6-3
さすがです赤間さんっ、仁見先生のウザい絡みをさらりと受け流すそのスタイル…とっても慣れてらっしゃいますね、カッコイイ!!
お得意のウザ絡みが不発に終わって、不服そうな仁見先生の横をクールに赤間さんはすれ違っていく。
どうやら仁見先生へ宣言した通りに、赤間さんはもう帰っていってしまうみたいだった、…うう、ここでお別れだなんて、ざんねん。
玄関扉を開けて、夜の空気が広がる外の闇へと一歩足を踏み出してから赤間さんは振り返り、すぐそばにいる仁見先生をいないみたいに無視してその目線を私だけに向けると、一度頭を下げ「それでは、また」と最後に言って、そして去っていってしまった。
赤間さん、帰っちゃった…。
だけど最後に赤間さんは私へ「それでは、また」と言ってくれた、また…次があるんだ、赤間さんが私に会いに来てくれる次の機会が。
あなたが信じるなら…と言って微笑んでくれた、あのときの赤間さんの笑顔を私は思い出す。
ああ…これから私たち、いっしょになって幽霊退治をするんだ…うう、すっごくわくわくしちゃうなぁ!
黒馬に乗った王子様とのふたりだけの秘密の約束を思い出して、私はうっとりともの思いに浸っていた、だから、すっかりそこにいる仁見先生の存在を忘れてしまっていた。
「マナちゃんさぁ、赤間くんと何か話した?」
「えっ?」
やばっ、そうだ仁見先生いたんだった(てゆーか仁見先生が来たから赤間さん帰っちゃったんじゃないの?)と、おじゃま虫の存在を思い出した私がそちらを見ると、ものすごくジトーッとした疑いの目つきで仁見先生が私のことをガン見していた、なんか気まずい…。
「えっと、赤間さんすごく礼儀正しい方で、何度もあの夜のこと驚かせてごめんねって謝ってもらっちゃいました、そんなカンジです」
せっかくの赤間さんとの二人だけの秘密の幽霊退治話を、仁見先生なんかに知られちゃったら、どうせロクなことにならないから、私は上手く話をそらしてみた。
「あっは! そうだよねぇ、赤間くんが驚かせるような真似するから、マナちゃんがびっくりして塩ぶっかけたんだもんねぇ、赤間くんが謝るのは当然ってもんだよ」
むうぅ、また仁見先生は赤間さんを小ばかにして一人でウケている、そんでもって私もばかにされている、ほんと仁見先生ってやんなっちゃう。
それでも私にとっては、仁見先生の面倒をおばあちゃんの代わりにみるのもお仕事だから、こうやっていい歳して一人はしゃいでる仁見先生のことも、生ぬるい目で見逃してあげることができるけど、赤間さんはよく、こんなどうしょうもない仁見先生と長年お付き合いしてくれてるよね、赤間さんってホント優しくて大人なひとだなぁ…。
「ねえマナちゃんさ、赤間くんのこと、好きになったりしてないよね?」
「えっ!?」
クールでカッコイイ赤間さんの姿を気持ちよく思い出しているところで、いきなり仁見先生からそう突っ込まれた私は、ドキーーッとしながら仁見先生を見た。
仁見先生は眉間にシワを寄せ、美術品の真贋を見極めようとしている鑑定士みたいな目つきで、じいいぃっと私を見ていた。
「あのねー、マナちゃんくらいの女の子からしたら赤間くんみたいな…パッと見も悪くなくて、ちょっとミステリアスな雰囲気の大人の男って魅力的に思えちゃうかもしれないけど、彼だけは止めときなさいね。
赤間くんは…アブナイ男だからさ」
「危ない男…赤間さんがですか?」
また仁見先生が赤間さんのことをディスり出した…と思った私は、ムッとして仁見先生をキッとにらんだ。
「そうだよ、彼にだけは恋しちゃいけないからね、報われることはないんだから」
「それって、赤間さんにはもう彼女さんがいるからとか、そういう意味ですか?」
「さあー、彼に彼女がいるのかどうかは知らないけど、とにかく赤間くんだけはダメだからね、マナちゃん」
まるでこの私が、悪いオオカミがひそむ森の中へノコノコと遊びに出かけようとしている赤ずきんでもあるかのように、仁見先生はやけに注意深く私へと言い含めた。
納得いかない私は、むーっとふくれっ面をすることで、ささやかな抵抗を試みたんだけども、こっちのことなんか一切気にしない仁見先生に連れだされて、そのまま今夜もうちまで仁見先生の真っ赤な車で送ってもらうこととなった。
せっかくの赤間さんとのふたりの時間を、バッドタイミングでゲーム厨かつ引きこもりな仁見先生がいきなり登場し邪魔してくれる流れになったのは、ちょうどコンビニへ買い物にでも行こうかと上から下りてきたところ、まだ一階の医院の明かりがついていたものだから不思議に思い、中の様子をのぞいてみて、それで私たちと鉢合わせしたからだったらしい。
んもー! まじタイミング悪すぎでしょう!
仁見先生は自炊をしない、お金持ちだから当然なのかもしれないけど、食事はいつも食べに外へ出るか、出前を取るか、買ってくるかの三択だ。
赤間さん…きっと次に会いにきてくれるときも夜なんだろうな。
仁見先生は赤間さんのこと、夜行性だって話していたし、イメージ的にも黒馬に乗った王子様な赤間さんには夜が似合う。
次に赤間さんが来てくれたときは仁見先生にもう邪魔されないよう、ゆっくり引きこもってもらうために仁見先生の晩ごはん問題を解決しておかないとな…そんなことを考えながら私は、仁見先生の運転してくれている車の助手席から、窓の外に広がる夜の景色を眺めていた。
夜の空の下、今ごろ赤間さんはひとり夜道を歩き、そして右手を失った幽霊もまた暗い住宅街の隙間を、闇から闇へと彷徨っているのだろうかと考えながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます