第12話

 ここは海。

夏休みに入ったある日、放送部の部員みんなの慰労と親睦を兼ねて海に来ていた。

この日ばかりは日頃の放送部の活動のことは忘れて、みんな海を楽しんでいた。

悠人は、彩の水着姿にドキッとして目のやり場に困りながらも心のどこかでこの機会に彩ともっと仲良くなれないかと思っていた。

が、彩の心は部長に向いていると思うと辛かった。

悠人は自分の気持ちをうまく整理できないまま、海の上でボートに乗ってぷかぷか波に任せて浮かんでいる美玖と彩の所に亮とともに行くと


「俺達も乗せてよ」

と言って返事も待たず、強引に乗り込んだ。


「きゃあ、ひっくり返っちゃうよ」

と慌てる彩の腕に悠人は触れてしまい、ドキッとした。

4人を乗せたボートの密着度は半端ない。

その時、悠人は急に照れくさいのと悪戯心が芽生え、隣にいる彩を海に突き落としてしまった。

そんな悠人を見て、今度は美玖が悠人と亮を思い切り押して海に突き落としたのだった。

彩が必死にもがいて海面から顔を出したときにボートの中には美玖しかおらず

「彩の仇はとったよ」と美玖は得意顔だった。


慌てて海面から顔を出した悠人は

「ごめん、ごめん」と誤ったが

「もう、死ぬかと思ったんだから」と彩は怒って美玖と遠くへ行ってしまった。


悠人は

「やっちゃった」と苦笑い。

亮も呆れ顔だった。


そんな時、亮から思いがけないことを聞かされた。


「部長って副部長の由紀先輩と付き合ってるらしいぞ」


「えっ!? そうなのか」


「ユートはそういうの疎いからな。多分他の部員はみんな知ってる」と亮。


「ふ~ん」悠人は何でもないよう答えたが内心穏やかではなかった。


(ということは彩ちゃんの想いは実らなかったのか)

(ショックを受けてるかな?)


そんな風に考えていると、亮がおもむろに

「チャンス到来だな」と言ってきた。


「えっ!?」悠人は驚いた。


「彩ちゃんの事、気になってるんだろ?ユート見てたらわかるよ。前に、彩ちゃんは部長が好きみたいってしょげてたし」

図星だった悠人は返答にうろたえてしまった。


(そうか、亮にはバレバレだったか……)

(亮の言う通り、チャンス到来か?)

そう思いながらも、複雑な心境の悠人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る