第3話
悠人が新聞配達を始めたきっかけは、新聞販売店がすぐ隣りだったこともあるが、それよりも一番の理由は「今の自分を変えたい!」という思いがあったからだ。
何しろ、中学校2年生になったばかりのある日を境に、悠人は何をする気にもなれず、ただ茫然と日々を送っていた時期があったのだった。
そうあの事故を境に……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
悠人は中学生になると迷わず陸上部に入った。
まぁ、小さい時から走るのが好きだったことが大きな理由だ。
競技の種目を選ぶ時は、基本的に本人の希望が尊重されるが、朝日中学では、入部後に基礎体力を確認するため、50m走、200m走、1500m走、走り幅跳び、走高跳び、ハンドボール投げの記録を測り、その結果をもとに、顧問の先生と一緒に種目を決めていた。
そしてその結果、長距離を選んだのだった。
陸上は「1秒でも早く、1㎝でも高く、1㎝でも遠くへ」を競うスポーツで、試合の結果が時間や距離といった「数字」で出るため努力の成果を客観的に確認できる、すべて「数字」で評価される、それが悠人は面白いと思った。
結果を誤魔化すことができないシビアなスポーツで、目標を決めて、コツコツ練習することでいづれ結果はついてくる。
日々の練習は走り込みや、反復練習の繰り返しで、たまには嫌になることもあるが、試合でベスト記録が出ると、今までの努力が報われたようで最高の充実感を得ることができた。
悠人は、次第に長距離の魅力にハマっていった。
一人で黙々と走っていると、爽快であり、少しづつ記録が伸びていくのを体感するのが醍醐味でもあった。
一年生でありながら、試合では好成績を残し、次第に将来が有望とも言われるようになっていた。
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