第21話
悠人はついに決断した。
(彩ちゃんにすべてを打ち明けて自分の気持ちを伝えよう)
悠人は2年生の3月いっぱいで新聞配達を辞めることにしていた。
これを機会に『マシュウおじさん』としての最後の手紙を書いて自分が『マシュウおじさん』であることを告白しよう。
直接言うことはどうしても言えそうにないので手紙に託すことにした。
悠人は、それまで『アン』からもらった手紙を読み返してみた。
新聞配達は『自分を変えたい』と自分で決めたことだったが、正直、毎朝の4時起きは辛かった。
授業中に眠くて耐えられないことも度々あった。
辞めようかと思ったことは数知れない。
そんな時に、『アン』からの思いがけない手紙で、新聞配達への感謝の言葉が綴られていて、どんなに励みになったことか。
『マシュウおじさん』になって返事を書く自分はワクワクしていた。
それに恥じないように頑張ろうとも思えた。
『アン』は『マシュウおじさん』のおかげで頑張れてると言ってくれたが、それ以上に悠人は、励まされ、頑張る原動力になった。
『マシュウおじさん』に終止符を打つのは、淋しい気もしたが、彩をこれ以上だましておくことはできなかった。
彩からバレンタインチョコをもらっているのでホワイトデーに手紙と一緒に何かをお返ししようと決めた。
すぐに思いついたのは、自転車の鍵につけていたキーホルダーが無くなったと言っていたので、キーホルダーがいいのではないかと思った。
悠人は部活が終わると、市立図書館の隣にある『シュシュ』という雑貨屋に行ってみた。
すると、彩が好きだと言っていた猫のキーホルダーがちょうどあった。
手に取ってみると、実に可愛い。
(これなら彩ちゃんにぴったりだ)
手作りチョコをくれたのだから、これだけでは物足りないと思っていたら、ちょうど近くにふわふわの柔らかい質感のハンカチがあった。
オーガニックコットンと書かれていて肌触りもよい。
おまけに猫の絵が刺繍してありイニシャル入りだった。
悠人は迷わずAのイニシャル入りを選んだ。
これなら『アン』でも『彩』でもどちらにしてもいい。
悠人は、まるで彩のためにある気がして、そのハンカチとキーホルダーをプレゼントすることにした。
プレゼントが決まると悠人は少し安心した。
そして何日も考えて『マシュウおじさん』としての『アン』への最後の手紙と、悠人としての『彩』への初めての手紙を書き上げたのだった。
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