7 ステファニーはどこにいる?


 「いいじゃない、いいじゃなーい、イケメンとの愛の共同作業…猫さがし!

 ふたりで迷子になった白猫をさがす…なんかいいイベントじゃなーい!

 そうこうしているうちに、ふたりの距離は近づいていき…それでどうなったの!?」



 酒豪のマキ様もやっと酔いが回ってきたのか、それとも深夜のせいなのか、変なハイテンションになりながら、ぐいぐいと私へ話の続きを要求してくる。


 とりあえずマキはもう、このストーリーの主題が怪談話であったことをすっかり忘れている。

 マキの酔っぱらった頭にはもはや、イケメン赤間さんと私が恋愛的にどうなったのか以外に重要な部分が残ってないのである。


 マキの圧があまりにも強いので、それに押されるようにして私は続きを話していく。


 たしかにマキの言う通り、当時の私は、赤間さんとの迷子の猫ちゃん探しというイベントにわくわくしていた。

 だってさ、ステキじゃない? 『迷子の猫ちゃん探し』っていうネーミングの輝きよ。


 少なくとも『幽霊の右手探し』よりはマシじゃない?

 実質やってることの意味はイコールであったとしても、赤間さんと一緒に探すものが『幽霊の右手』よりは『迷子の猫ちゃん』の方が、響き的に美しいっしょ?


 イケメンといっしょに迷子の猫ちゃんを探す…はぁ、ディズニー映画のワンシーンにも出てきたっておかしくないレベルのキラキラぶり、たまんない…。


 なーんて、うっとりしながらも私はこの日、朝から早起きして動きやすい格好に着替えると(厚手のパーカーに、チノパン、スニーカー、あとは念のために軍手)さっそく田中さんのおうちに向かった。

 まずはステファニーちゃん探しの方が、いま現在どんな感じに進んでいるのか確認するためだ。


 田中さんのおうちは仁見先生の医院から、ちょっとだけ距離がある。

 医院があるビルの前の通りを大型スーパーがある方へ向かって歩いていって、それから十字路を渡ったら左へ曲がってさらに郵便局のある方へ…って言ってもイミフだと思うので、とにかく少し歩いたところにある田中さんちの一軒家へ行き、私は田中さんちのインターホンを鳴らした。

 ちなみに、田中さんのおうちは、私のうちからだとさらに遠く離れている。


 事前に、ステファニーちゃん探しを手伝うからこの日の午前中にはご自宅に一度行きますと話してあったので、すぐに田中さんがおうちの中から出てきて、まだステファニーちゃんが見つかっている訳でもないのに、おばさんは泣きそうな顔で、来てくれてありがとうと私へお礼を言ってくれる。

 

 土曜日ということもあり、今日は田中さんの家族全員手分けして大々的にステファニーちゃんを探す予定になっているらしい。

 おばさん以外の家族はすでにみんな外へ探しに出ていて、一人残ったおばさんは電話対応係だそうだ。(町内に配りまくっているビラを見て、ステファニーちゃん目撃の電話をくれる人がいるかもしれないから)


 おばさんから、これまでのステファニーちゃん捜索作戦のあらましを聞く私。

 五日前の午後、雨が降り出しそうな空の様子を確認したくておばさんが少し窓を開けたとき、するりとステファニーちゃんはその隙間から外へ出て行ってしまったらしい。


 あわてて外へ出たステファニーちゃんを追ったものの、すでにその姿は無く、どうやら田中さんのおうちの敷地内から出て、別の場所へ移動してしまったあとのようだった。

 その後すぐに田中さんは、田中さんの自宅周辺、隣近所のおうちに聞き込みしつつ(うちのステファニーちゃん見ませんでしたか!?)建物の隙間やベランダ、屋根の上なんかも見てまわったけれど(仁見先生はステファニーちゃんのことを、トロそうなデブ猫ってバカにしていたけれど、ステファニーちゃんは普通に猫らしく高いところにも上り下りできるそうだ)その姿は見つからなかった。


 慌てて田中さん一家は、知り合いみんなにステファニーちゃんの捜索をお願いし、ビラを作っていろんな場所に貼ったり配ったりもして、家族総出で朝から晩まで歩いてまわって可愛い白猫の影を探す。

 しかし名前を呼んでも、いつも食べてるキャットフードを庭に置いても、ステファニーちゃんは姿を現さない。(仁見先生の推理通り、エサ置き作戦はやっぱりやってたんだね)


 ひょっとしたらステファニーちゃんは、すでにかなり遠い場所まで移動しているのかもしれない。

 自宅を中心として、田中さん一家は、ちょっとずつ捜索の円を広げるようにして一つの通りごとに、じわじわとさらに遠く遠くへとステファニーちゃんの姿を探しまわっている…とのことだった。


 で、その捜索範囲について詳しくきいてみると、まだ田中さんたち一家は、我らが仁見先生の医院の周辺までは探していないそう。

 というわけで私が、その周辺のエリアを探す担当に立候補することにした。


 私という仁見先生の医院で臨時に受付のバイトをしている女子の存在を、医院の周辺の方々はみんな知っていてくださっているわけなので、迷子の猫ちゃん探しでその辺をちょろちょろと歩きまわり、家と家の隙間をのぞいたりだとか、一般的に不審と思われる行動を私がとっていても、理由を説明すればほのぼのと見逃してくれるだろう。


 それにきっと、迷子のステファニーちゃんは…いや、『幽霊の右手』は仁見先生の医院の近くにある。


 その可能性の高さは、幽霊の本体らしき存在の多数の目撃情報や、ワンちゃんたちの不可解な行動からも読み取れるし。

 …なんてことは田中さんにはぜったいに言えないけど。

 

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