手はルーの手によってはじかれた。
「ごめんなさい、そういった話は結構です」
ルーは頭を下げた。
それと同時にラルフも宝飾品を見終え、ルーに声を掛ける。
「よし、俺はもういいや。ルーはどうだ?」
「私も、十分です」
「だったら行くか」
「店主、ありがとうございました」
「まっ…」
店主はルーの背中に向けて手を伸ばしていた。しかし、ルーが振り返る事はなかった。
「あなたには一切の興味がない」と背中が語っているようだった。
店を出たラルフはルーに話しかける。
「ああいう装備もあるって分かったけど、それよりもやっぱりもっと服というか鎧の方が大事なような気が俺はするよ」
「えぇ、確かにそうですね。ああいった宝飾品は半分オシャレ感覚でもありますから」
「ふ~ん、じゃあスラムに向かうか」
ラルフたちはまた当てもなくスラム街に向けて歩き出そうとした時、
「探したぜ」
男たちが声を掛けて来た。
その男を見た瞬間に、ルーは眉間に皺を寄せる。
男たちは昨日ギルドで絡んで来た二人組であった。
「付いて来てもらおうか、うちのボスが話があるそうだ」
「私はあなたたちに用はないのですが」
「ルー、諦めろ」
その男たちは他に仲間を連れていた。10人ほどに囲まれる。
ラルフは面倒くさそうな顔をしていた。
「すみません、ラルフ」
「まぁしょうがないだろ。それでどうだ?なんとかなりそうか?」
「はい、何も問題ないと思います」
「だったら付いて行こう、多分、スラム街に行ける」
「分かりました。もし危なくなったら私に構わず逃げて下さい。私は大丈夫です」
「俺がいない方が自由に戦えるって解釈でいいか?」
「はい、そういう解釈で結構です」
「分かった」
ラルフたちは男たちの指示に従い、黙って後を付いて行った。
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