6-2

 

 「いえ、仮に霊媒師など問題解決のためには有効な能力を持った相手であったとしても、これ以上、部外者へ件の幽霊の話をするのはよくないでしょうね。

 なるべくこの話は内密にしておきたい、それは、この地域でささやかれている幽霊話のこれ以上の拡散を抑えるためです。


 たとえ幽霊問題自体が解決したとしても、噂話というものはいつまでもしぶとく残るものですから。

 何やら幽霊が彷徨っていたらしいなどという噂が、いつまでも仁見医院の周辺に蔓延る可能性は避けるべきでしょう。

 大丈夫、霊媒師などいなくとも、私たち二人でこの事件は解決できますよ」



 ああ…この赤間さんの説得力のスゴさよ…。

 にっこり微笑む赤間さんからそう言い切ってもらえると、確かにその通りだと前向きに思う勇気が自分のなかに湧いてくる。

 私は同意を示すために、コクコクと急いでうなずいた。



 「件の幽霊問題を解決するためにはまず、実際の幽霊と接触することが不可欠ですね。

 直接対象に接触することができれば、あとはボコ…いえ、物理的にそしてスムーズに問題を解決することができるでしょう。

 そのための近道はやはり…幽霊が探しているという右手を、先に我々が見つけて確保することかと」



 「えっ、私たちで幽霊の右手を探すってことですか?」



 クールかつ当たり前のことのようにさらさらと赤間さんはそう言うから、そのままつられてウンウンと頷きそうになったところで、ハッと我に返った私は急いで状況を確認する、…幽霊の右手を先に私たちが見つけるって??



 「ええ、それは不可能ではないはずです。

 幽霊の右手が落ちていると推測できる範囲は、おのずと絞られていますから。

 事故があった現場を中心に円を描く範囲、そしておそらくはこの仁見医院の周辺を含めたエリア、幽霊の目撃情報が多いところ…そういった、あらゆる情報を多方面から集めて精査すれば、必ず幽霊の右手は見つかるでしょう」



 「だけど…ええと、見つけるとはいっても、その幽霊の右手っていうのは…たぶん今頃は腐っちゃってるんじゃないかと思うんです。

 どこか近くの見つかりにくい場所に落ちてはいるんでしょうけど、きっと…今ではゾンビの手みたいにシワシワになってて臭ぁーくなっちゃってるんじゃないでしょうか、そんな気持ち悪い手を直視すると、後々トラウマになりそうっていうか…」



 せっかく赤間さんと二人で何かを探すなら、幻の青いバラとかダイヤの原石とか美しい系のものがいいのに、よりにもよってキモチワルイ幽霊の右手だなんて…と思った私がしょんぼりと文句を言う。

 だけど赤間さんは、へこたれない。



 「大丈夫ですよ、そういった不快で面倒な仕事はすべて私が担当します。

 幽霊の右手を発見したら速やかに、トングを使って不透明ゴミ袋に入れますから、マナさんの視界には入りません、ゴミ袋の口をきつく締めれば臭いも漏れないでしょう」



 わぁ~さすが赤間さん、すごい危機管理能力~カッコイイーーッ! めちゃくちゃ気遣いにあふれてるぅ! そして頼りがいのあるイケメンな微笑みぃ!

 なんかもう、赤間さんの言動のすべてがカッコよく思える、やば。



 「最終的な幽霊の処理は私の仕事です。

 ですからマナさんには、幽霊の右手を見つけるための情報収集をお願いしたいのです」


 

 「情報収集、ですか?」



 「ええ、私たちはチームなのですから、お互いに得意な分野でフォローし合いましょう。

 幽霊の右手を見つけるために、マナさんにはご近所の方々から情報収集をしていただきたいのです、それは私にはできない仕事ですから」



 「もっと幽霊の情報を集めたらいいんですね!」



 「ええ」



 なんだろう…なんかものすごくわくわくしてきたぞ、平凡なはずだった私の人生で、赤間さんという黒馬に乗った王子様みたいな人と宝探し(幽霊の右手探し)をすることになるなんて…なんだかロマンチックじゃないですかっ!?


 ほわほわとした幸せな気分につつまれながら、私は赤間さんをみつめる。

 そして赤間さんもまた、私のことを優しくみつめてくれている。


 こういうカンジがいわゆる、いい雰囲気ってやつなのかな…。

 私にもやっとドラマチックな人生の春が訪れたのかもしれない。

 ああ、この二人だけのひとときが永遠に続けばいいのに…。


 …なーんて思っていても、現実はやっぱり甘くない。

 私と赤間さん、ふたりっきりの受付前待合室の中へ、いきなり玄関扉を開けて邪魔者が乱入してきたのだ。


 もう本日の診察は終わったっていうのに、突然やってきた邪魔者は、仁見先生だった。



 「仁見先生」



 仁見先生が突然やってきたせいで、それまでは私だけに集中していた赤間さんの意識が、すぐに入り口に立つ仁見先生へと移ってしまう。

 もーーーっ! いつもはゲームに全集中で頼まれたって上から下りてこない仁見先生が、なんでこんないい雰囲気のときにはフツーに現れたりするの! やってらんないわ!



 「おやおや赤間くん、こんなお早い時間にいらっしゃるとは珍しいねぇ」



 入ってきた仁見先生はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、赤間さんを見てそう嫌味を言った。

 もう時間は19時が近くて、決して世の中的には早い時間じゃないわけだけど、赤間さんがいつも診察にやってくるのは深夜が多いそうだから、わざわざそういう言い方をしているのだ、まったく仁見先生ってば!



 「夜分遅くに失礼致しております、仁見先生。

 先日はお世話になりました、ありがとうございます」



 仁見先生の嫌味は華麗にスルーして、赤間さんは淡々と大人の対応で仁見先生へと挨拶を返した、うーん…さっすがぁカッコイイ!



 「んで赤間くん、今日は何しに来たのかな?

 またどっか怪我してきたんじゃないだろうね? まったくサカリのついた雄猫じゃないんだからさぁー、もっと自重してよねー」



 「おかげさまで体調は良好です、今日はマナさんに先日のお詫びをしに来ただけですよ、ちょうど帰るところです」



 「あっ、なにこれ、お菓子? いいなー私の分は?」



 「それはマナさんにお渡ししたものです、仁見先生の分はありませんよ」


 

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