第13話

 大会を目前に控えたある日のこと。

部室にひとり残ってアナウンスの練習をしてる彩のことを知った悠人は、彩に冷たい飲み物でも差し入れしようと部室を訪れた。


部室の入口を背にして、一生懸命練習している彩の姿を認めると、悠人の心はなぜかジーンとするのだった。


夢中で練習する彩の背後からそっと近づくと彩の右頬に冷たいミルクティーのペットボトルを当ててみた。

「きゃあ、冷たい!」

彩が驚いて振り返った。

(カワイイ!!)

驚かしたつもりが悠人の方がドキッとしてしまった。


自分の心を見透かされないように、平常心を装って

「調子はどう?少し休んだら」と言ってペットボトルを差し出した。


「あ、ありがとうございます」と言いながらペットボトルを受け取ると、彩は早速一口飲み、美味しそうに微笑んだ。


「『ラジオドラマ』の方は仕上がったんですか?」と彩に聞かれた悠人は


「もう完璧、あとは大会を待つだけだ」と余裕を見せた。


それに対して自信のなさそうな彩だったが、原稿を見せてもらうと至る所にマーカーなどを引いて注意点を走り書きしていて練習の成果が見えるようだった。

感心した悠人は

「何なら今から俺の前でアナウンスしてみてよ。本番だと思って」と提案してみた。

「えぇ~、恥ずかしいですよ」という彩に

「何言ってるの、本番は他校の生徒や審査員の前でアナウンスするんだよ。俺ひとりの前でビビってる場合じゃないよ」とはっぱをかけるのだった。


悠人の前でアナウンスする彩は、最初の頃と比べると、見違えるように上達していた。

「しいて言うならもっと自信をもって笑顔を忘れないで」と悠人はアドバイスするのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る