3 幽霊はここにいる
「あんたそれ、極端すぎじゃない?」
ここまでの私の話を聞いたマキは、眉間にシワをよせ、そのように感想を述べた。
そうね、私もあの頃の私は無鉄砲で若かったと思う、今も若いけど。
「マジのヤバい不審者が勝手に夜のうちに不法侵入してたんならどうすんのよ、まだ未遂であっても強盗の下見ってことでさぁ、そいつと鉢合わせなんかしたら下手すりゃ殺されるかもだよ、ていうかそんな話はじめて聞いたんだけど。
そんなことがあったんなら、どうしてそのとき私に話してくれなかったの?」
「ありがと、ごめん、いやだってその頃マキさ、留学してたじゃん。
マキも遠くにいて忙しかったし、この話ってちょっと勤め先の守秘義務ってのに触れちゃってる感があったから、私ひとりの胸に秘めて、ひとりで謎を解決しなければならないって思ってたのよ、そういう考えは今思うと幼稚だったよねぇ、そこには単純な好奇心もあったわけだけど」
マキの言うとおりだった。
女ひとりで原因追求のため夜の医院に張り込みかけて、それでもし異変を起こしていた原因がガチで不審者の侵入であったなら、犯人と鉢合わせしちゃった場合、何されてたか分からない。
だけど当時の私に、そういう危機感はまったくなかった。
なにせ医院があるのは私が生まれ育った地元、そこは治安のいいところだったし、怖い目になんかこれまで遭ったことがない、なんだかんだで無意識の中でも心の底では安心感が私にはあった。
取り返しのつかないくらいに恐ろしいことや悪いことが、仁見先生の医院や、この私の身には現実として襲い掛からないだろうという、根拠のない、それでいて絶対的な確信が私の心の根底にはあった。
てゆうか…まあ、はっきり言っちゃうと、私はその異変の数々は、幽霊の仕業だと思ってたんだよね。
夜の間に院内で起きる異変は、いわゆるポルターガイスト的な、なんかそういう理由のやつだと思っていたのですよ。
だからこそ自分ひとりで張り込みしないと、幽霊のヤローは逃げやがると考えたんだよね、集団でざわつきながら待機してたら引っ込み思案な幽霊は出るに出られなくなるでしょ? 知らんけど。
とにかく当時の私は、せっかく片付けたものを夜のあいだにさりげなく散らかす幽霊に腹を立てつつ、これまで霊感らしきものなどまったくなく平凡に生きてきた私にも、ついに幽霊を目撃するチャンスがやってきたのかもしれないというわくわく感でいっぱいだったのだ。
そういったわけで私は、とある法則から、この日の夜に幽霊が現れるかもしれないと目星をつけ、仕事終わりにさっそく張り込みを開始したのである。
あ、ちなみにね、私が、夜の閉ざされた院内へ勝手に入り込んで散らかしていきやがる異変の犯人が、生身を持った人間の不審者ではなく、速攻でこれは幽霊の仕業に違いないと判断したのには、地元ならではの楽観的な安心感の他にも、ちゃんと理由があるんだよ。
これちゃんと話しとかないと、またマキが私のこと、おまぬけだと思って心配しちゃうから、張り込みをかけた夜の出来事の話をする前に、以前からあったご近所での幽霊話について説明しておこう。
実は、夜の院内での異変が起きる前からご近所では、ぽつぽつと幽霊話が持ち上がっていたのだ。
仁見先生の眼科は常連の患者さんばかりで、しかもご近所の人たちときてるから、まあ皆さん受付係の私に対して気軽におしゃべりをしてくれるわけですよ。
その内容はだいたい他愛のないもので挨拶代わりの会話なんだけど、あるときから自然に幽霊話が出てくるようになったんだ。
噂話って、別の人の口からそれぞれ似たカンジの内容の話題が出てくると、信憑性が増すと思わない?
それらがどんな内容の幽霊話だったかっていうとね…。
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