6 さがしものを見つける方法

 「なんか話の流れがすごいことになってきたんだけど。

 ちょー本筋が脇道に逸れたわ、でもいい、もう怪談とか幽霊とかどうでもいい、マナ、あんた…その赤間さんのこと、好きになったんでしょう?

 それでそのあとどうなったの? 赤間さんとはどこまでいったの? ちゃんと告ったの?」



 いつも冷静沈着なはずのマキのテンションが爆上がりしている。

 クールそうに見えて意外とマキは他人の恋愛話が大好物だったりする。



 「ちょっと待ってよ、あくまで私がいま話しているのは私が体験した幽霊話であって、恋愛話がメインじゃないんですー。

 赤間さんのことはこれからいろいろ出てくるから、ちゃんと順番に話させてよ」



 まったく、お酒を飲みながらイイカンジに酔っぱらって楽しく話しているこの雰囲気がサイコーなんだから、すぐに結論だけを知りたがるのはやめてほしい。

 マキってば、これから映画館で観ようってときですらストーリーのオチを最初に知りたがるからやんなっちゃう。


 催促の押しがうざいマキを無視して、私は話の続きを順番通りに語り出す。


 あなたが信じるなら、私もまた信じます…という甘い言葉にほだされて、私はこれまでにあった幽霊話の全部を赤間さんへ打ち明けていた。


 赤間さんには不思議な魅力があって、私にささやいてくれた言葉の通りに、どんなに子供っぽい内容の与太話を私が口にしたとしても、赤間さんだったら決して(仁見先生のように)バカにしたりなんかしない、一緒になって噂の真偽を真面目に考えてくれるだろうと私を信じさせ、安心させてくれる絶対的な包容力を持っていた。


 赤間さんは寡黙なタイプの人であり(仁見先生のような)無駄口などはほとんどせず、おおむね要点しか話さないけれど、彼が話すひとことはいつだって真摯さと説得力があり、私はそんな彼が口にする言葉を、その声を聞くのが好きだった。


 …おっと、話が赤間さん個人の方へと脱線しすぎちゃいそうなので、まずは近所の幽霊騒動についての噂話を聞き終わった赤間さんのリアクションから順番に話していこう。


 金曜の夜に初対面の赤間さんへ伯方の塩を一袋ぶっかけることになった経緯の説明とあわせて、私の幽霊話を最後まで聞いた赤間さんは、考え込むように一度目を伏せると、穏やかなイケメン声でしゃべり出した。



 「そうですか…マナさんはこれまでお一人で悩みを抱えて、心細い思いをされていたんですね。

 診療以外で仁見先生が役に立たないというマナさんの意見はもっともです。

 幽霊か…なるほど、しかしすべてマナさん一人で解決しようとされていたとは…」



 ああ…イケメンが私を心配してくれている、優しいなぁ…とか赤間さんの声を聞きながらそのイケてる顔面を見てぼんやりしていたら、それまで伏せていた目をサッと上げて彼が私の目をまっすぐ見てきたものだから、ドキーッと心臓が縮む。

 


 「ではこうしましょう、マナさんの幽霊退治に私も同行することにします。

 二人で幽霊騒動を解決すれば、ご近所の平和も、マナさんのおばあさまの雇用も守られ、仁見先生は無職にならなくて済みます」



 ああ…当たり前のように私が話したことを受け入れてくれる赤間さんの心の広さ…その信頼できる眼差し…さっきから地味に仁見先生への嫌味が込められているそのクールボイス、ぜんぶがカッコイイ…。


 …んっ、ていうか…いま赤間さん、なんて言った?

 幽霊退治を…私といっしょにやる…って、そう言ったの?? マジ??



 「あっ、ちょ…ちょっとお待ちください赤間さん、ほんとうに幽霊の噂話のこと信じてくれるんですか? 話しておいて自分で言うのもなんですが、この近辺に失くした右手を探して彷徨う幽霊が出るなんて…マユツバすぎません?

 赤間さんのような大人のひとが聞いたら、バカっぽい話だなって思うのも当然というか…あっもしかして赤間さんって霊感持ってる方とかなんですか? それですぐ信じてくれてるとか?」



 「いえ、私にはこれといって特別な力などありません。

 しかし生きているうえで不思議な出来事に遭遇した経験は何度かあります。

 つまり私が言いたいのは、分かりやすい根拠や理屈が不明であっても、今ここに問題を含んだ事象が発生しているのであれば、ただ円滑にその解決を求めればいいだけだということです。

 そしてその解決方法もまた、問題が解決さえするのであれば根拠や理屈に明確な道筋など不要なのです」



 …?? キリッとしたカッコイイ顔で赤間さんが話してくれているその意味が、私にはよくわからなかった。

 それってつまり、どういうこと??


 このとき私はよっぽどマヌケなぽかん顔をしていたんだろうと思う、赤間さんはにっこり微笑むと分かりやすく言い直してくれた。



 「一番大切なのは、もうマナさんが幽霊に関することで不安な思いをしないように解決するという部分です。

 二人で幽霊をやっつけることができれば、現時点での問題はすべて解決可能となります」



 「はい、でも…どうやって例の幽霊をやっつければいいんでしょうか…。

 私、夜の院内に現れる謎の存在…赤間さんのことを幽霊だと思っていたものですから、待ち伏せのうえセルフ除霊で倒してやろうと思ってたんですけど、真のターゲットが夜とか昼間とかランダムに外に現れる幽霊だと、これから先…倒すためのつかみどころが無いっていうか…。

 こうなったらもう、だれかプロの霊能者の人とかに頼んでプロ除霊をしてもらった方がいいんでしょうか…」



 わーー! 二人でいっしょに幽霊をやっつけましょうだってーー!!

 こんなカッコイイ人とチームを組んで幽霊退治するとか、わくわくドキドキものすぎてヤバイでしょーー!! ファンタジーが炸裂するわ!!

 …なんて、そのとき私の心の中は、狂喜乱舞で大騒ぎだったんだけど、必死に平静を装って(バカみたいに騒いで頭のわるい子だと思われたくなかったし)そう質問をすると、頼りがいのある赤間さんはクールに即答してくれる。

 

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