第16話
10月1日、地区代表が集まり県大会が行われた。
会場は地区大会とは違った緊張感が流れていたが、美玖は怖気づくこともなく堂々とやり切っていた。
一方、彩は参加者の誰もがプロのアナウンサーかと思うほどのレベルの高さに圧倒されながらも、精いっぱい彩なりに力を出し切って頑張った。
結果、美玖は代表に選ばれ見事、全国大会の切符を手に入れた。
彩は惜しくも選ばれなかったが、良い体験ができたと思っていた。
何より、美玖が選ばれたことが自分のことのように嬉しく、美玖と抱き合って喜んだ。
そんな地区大会の日のことを『マシュウおじさん』に手紙で報告した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
放送部の大きなイベントであるNHL杯全国高校放送コンテストも終わり、日々の活動はお昼の放送のみとなった。
そんなある日のこと、部活が終わると美玖が用事があると早々と帰って行ったので、彩は部室を後にして一人駐輪場に向かうと、悠人も同じようにやってきた。
帰る方向が一緒なので、自転車を押しながら自然に二人並んで歩き始めた。
悠人は彩の自転車の鍵に赤いリボンがつけてあるのに気づき
「彩ちゃん、キーホルダー結局見つからなかったんだ」と言った。
「そうなんです。家も探してみたけどなかったんです。学校の落とし物にもなかったし、新しいキーホルダーを買おうと思ったけどこの赤いリボンでいいかって、結局このまま」と残念そうに言った。
「鍵がなくなったんじゃなくて良かったね」と言いながら、心の中でいつかバイトのお金で彩ちゃんにキーホルダーをプレゼントしたいなと思っていた。
帰りの道でも話が弾んだ。
途中、彩に
「中学では部活は何してたんですか?」と質問され、一瞬迷ったが
「……俺?……まじめな帰宅部だったよ」と答えた。
「えっ!?」彩が驚いたような顔をして悠人を見上げるのでまずいことを言ったかなと思いながらも、彩には本当のことが言えそうな気がして、正直にすべてを話した。
「ウソって言いたいけど半分はほんと。俺は小さい頃から走るの得意で中学では陸上部に入ってたんだ。走っていると無心になれて面白かったな。でも2年の時、事故しちゃって後遺症が残って歩くことは出来るようになったけど走るのが無理になって結局辞めちゃった。走るのが全てだったから、目標を失くして、なんかあの後何にもする気になれなくて……。俺の人生、終わったって思って。辛かったなぁ」
悠人は、その頃の何もかも嫌になって、自暴自棄になっていた自分を思い出すのだった。
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