第43話 初心者装備
翌朝、宿を出た2人はまずギルドへと向かった。ちなみにルーは結局ほとんど寝られなかった。
ギルドに着き、イリーナに装備を整える事が店を知らないか尋ねるつもりだったが、イリーナは不在とのこと。そのため、別の職員に聞いた。この職員は昨日イリーナに注意されていた者だ。
「装備を整えられる店?あ~鍛冶屋のことか」
「鍛冶屋?鍛冶屋っていうのか。で、その店はどこにあるんですか?」
「どこにあるって…どこにでもあるけど、もしかして君たちはこの国に来て間もないのかい?」
「はい、そうですが」
「だったら自分たちで歩いて探すといい。どこにどんな店があるのか、それも開拓者として知っておくのは当然の事だよ。何も魔界で活動するだけが開拓者のすべき事じゃないんだ」
職員によると、鍛冶屋は1件だけでなく、結構な数があるそうだ。その中で自分にあった店を探すといいとの事だった。
ラルフたちはギルドを出る。
「なんだか昨日のイリーナさんと同じような事を言われたな。自分たちで探せって」
「これも開拓者としての訓練って事なのでしょう。私もこういう事に関してはからっきしなので勉強します」
2人は昨日の宿を探すのと同様に町を探索し始めた。だが、割とすぐに鍛冶屋は見つかる。
「ラルフ、ありましたよ。鍛冶屋です!」
ルーは自分が見つけたと興奮気味にラルフに声を掛ける。
「案外簡単に見つかったな。よし、入るか」
ラルフたちは店の中に入る。
「いらっしゃい」
中に入ると、店員らしき人物が声を掛けて来た。
「あのぅ、装備を整えたいんですが」
ラルフは少し緊張した面持ちで答える。
「あんたたちは開拓者でいいのかい?」
「はい、そうですが」
「だったらまず登録証を見せてくれるかい?」
ラルフたちは登録証を提示する。
「ふぅ~ん、あんたたちは成りたてか。こっちへ来な」
店は割かし広い店だった。ラルフたちはその一画へと案内される。
「それで装備なんだが、開拓者なり立ての者が購入を許されているのはこれしかないんだ」
そう言うと、店員は袋を2つ持って来た。
「通称「初心者装備」だ」
「初心者装備?」
「まだレベル1だろ?レベルが5になるまではこれしか許されてないんだよ」
ナルスニアに来るまでに装備はレベルで購入出来る装備に制限が掛かっていることはルーやイリーナに説明されていた。
だがレベル1では購入できる物が1つだけとは知らなかった。
「おや、その顔は疑ってるな?」
「いや、そんなことは…」
「いいんだ。疑う事は開拓者として当然の事であって、必要な事だ。なんなら他の店を何軒か回って来るといい。もし俺の言う事が当たっていて、尚且つ恩を感じたのならまた戻ってこの店で買い物をしてくれるとありがたい」
店員はニヤリと笑った。
ラルフとルーは顔を見合わせると頷いて、一度店を出る事にした。見つけた鍛冶屋を何軒か回る。
「うちは初心者の装備は扱ってねぇんだ」
「レベル1?せめてレベル5になってから来てくれ」
「当店はレベル15以上の方からご利用頂けます」
「おい、ルー。まず初心者を受け入れてくれないぞ」
「そうですね、門前払いされてしまいます」
その後、なんとか初心者の装備を扱っている店を見つける事が出来た。しかし、やはり初心者装備しか売ってくれない。
「ラルフ、先ほどのお店の人が言っていたことはどうやら本当のようですね?」
「だな。よし、戻ろう」
すると今にいる店員が声を掛けてくる。
「あれ?あんたたち買わないのかい?」
「いやぁどうやら金が足りないみたいなんだ。悪いけどまた来るよ」
そう言ってラルフたちはそそくさとその店を出て、最初の店に戻った。
「いらっしゃ…おっ、さっきの人たちだな。どうだった?」
「あんたの言う通りだったよ。勉強になった。約束通り、この店で初心者装備を買わせてもらう」
すると店員は先ほどと同様に笑った。だが今回の笑い方は少し優しかった。
「正直な奴らだなぁ。毎度あり」
店員は改めて袋を2つ持って来た。服、ブーツ、手袋。初心者装備はどうやらこの3点らしい。しめて300J。
「これってただの服に見えるんだが、魔石は使用されているのか?」
「魔石?初心者装備には魔石は使われていないぜ」
店員は当たり前のようにそう答えた。
「これじゃあ魔物と戦えないじゃないか」
「それだよ、それ。開拓者になりたての者はみんな手柄を立てようと魔物に挑みたがるんだ。それと、魔界のどんどん奥へと進む。実力が伴わないのにも関わらず。そうやって命を落とすんだ。だから被害を無くすために初心者装備は本当に最低限の装備なんだ。下手な気を起こさないようにな」
ラルフはそれを聞いてハッとした。
開拓者になる前、魔物とは極力出会うのを避けるように行動し、戦闘は一度もして来なかった。しかし、開拓者になった今、自分の知らぬ間に戦う事を念頭に置いていたことを。
「要するに、危険は冒すな、魔界に慣れろって事か」
「そういうことだ」
ラルフは店員の言った事に納得した。
「ここだけの話、初心者装備は全く利益がないんだ。だから置いている店も少ない。だから早くレベル5まで上がって装備を買いに来てくれ」
「分かった。わざわざ教えてくれて助かる。とりあえず1つくれ」
「ん?2つじゃなくていいのか?」
「いや、そうなんだけど、今は1つでいい」
店員はルーを見る。顔を出してはいるものの、マントで全身を隠した状態だ。
「こっちのべっぴんさんはもう装備が整ってるってことかい?」
「う~ん、まぁそうと言えばそうなんだが、でも装備がいらないわけでもないというか…なぁ、レベル1は本当に初心者装備しか売ってくれないのか?こっそりもうちょっといい装備を売ったりはしてくれないのか?」
しかし、これを聞いた店員は首を横に振る。
「レベルに見合っていない装備を売る事は禁止されているんだ。バレたらギルドから制裁を受けちまう。リスクがデカすぎる。うちではそういうのはやってない」
「そうか…分かった。ところで初心者は武器を持たせてもらえないのか?」
「いや、そんなことないよ。簡単な武器は販売許可されている。丸腰なんて自殺願望も良いところだからな」
「そ、そうだな」
これまで丸腰で活動していたラルフはこの言葉に苦笑いするしかなかった。
その後、武器を見させてもらい、ラルフはダガーを購入した。値段は100Jだ。
こん棒、剣などいかにも冒険者らしい武器があったがラルフはそれらの武器を買う事はなかった。
俊敏性という自分の持ち味が失われるのを嫌ったためだ。
「よし、腰に装着出来たし、これなら動くのに問題ないな」
「初心者装備が必要になったら遠慮なく来てくれ。それと出来る事ならレベル5以上になってまたうちの店に来てくれ」
「分かった、いろいろ助かったよ」
ラルフたちは店を出た。
店を出た所でルーが声を掛けてくる。
「ラルフ、私の分は買わなくて良かったのですか?」
「いや、買おうと思ったんだが、もうちょっと店を回ろうと思ってな」
「店を回るって、私も駆け出しに戻ったんですし、初心者装備しか買えませんよ?」
「表向きはそうだな」
「表向き?」
「さっきの店員が言ってただろ?「うちではってそういうのはやってない」って」
「————!」
「そういう事だ。どこかの店で初心者装備以外も売ってくれる店があるって事だ。その店を探す」
「ですが、それならばラルフも」
「俺はダメだ。実力が伴っていないからな。でもお前は違う。実力があるんだ。ちゃんとした装備を整えたい」
「話は分かりました。でもそんな店、簡単に見つかるとは…」
「まぁな。でも心当たりがないわけでもない」
「心当たり?ラルフはこの国に来たばかりです——」
「——スラム街」
「!?」
「法と秩序から離されたあそこならそれらしい店があるかもしれない。行こう」
スラム出身のラルフは、そのスラムで苦い経験ばかりしてきた。
正に身をもって法と秩序から離された体験をしてきたのだ。
それにも関わらず、これからスラム街へと向かうラルフの顔は少し楽しげな笑みを浮かべていた。
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